eや sin 1の値を近似できた理由は、exやsinxがn階微分の値をある程度評価できるような関
数だからです。eやsinのほかにcosやlogが考えられます。ここではそのような例として(1 +x)α を利用してみましょう。
まず、f(x) = (1 +x)αの 0を中心としたテイラー近似多項式と剰余項のラグランジュ表示を求
めましょう。
f′(x) =α(1 +x)α−1 f′′(x) =α(α−1)(1 +x)α−2
...
f(n)(x) =α(α−1)· · ·(α−n+ 1)(1 +x)α−n ...
ですので、
( α n
)
=α(α−1)· · ·(α−n+ 1) n!
と定義して、
pn(x) =
∑n k=0
( α n
)
xn Rn+1(x) = (
α n+ 1
)
(1 +∃c)α−n−1xn+1 です。
問題
√3
28の値を小数点以下第4位まで決定せよ。
√3
28 = (1 + 27)1/3と見るわけです。しかし、このままでテイラーの定理を適用したのではx= 28 が大きすぎて、なかなか良い近似は得られません。もう一工夫する必要があります。
解答. 33= 27ですので、
√3
28 = 33
√28 27= 33
√ 1 + 1
27 = 3 (
1 + 1 27
)13
です。そこで、3(1 +x)1/3に0においてテイラーの定理を適用し、x= 1/27を代入しましょう。
f(x) = 3(1 +x)1/3 を微分して行くと、
f′(x) = (1 +x)−23 f′′(x) =−2
3(1 +x)−53 f′′′(x) = 2 3 5
3(1 +x)−83 となります。よって、テイラーの定理(ラグランジュ表示)により、
3(1 +x)13 =f(0) +f′(0)x+f′′(0)
2 x2+f′′′(c)
3! x3= 3 +x−x2
3 + 5x3 27(1 +c)8/3 となる cが0とxの間に存在することが分かります。これにx= 1/27を代入すると、
√3
28 = 3 + 1 33 − 1
37 + 5
312(1 +c)8/3 となります。右辺の第3項までの和は
3 + 1 33− 1
37 = 3.03657· · ·
です。一方、0< c <1/27ですので、右辺の最後の項は 5
312(1 + 1/27)8/3 < 5
312(1 +c)8/3 < 5
312 (5)
という不等式を満たします。左辺は正であり、右辺は 5
312 <0.00001 という不等式を満たします。これらを合わせると、
3.03657<√3
28<3.03658 + 0.00001 = 3.03659 (6) という不等式が得られます。よって、
√3
28 = 3.0365· · · です。 □
eやsin 1 を近似したときにも注意したように、2次近似+3次の剰余項のラグランジュ表示で
小数点以下第4位を決定できるということは計算前からわかることではありません。もちろん、
(1/27)2= 0.0013· · · だが (1/27)3 = 0.00005· · · である、ということを調べて2次近似+3次の 剰余項を使ってみることに決めましたが、それでうまく評価ができる保証が事前に得られたわけで はありません。
なお、上の計算では剰余項の評価(5)の下からの不等式を全く捨てて「0より大きい」に取り換 えてしまいました。これはいかにももったいないことです。頑張ってそこをもう少し詳しく調べれ ば、小数点以下第5位まで決定できるかもしれません。例えば、上の結果(6)から√3
28<3.1が分 かっているのですから、
5
312(1 +c)8/3 > 5
312(1 + 1/27)8/3 = 5 81√3
288
> 5
81·282·3.12 >0.000008 が分かります。よって、
√3
28>3.036579 + 0.000008 = 3.036587 となり、不等式(6)と合わせて
√3
28 = 3.03658· · · となります。小数点以下第5位まで決定できました。
このように、テイラー近似多項式を使って関数の値を近似するとき、ただ安直に値を代入するだ けでなく √3
1 + 27 = 3√3
1 + 1/27と見るような工夫をすると同じ手間でグッと近似がよくなるこ
とがあります。
例えば、log(1 +x) の 0 におけるテイラー近似多項式を使ってlog 2 の値を近似使用とする場 合、log 2 = log(1 + 1)と見るよりもlog 2 =−log12 =−log(
1−12)
と見た方がよりよい近似値が 得られます。この種の工夫で歴史上最も有名かつ利用されてきたと思われるのが、以下のマチンの 公式というものです。
Arctan 1 =π/4 なので、Arctanxの 0 におけるテイラー近似多項式を使ってπの値を近似で きます。しかし、安直に x= 1を代入した
1−1 3+1
5 −1
7 +· · ·+ (−1)n 2n+ 1
はいわゆる「収束が遅すぎ」て、nを大きくしてもπ/4 の近似値として荒っぽい値しか得られま せん12。ところが、tanの加法定理を使うと
π
4 = 4 Arctan1
5 −Arctan 1 239
という等式の成り立つことにマチンというイギリス人が気づきました。(18世紀初頭のことだそう です。)二つのArctanをどちらも0でテイラー近似すると、1/5や特に1/239が十分小さいこと から、非常に精度の高い近似値を得ることができます。実際、マチンはこの方法で πの値を100 桁計算したそうです。(もちろん手計算です。)その後、1970年頃までπの値の計算はこの方法に よっていたそうです。