8.1. 組織進化論
ハワ ード ・E・オ ルド リッ チの 著書に 、『 組織 進化 論 企業の ライフ サイ クル を探る 』
(Aldrich,H.E.,若林直樹・高瀬武典・岸田民樹・坂野友昭・稲垣京輔(共訳))がある。
若林は、訳者代表として、上掲書の「あとがき」を書いている。筆者が着目する企業組織内 に生まれる「群れ」に関連する部分を抜粋すれば、次のような内容になる。「本書は進化を 主題に、企業を中心としつつ現代組織が発生、進化し、群れをつくり、組織社会を構成する ダイナミックなプロセスを描く近年の組織論の代表作である。(中略)訳者たちは、彼(オ ルドリッチ)の組織進化についての幅広い議論に次のような三つの意義を感じ、日本に紹 介したいと考えるようになった。まず、進化というマクロな視点を組み込みながら『組織 社会』において、組織の創業から社会への進化の全体を描くという議論の壮大さとダイナ ミズムそして新鮮さである。これまでの組織に関する議論は、著者の指摘のように 1 つ 1 つのベンチャーや大企業の発展を描くものが組織の議論の中心だった。けれども、本書は、
産業やクラスター、全体の組織社会への動きを描く壮大なマクロ組織論的な独自の視点を 切り開いた。(中略)第二に、新規創業した企業や非営利組織などが1つの『群れ』へと成 長していく過程を描いている点である。創業から相似の企業、非営利企 業が群生し、そし て産業、クラスター、集積へと発達していく過程を描いている点である。(中略)第 三に、
そうした発達を(中略)『進化』というメカニズムで描いていることである。そこでは、複 数の組織が生まれた世代の問題、(組織が)年をとること、そして生きている時代から影響 を受けながら、『群れ』として進化していく過程を描いている。(中略)とくに、彼の進化論 の持つ意義は、単純な優勝劣敗主義的進化論者たちと違い、『優れた』ベンチャー、大企業 や非営利組織の生存淘汰だけではなく、群れとしての共進化を論ずる(こと?)である。
(2007 年 2 月 訳者を代表して 若林直樹)」(Aldrich,H.E.,若林共訳,2007 年,pp445
~447,以下オルドリッチと記述する)
ちなみに、「共進化」とは、「複数の種が互いに生存や繁殖に影響を及ぼし合いながら進 化する現象。昆虫とそれによって花粉を媒介される植物、捕食者と被食者、寄生者と宿主 などに見られる」。(広辞苑第 7 版)ことを意味する。組織の進化とは、ある組織が生み出 した成功を受け継いで、他の組織が成功するのではなく、複数の組織が相争っていずれか が勝利を収めるのでもない。ある分野そして複数の分 野の多数の組織たちが相互に影響を
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与えながらともに進化することをオルドリッチは述べようとしている。
企業組織内に生まれる「群れ」を研究する筆者は、「あとがき」の中の「複数の組織が、
『群れ』として進化していく、そして共進化しようとする」という表現に着目した。企業組 織内に生まれる「群れ」は、ただ一つの「群れ」がその影響力を高めることもあるだろう が、「群れ」が相互に影響を及ぼし合いながら、変容し、合体し、進化し、あるいは消滅し、
企業の繁栄や衰亡からの脱却に資する動きをするのが最善である。しかし、「群れ」はヒト の集団であり、ヒトには、それぞれが自身の利益を期待し、それぞれが「権力」を求め、「群 れ」の並存や相克が生じたときは、ヒト自らが属する「群れ」を企業組織のためにではな く、「群れの(利益の)ための群れ」にしてしまいがちな逃れ難い本性がある。そのため、
オルドリッチが述べようとしている共進化は、優れたヒト、優れた「群れ」、そして「群れ」
を統御することが出来る優れた企業組織、そのように優れた企業組織を動かす優れた TMT が共存しなければ共進化は困難かもしれない。
8.2. 組織個体群と「群れ」の相似
企業組織の中に生まれる「群れ」と組織の「群れ」(組織個体群)の二つを共に考えると き、筆者の頭のなかでは、次のような考えが展開する。
1.企業組織は「創業者」が形成・創設に着手する。
2.企業組織内に生まれる「群れ」はヒトが(共通概念を最初に主張したコア ・メンバー が)形成に着手する。
3.企業組織は創成期においては、資本も人材も、そしてその他すべての資源にわたって 不十分な、そして不安定な組織である。
4.それでは企業組織内に生まれる「群れ」はどのようであるかといえば、「前組織的段階」
にあり「境界」が明確ではない「不安定な集団」である。
5.組織は環境や競争のための「変異」を認識し、「変異」を「選択」し、適合的なものは
「保持」し、進化しながら他の組織と「生存闘争」を展開する。
6.企業組織内に生まれる「群れ」は、企業組織内で置かれる位置に応じて変容し、ときに は組織化され、進化して影響力を高め、またあるときには解体、消滅する。
7.個々の組織(組織個体)は「群」を形成し、「組織個体群」となり、相互に影響力を及 ぼし合いながら進化し、ときには消滅する。
8.企業組織内に生まれる「群れ」は、あるとき企業組織の政策や統御によって「組織化」
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され、「群れ」同士が合体し、「群れのための群れ」になるなど、変容、進化し、ときには 消滅する。
9.組織個体群、また規模を拡大したり組織化された「群れ」は安定を得るように思える が、実はいずれも不安定を脱することはできない。
10.「組織」は「進化」のプロセスを停止し、極端な場合には「退化」するときに、ほとん どの組織は消滅を余儀なくされる。
11.企業組織内に生まれる「群れ」も企業組織の繁栄や衰亡からの脱却に役立つという役 割を失ったとき、また当初の共通目的を達成したとき、そして本来の役割を失って「群 れの(利益の)ための群れ」となってしまったときなどには消滅することがある。
上記のように考えをめぐらすとき、「組織個体群」と企業組織内に生まれる「群れ」の「一 生」は良く似ている。
重要なのは、変化や変異を認知できず、変異の内容や軽重そして特質を選択できず、常 に受入れやすいことのみを受け入れ、変異を楽観的に、そして独善的に解釈し続けるなら ば、変異の正しい選択と保持が出来なくなり、周囲に目を向けずに「我が道」を進む組織は 他の組織との共存、競争に勝つことが出来なくなることである。また変異が「群れ」の「形 成」など、企業組織内にとどまることがらであっても、「変異」の 認知、「選択」、「保持」な どの統御を失った企業組織は同様に衰亡に向かうと考えられることである。
8.3. 大倉商事
筆者が長く在籍した大倉商事は、企業組織内に「群れ」が出現したが、大倉商事という
「組織」は、社内外の環境の「変異」に対応する(「(取捨)選択」する)ことができず、保 つべき「変異」を「保持」できず、改めるべき組織風土を改めようとせず、楽観的、独善的 な経営を行った。また、「大倉商事は潰れない」という根拠のない自信を持ち続けた。その ため、同社は、企業間の生存競争に勝つことが出来ず消滅したのである。そして、大倉商事 に生まれた「群れ」も、長期的な視野で眺めた同社の進化と繁栄、またはさし迫った衰亡か らの脱却のための的確な提言を行うことができず、企業組織に有益な影響力を及ぼすこと はできなかったのである。大倉商事の「群れ」については、本章の他、第12章(リーダー シップから見る「群れ」)においても触れることとする。
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8.4. オルドリッチの組織進化論
以 下 に 、 オ ル ド リ ッ チ の 『 組 織 進 化 論 企 業 の ラ イ フ サ イ ク ル を 探 る 』( オ ル ド リ ッ チ,2007年)を、分析し、考察し、ときには批判的に考察していきたい。
オルドリッチは、1979年に『組織と環境』を著しているが、その後も組織変動をめぐる 諸問題に対する探求の枠組みを探し求めている。そし て上掲書では、進化論アプローチを 用いて、進化する組織の変化を生み出す「変異」、「選択」、「保持」そして「生存競争」の過 程に関心を向け、複数の組織から構成される「組織個体群」や「組織コミュニティ」につい て述べている。
8.4.1. 組織個体群
「組織個体群」とは、「産業や地域などのように共通の傾向を持つ複数の組織の集合体」
である。また、「組織コミュニティ」は、「複数の共生する組織個体群を含む集合体」であ る。(オルドリッチ,2007 年,p1)そして進化の過程とは、「①組織が「変異」し、②環境や 競争のために、希少価値をめぐってその「変異」が「選択」され、③適合的なものが生き残 る「保持」が起こり、④そして「生存闘争」が展開するという形で進む」(オルドリッチ,2007 年,p3)というのである。
8.4.2. 組織
それでは組織とは何であろうか。「目的志向」、「境界維持」、「人間行動または活動」の3 つの次元から社会的に構築されたシステムであり、その内容は次のようなものである。
先ず組織は、目的志向的であり、共通の目的に対して構成員が協力して行う共同行動つ まり集合的行為を持つという点で、友人の集まりや、ゲームの観衆、大衆のような他の社 会的単位から区別されるものである。
筆者がいう、企業組織内に生まれる「群れ」は、企業組織の繁栄または衰亡からの脱却の ために企業組織のために最善と確信する提言を行おうとするものであり、共通概念 (共通 目的)を持っている。共通概念はコア・メンバーが最初に主張し、共通概念に共感し、同調 し、協働しようとするものたちが自律的に「群れ」を形成する。その意味では「群れ」も目 的志向的であり、まだ「組織」ではない「集団」であるが、単なる集合体ではない。
次に組織は、創設する場合に、組織のメンバーとメンバーではないものたちとの間を区