注意. 多くの講義や教科書では、剰余項のラグランジュ表示のことをテイラーの定理と呼んでいます。もう少 し正確に言うと、
f(x) =f(a) +f′(a)(x−a)+f′′(a)
2 (x−a)2+f′′′(a) 3! (x−a)3 +· · ·+f(n)(a)
n! (x−a)n+f(n+1)(c)
(n+ 1)! (x−a)n+1 の成り立つcがaとxの間に存在するということをテイラーの定理と呼んでいます。★
これは、コーシーの平均値定理を繰り返し使って得られたことからも分かるように n+ 1階微分に関する平均値の定理
とでも言うべきものです。実際n= 0としてみると、
f(x) =f(a) +R1(x), R1(x) =f′(∃c)(x−a)
となって平均値の定理そのものです。しかし、n >0 のときRn+1(x)のラグランジュ表示が何の どういう意味での「平均」なのかははっきり言って分かりません。この表示のよいところは、
式がテイラー近似多項式の項とほとんど同じなので憶えやすい ということと、
f(n+1)(x)の値の範囲が分かれば、何の工夫もなく直接Rn+1(x)の値の評価が得られ
るので使いやすい
という、いわば「実用性」にあるのだと思います。表示自体としては「c」に由来する曖昧さが大 きく響きすぎて余りよい評価を与えてくれません。とは言え十分役に立つことを、n→ ∞を考え るときにお見せします。そのとき同時に、この表示ではRn+1(x)の値の評価が荒すぎるという実 例も見ます。
Rn+1(x)も f(n+1)(x)の不定積分の不定積分の不定積分の…(n+ 1回繰り返す)…
不定積分
だということになります。この視点から Rn+1(x)を f(n+1)(x)の積分の形で表そうとすると、テ イラー近似多項式の生み出されてくる様子がとてもよく見えてきます。
まず、f(n+1)(x) =Rn+1(n+1)
(x)を積分するとf(n)(x)とRn+1(n)
(x)になります。
f(n)(x) =f(n)(a) +
∫ x a
f(n+1)(t)dt 最後の項が剰余項の n回導関数Rn+1(n)
(x)です。なぜなら、
f(x) =f(a) +f′(a)(x−a) +· · ·+f(n)(a)
n! (x−a)n+Rn+1(x) を n回微分するとf(n)(x) =f(n)(a) +Rn+1(n)(x)となるからです。
もう一度積分すると、f(n−1)(x)と Rn+1(n−1)
(x)が得られます。
f(n−1)(x) =f(n−1)(a) +
∫ x a
f(n)(t)dt
=f(n−1)(a) +
∫ x a
(
f(n)(a) +
∫ t a
f(n+1)(s)ds )
dt
=f(n−1)(a) +f(n)(a)(x−a) +
∫ x a
(∫ t a
f(n+1)(s)ds )
dt
です。最後の式の最後の項がR(nn+1−1)(x)です。積分が二重にかかっていていやですね。少し知識の ある人は2変数関数の重積分というやつを思い起こして腰が引けてしまうかも知れませんが、そう いう進んだ知識を要求するものではなく、ただ単に、f(n+1)(x)という関数をaからxまで積分 した関数をもう一度 aからxまで積分しているだけです。例えば、f(n+1)(x) =xなら
∫ x a
∫ t a
sdsdt=
∫ x a
1
2(t2−a2)dt= 1
6(x3−3a2x−a3+ 3a3) というものに過ぎません。
もう一度くらい書いておきましょう。
f(n−2)(x) =f(n−2)(a) +
∫ x a
f(n−1)(t)dt
=f(n−2)(a) +
∫ x a
(
f(n−1)(a) +f(n)(a)(s1−a) +
∫ t a
(∫ s2
a
f(n+1)(s1)ds1 )
ds2 )
dt
=f(n−2)(a) +f(n−1)(a)(x−a) +f(n)(a)
2 (x−a)2 +
∫ x a
(∫ t a
(∫ s2
a
f(n+1)(s1)ds1 )
ds2 )
dt
です。最後の式の最後の項が R(nn+1−2)(x)です。三重にかかっている積分の意味は上と同様です。
結局、f(n+1)(x) = 0 +R(n+1)n+1 (x)と見て、Rn+1(x)は
Rn+1(a) =R′n+1(a) =R′′n+1(a) =· · ·=R(n)n+1(a) = 0
という条件を満たさなければならないので、「0」の方の積分からテイラー近似多項式が生み出さ れて来る、という仕組みになっているわけです。しかし、不定積分が n+ 1個も入れ子になった 式を以て「剰余項が表示できた」と言われても計算したり評価したりできないので全く役に立ちま せん。
そこで、R(n+1)n+1 (x) =f(n+1)(x)をどんどん積分する代わりに、部分積分を使って積分の中身を どんどん微分することを考えてみましょう。そのために、部分積分の公式を復習しましょう。
二つの関数g(x)と h(x)に対して、積の微分公式により (g(t)h(t))′=g′(t)h(t) +g(t)h′(t) が成り立ちます。よって、微積分の基本定理により、
g(b)h(b)−g(a)h(a) =
∫ b a
(g′(t)h(t) +g(t)h′(t))dt
=
∫ b a
g′(t)h(t)dt+
∫ b a
g(t)h′(t)dt となります。これを適当に移項すると、
∫ b a
g(t)h′(t)dt=g(b)h(b)−g(a)h(a)−
∫ b a
g′(t)h(t)dt
となります。これが部分積分の公式です。これをf(x)に対して適用してみましょう。
微積分の基本定理
f(x)−f(a) =
∫ x a
f′(t)dt (4)
からスタートします。(xと書くと微分したり積分したりするときに混乱を招きそうですが、目指 すテイラー近似多項式の形が見えやすいようにするためにb ではなくxとしました。微分したり 積分したりするのは tについてであってxは定数ですから気を付けてください。)右辺の積分の中 身を上の部分積分の公式が適用できるように見なすには、
g(t) =f′(t), h′(t) = 1
と見ればよいでしょう。ここで、微分すると1になる関数h(t)として何を取ればよいでしょうか。
微分して1になるのだからt+cという関数でなければなりません。よって問題は定数cとして何 を選べばよいかと言うことです。よく分からないので h(t) =t+c のまま部分積分してしまいま しょう。すると、
f(x)−f(a) =
∫ x a
f′(t)·(t+c)′dt
=f′(x)(x+c)−f′(a)(a+c)−
∫ x a
f′′(t)(t+c)dt
となります。我々が欲しい項はf′(a)(x−a)ですので、c=−xとすればピッタリと合います。そ れを代入して右辺の第1項を左辺に移項すると、
f(x)−f(a)−f′(a)(x−c) =
∫ x a
f′′(t)(x−t)dt
となります。(−(t−x) = (x−t)としました。)この右辺がR2(x)の表示を与えているわけです。
この右辺にさらに部分積分をしましょう。今度は、
g(t) =f′′(t), h′(t) = (x−t)
です。このようなh(t)として何を取るべきかはもうだいたい予想がつくでしょう。(x−t)の冪が 欲しいのですから、
h(t) =−1
2(x−t)2 がよいでしょう。すると、
∫ x a
f′′(t)(x−t)dt=−1
2f′′(x)(x−x)2+1
2f′′(a)(x−a)2+
∫ x a
f′′′(t)(x−t)2 2 dt となります。前段落の式とあわせて移項整理すれば、
f(x)−f(a)−f′(a)(x−a)−f′′(a)
2 (x−a)2=
∫ x a
f′′′(t)
2 (x−t)2dt となります。つまり、これの右辺がR3(x)の表示を与えているわけです。
この変形を繰り返すことで、
剰余項の積分表示
Rn+1(x) =
∫ x a
f(n+1)(t)
n! (x−t)ndt
の成り立つことが分かります。これを剰余項の積分表示と言います。
この表示は曖昧さのないキッチリした表示であるところが優れていますし、f(n+1)(x)がひどく 暴れていたとしても、積分でならされておとなしくなるということもあり得ます。しかし、如何せ ん積分なので、f(n+1)(x)についての情報が得られても、それを簡単に Rn+1(x)の評価に結びつ けられないという難点もあります。