はいわゆる「収束が遅すぎ」て、nを大きくしてもπ/4 の近似値として荒っぽい値しか得られま せん12。ところが、tanの加法定理を使うと
π
4 = 4 Arctan1
5 −Arctan 1 239
という等式の成り立つことにマチンというイギリス人が気づきました。(18世紀初頭のことだそう です。)二つのArctanをどちらも0でテイラー近似すると、1/5や特に1/239が十分小さいこと から、非常に精度の高い近似値を得ることができます。実際、マチンはこの方法で πの値を100 桁計算したそうです。(もちろん手計算です。)その後、1970年頃までπの値の計算はこの方法に よっていたそうです。
となります。nはaより大きく選んであるので、x→ ∞のときxn−a → ∞ですから、
xlim→∞
n!
xn−a = 0
となります。(n→ ∞ではなく x→ ∞としています。nは定数です。だから分子のn!も定数で す。)よって、はさみうちの原理により示せました。 □
剰余項の符号が分かってしまえば、近似多項式がx→ ∞で発散することを利用して元の関数の 発散を示せる場合があることの例です。同じことは「ロピタルの定理の変種」を使っても証明でき ますが、上の証明の方がex がどんな多項式よりも「速く」発散する理由がよく分かるような気が します。
8 テイラー展開
以上でnを止めて剰余項Rn+1(x)を考察することは終わりにして、n→ ∞としたらどうなる か考えてみましょう。これはテイラー近似多項式 pn(x)の次数をどんどん上げて行く無限級数を 考えることと同じです。
8.1 テイラー級数とテイラー展開の定義
関数f(x)が何回でも微分できる関数、すなわちC∞ 級関数だった場合、好きなだけ次数の高 いテイラー近似多項式を考えることができます。「何次まででも考えられる」という状況に対して は「n次近似を考えておいてn→ ∞を考える」というのが、「極限」を扱う手段を手に入れてい る我々にとってもっとも自然でしょう。m < nならm次近似多項式はn次近似多項式のm次ま での項を集めたものですから、C∞ 級関数に対しては次のようなものを考えたくなります。
テイラー級数の定義
aを含む区間で定義されたC∞ 級関数f(x)に対し、無限級数
∑∞ n=0
f(n)(a)
n! (x−a)n
=f(a) +f′(a)(x−a) +f′′(a)
2 (x−a) +· · ·+f(n)(a)
n! (x−a)n+· · · のことを、aを中心としたf(x)のテイラー級数と言う。
このような、(x−a)n に数をかけたものを足して行く無限級数のことを冪級数(べききゅうす う)と言います。
これは、各項が関数でできているなにやら恐ろしげなものに見えるかも知れません。実際、「関 数の無限和」として扱わないと微分や積分を考えることができないので後々(冬学期)にはそのよ うに考えますが、とりあえずここでは、
実数bを一つ決めるごとに無限級数
∑∞ n=0
f(n)(a)
n! (b−a)n が一つ決まる と考えておきます。
このようなセッティングは、無理数を任意の長さの有限小数で近似することといかにも似ている ように見えます。だから、任意の無理数 αが0以上9以下の項からなる自然数列a0, a1, a2,· · · に よって
α=
∑∞ k=0
ak×0.1k
と極限表示できるように、任意の C∞ 級関数 f(x)もf(a), f′(a),f′′2(a),f′′′3!(a),· · · という実数列 によって
f(x) =
∑∞ k=0
f(k)(a)
k! (x−a)k
と極限表示できるのではないかという期待を抱いてしまうかも知れません。実際、後で示すよう に、数学でも数学以外でも重要な関数である指数関数や三角関数でこの期待が成立しています。し かし、これまた後で示すように、対数関数では「ある範囲の xについて」という制限付きでしか この期待は成り立っていません。
そもそもテイラー級数とは、数列
f(a), f(a) +f′(a)(b−a), f(a) +f′(a)(b−a) +f′′(a)
2 (b−a)2, · · · (7) のことです。つまり、テイラー級数(とか冪級数)というのは、
実数xを一つ決めるごとに数列が一つ決まる
というだけのものであって、その数列が収束するかどうかなどということにはとりあえず全く触れ ていないことに注意してください。つまり、
f(x)から作ったテイラー級数にx=b を代入してできる数列(7)はどの範囲の bに対 して収束するか。
ということ、および、
テイラー級数が収束するbに対して、その極限はf(b)に一致するか。
ということを別に考えなければならないのです。テイラー近似のときには x→aの極限を問題に したのですが、テイラー展開では各 xに対するn→ ∞の極限を考えなければならないわけです。
そこで、次の言葉を用意しましょう。
テイラー展開可能性の定義
f(x)のaを中心としたテイラー級数がaを含むある開区間で収束して極限がf(x)に一致す るとき、f(x)はa のまわりでテイラー展開可能であるという。特に、定義域内の任意の点の まわりでテイラー展開可能なとき、f(x)はテイラー展開可能である、または実解析的関数で あるという。
aを中心としたテイラー級数にx=aを代入すると、
f(a) +f′(a)(a−a) +f′′(a)
2 (a−a)2+· · ·=f(a)
となって必ずf(a)に収束します。だから、定義の中にある「aを含むある開区間で」というのは、
要するに
aに「近い」任意のbに対して
f(a) +f′(a)(b−a) +f′′(a)
2 (b−a)2+· · ·=f(b) が成り立っていればよい。aから離れたところはどうなっていてもよい。
ということです。そして、
テイラー展開
f(x)が aでテイラー展開可能なとき、f(x)のaにおけるテイラー級数のことをテイラー展 開と呼ぶ。
と定義します13。