• 検索結果がありません。

終 章

ドキュメント内 韓国における財政分権改革の研究 (ページ 141-145)

本論文は、韓国の廬武鉉政権期に行われた財政分権改革について財政分権の全般的な状 況と、福祉財政の現状を中心に考察を行った。まず、韓国の地方歳入・歳出構造の特徴を 整理し、韓国の財政分権の現段階での評価を試みた。次に、地方福祉財政に直接に関わる 移転財源制度について、現行制度に至るまでの改革過程を述べ、制度成立以降の地方交付 税制度と国庫補助金制度それぞれの仕組みと福祉財源としての面を考察してきた。

本論文において議論の対象を廬武鉉政権期に絞ったのは、それが韓国において地方分権 に本格的に取り組み、少子高齢化対策をはじめとする福祉財政を積極的に推進した初の政 権だったからである。当時の韓国は、福祉レジームの観点からみると、脱商品化、脱家族 化とも進まない家族主義レジームの典型例であった。また、1991年に地方自治制度が復活 したばかりで、地方分権も十分な歴史をもっていない段階であった。すなわち、社会福祉 と地方分権の両方とも後発国家であったとも言える。1998 年に成立した金大中政権は、

OECD

の加入直後に発生した

1997

年のアジア金融危機の影響による大規模の経済危機か ら回復したばかりであった。この時は、IMF から新自由主義的な経済構造改革を強要され ながらも、むしろ「生産的福祉」の名の下で皆保険をはじめとする社会保障制度の拡大を 行ったことが評価できる。言い換えれば、普遍的な社会保障制度の基盤が初めて成立した のである。

それを受け継いだ廬武鉉政権は、地方自治団体による福祉施設建設の拡大をはじめとす る福祉インフラ整備への投資を強化した「参与福祉」政策を推進した。特に、推進戦略の うち、福祉における国家の役割の強調と地方自治団体および地域社会の福祉力強化という 項目は、政府間財政移転制度を通じて地方自治団体の社会福祉財源保障を強化する方向で 具体化され、それは中央政府、つまり国の政策意図を反映しやすい国庫補助金制度の拡大 支援に繋がった。廬武鉉政権は、地方分権の面でも、長年固着してきた地方財政制度の本 格的改革に政権初期から取り組んだ。それは、同時期に日本で行われた「三位一体の改革」、 すなわち国と地方公共団体の行財政を結びつける地方税,地方交付税及び国庫補助負担金 の改革との間接的な比較も可能がある。しかし、同じく少子高齢化対策と地方分権を課題 とした改革であるにもかかわらず、韓国の財政分権改革は政府間財政移転制度の改革を優 先的に行い、自主財源の全面的な改革を先送りする結果となった。財政改革を推進する際、

地方分権と国家均衡発展を同時に目指した結果、当初の税源移譲による課税自主権の強化 の方向よりも、既存の国主導の集権的な財政制度の維持を前提とする形で改革が行われた。

日本の改革が財政分権より財政再建にフォーカスを当てたとはいえ、移転財源である国庫

142

補助負担金と地方交付税の縮小と同時に税源移譲による自主財源の増加という面を含んで いたのとは正反対の方向で、改革が行われたのである。

本論文の課題は、第1に、財政分権の形態として、あるいはその段階として廬武鉉政権 の財政分権改革を評価すること、第2に、財政分権改革において主な対象となった移転財 源である国庫補助金、地方交付税、そしてそこに含まれる分権交付税による地方福祉財源 保障の実態と課題を明らかにすることであった。

まず、財政分権の形態と段階としての評価について。廬武鉉政権が成立した当初掲げた

「地方分権ロードマップ」の「財政・税制改革ロードマップ」では、課税自主権強化と税 源移譲が明記されていた。OECD のいう「裁量権が与えられた地方税」すなわち韓国の地 方自治団体に認められている課税自主権としては、「弾力税率」が存在する。ただし、実際 には弾力税率の適用には制限が設けられており、また地方自治団体の側も積極的な活用へ の動因ができていないまま、有名無実の制度となっている。また、唯一の税源移譲といえ る地方消費税の創設も、国税である付加価値税の一部を移譲しただけであり、政権が終わ った後の 2010 年に正式導入された。しかし、地方消費税の仕組みは国税である付加価値税 と連動しており、国が配分権限をもっていることから、地方の課税自主権強化からは程遠 い。

また、地方税と並ぶ自主財源として地方歳入予算の3割を占める税外収入においては、

韓国の国内基準により繰越金と純歳計剰余金が臨時的収入として含まれている。それらの 項目を除いた国際基準でみれば、税外収入は歳入の 18~19%にとどまる。そのため、名目 上は地方歳入予算のうち自主財源が 60%台を占めているが、国際基準で表した純粋な自主 財源の比重は 50%台半ばまで低下する。言い換えれば、自主財源の本格的な改革はなされ ておらず、その規模も過大計上されていることが明らかになった。

特に、地方税の面では、所得税を始めとして本格的な地方税収拡大策が打ち出されず、

自主財源の改革が不振であるなかで、地方自治団体の財政自立度はむしろ低下していく。

このような状況下で、さらなる少子高齢化による地方福祉財政需要の急増に対応するため には、移転財源の増加により多く頼るしかない状況に陥った。これは、地方分権の理論と しては、「歳入・歳出の分権」よりむしろ「歳出の分散」に近い形で改革がなされたという 限界をもつのである。

次に、政府間財政移転制度の社会福祉財源保障の面における評価について。2005年に行 われた政府間財政移転制度の改革は、国庫補助金制度の整備、すなわち①包括的補助金と しての分権交付税の新設、②地方譲与金の廃止および③既存の国庫補助金を一部分離した 国家均衡発展特別会計の新設をその内容としていた。ただし、この改革以降も、既存の普

143

通交付税と国庫補助金制度は地方の社会福祉財源として不動の地位を占めしている。本論 文は、2005年の改革が、国庫補助金という特定財源に偏っている移転財源をより一般財源 に近づけ、あるいは、包括補助金化して、より地方財政の自律性を上げる方向へ進んだこ とを明らかにした。

財政調整制度としての地方交付税による社会福祉財源保障についてみると、まず普通交 付税は、最も地方自治団体の自由裁量が保障される一般財源として存在するため、地方の ニーズに合う社会福祉財源としての活用が期待された。特に、基準財政需要額の算定にお いて、社会福祉費の比重を急増させるとともに、法定交付税率を3度にわたって引き上げ るなど、金大中政権と廬武鉉政権が財源規模の増加にも積極的に挑んだことは評価される。

ただし本論文では、それでも急増している社会福祉需要に普通交付税が十分に対応しきれ ない点および、地方の社会福祉需要を、実際に透明性をもって把握するのが難しいという 限界をもっていることを指摘した。

また、地方交付税制度内に新設された分権交付税は、政府間財政移転制度の改革のうち、

地方の社会保障財源の確保のため誕生した制度として最も意義がある。この制度は、財源 の

7

割が福祉事業に特化されたものであり、本来は既存の国庫補助で行われる事業の一部 を地方移譲し、それを一般財源である地方交付税内の分権交付税で財源保障するという実 験的な移転財源改革を行ったことも、欠かせない特徴である。これは、使途制限が緩い包 括補助金および

Top Down

形式の予算制度を導入し、地方の財政自律性の増大に繋がった と評価できる。すなわち、国の事業を地方に移譲する、かつ、一般財源制度のなかへ移す という意味で地方分権的な要素が強調されると同時に、福祉財源としてほぼ特化されたと いう面では、まさに廬武鉉政権の国政目標であった地方分権と参与福祉の「二兎を追う」

象徴性を持っていた。ただし、分権交付税は国庫補助事業に由来する制度であるため、地 方費負担を伴うという根本的な限界をもち、さらに、国庫補助事業の平均的な地方費負担 を上回る負担を伴うこともあり、地方自治団体側の財政負担を加重させる問題を抱えてい る。なお、李明博政権期になると制度改革の引き継ぎが円滑になされないまま、一般財源 内の事実上の特定財源として使われているという制度の曖昧さが指摘されるようになった。

以上のように、廬武鉉政権の財政分権と福祉財政の両方を総合的にみると、根本的な地 方の自主財源拡大には至らず、移転財源の拡大および予算編成における制限的な自律性の 増大にとどまっている。国庫補助金を中心とした移転財源による社会福祉財源確保が地方 財政の中央集権的要素を強化する傾向をもつのに対して、政府間財政移転制度という枠の なかで制限つきながらも財政上の自律性を高めようとしたハイブリッドな制度運営と福祉 事業の地方移譲を行ったという面で、廬武鉉政権は最小限の成果は上げたと評価できる。

ドキュメント内 韓国における財政分権改革の研究 (ページ 141-145)