さて、次にexの逆関数であるlogxについて考えましょう。x= 0は定義域の外なので、x= 1 を中心とした級数を考えることにします。ただし、見た目を簡単にするために x= 0を中心とし た級数で考えたいので、平行移動して log(1 +x)にしておきます。なお、1以外の正実数aを中 心とした場合については、
log(a+x) = log (
1 + x a )
+ loga
とすることにより1を中心とした場合に帰着できるので扱いません。詳しくは考えてみて下さい。
結果は次のようになります。(第5回問題5です。)
log(1 +x)のx= 0におけるテイラー級数は、−1< x≤1の範囲ではlog(1 +x)に収束し、
それ以外では収束さえしない。
証明. xの範囲ごとに証明して行きましょう。
− 1 < x ≤ 1 のとき
テイラー級数がもとの関数に収束することを示すには、n次の剰余項が n→ ∞のときに0に収 束することを示せばよいのであって、テイラー級数の形は必要ありません。面倒なので、ここでは いきなり剰余項を扱うことにします。
ラグランジュ表示を使うと−1< x <0での収束を示すことができません。(試してみてくださ い。)そこで剰余項の他の表示を使ってみましょう。
積分表示を使う
f(x) = log(1 +x)とすると
f(n+1)(x) = (−1)n n!
(1 +x)n+1
なので、log(1 +x)のx= 0におけるn次のテイラー近似の剰余項の積分表示は (−1)n
∫ x 0
(x−t)n (1 +t)n+1dt となります。
0≤x≤1のとき、0≤t≤xにおいて1 +t≥1 なので、
0≤ (x−t)n
(1 +t)n+1 ≤(x−t)n となります。よって、
(−1)n
∫ x 0
(x−t)n (1 +t)n+1dt
≤
∫ x 0
(x−t)ndt= xn+1 n+ 1 となります。今0≤x≤1 なのですから
nlim→∞
xn+1 n+ 1 = 0
です。これで0≤x≤1ではlog(1 +x)に収束することが示せました。
−1< x <0 のときは、x≤t≤0 なるtに対し1 +x≤1 +tが成り立つので、
|x−t|n
(1 +t)n ≤ |x|n 1 +x
(1−xt 1 +t
)n
となります。今、−1≤ −xt < t <0なのですから、
1−xt 1 +t
<1
です。よって、
(−1)n
∫ x 0
(x−t)n (1 +t)n+1dt
≤
∫ 0 x
|x−t|n (1 +t)n+1dt≤
∫ 0 x
|x|n 1 +x
1−xt 1 +t
ndt < |x|n 1 +x
∫ |x| 0
1dt
< |x|n 1 +x となります。今−1< x <0なので
nlim→∞
|x|n 1 +x = 0
です。これで−1< x <0 でもlog(1 +x)に収束することが示せました。 □
コーシー表示を使う
f(x) = log(1 +x)とすると
f(n+1)(x) = (−1)n n!
(1 +x)n+1
なので、log(1 +x)のx= 0におけるn次のテイラー近似の剰余項のコーシー表示は f(n+1)(θx)
n! (x−θx)nx= (−1)n(1−θ)nxn+1
(1 +θx)n (0< θ <1) となります。今−1< xで0< θ <1なので、0<1−θ <1 +θxであり、
0< 1−θ 1 +θx <1 となります。しかも|x| ≤1です。よって、
(−1)n(1−θ)nxn+1 (1 +θx)n
= (1−θ
1 +θ )n
|x|n+1−−−→n→∞ 0 となります。これで示せました。 □
注意. これが「ラグランジュ表示よりコーシー表示の方が精度のよい場合の例」です。★
log(1 +x) =
∫ x 0
1
1 +tdt を使う
(1 +x)(1−x+x2+· · ·+ (−1)n−1xn−1) = 1 + (−1)n−1xn ですので、
1
1 +x = 1−x+x2− · · ·+ (−1)n−1xn−1+ (−1)n−1 xn 1 +x となります。これを1からxまで積分して
log(1 +x) =x−x2 2 +x3
3 − · · ·+ (−1)n−1xn
n + (−1)n
∫ x 0
tn 1 +tdt
が得られます。。この多項式部分が log(1 +x)のx= 0を中心としたn次のテイラー近似多項式 と一致しているので、n次の剰余項を
(−1)n
∫ x 0
tn 1 +tdt と表示できることがわかりました。
0≤x≤1のとき、
(−1)n
∫ x 0
tn 1 +tdt
≤
∫ x 0
tndt= xn+1 1 +x
n→∞
−−−→0 となるので示せました。
−1< x <0 のとき、
(−1)n
∫ x 0
tn 1 +tdt
=
∫ |x| 0
sn
1−sds≤ 1 1 +x
∫ |x| 0
snds= |x|n+1 (n+ 1)(1 +x)
n→∞
−−−→0 となり、やはり示せました。 □
注意. このやり方から形式的に積分を消し去ったのが第5回の解答プリントに書いた解法です。再掲しますの で、上のと比べてどちらが自然かよく味わってみてください。
解答.
−1< a≤1では
nlim→∞Rn+1(a) = 0
が成り立つことを示しましょう。平均値の定理を使ってこれを示します。
Rn+1(x)の導関数は
R′n+1(x) = 1
1 +x−1 +x−x2+· · · −(−1)n−1xn−1
= 1−(1 +x)(
1−x+x2− · · ·+ (−1)n−1xn−1)
1 +x = (−1)n xn
1 +x です。また、Rn+1(0) = 0です。よって、平均値の定理により
Rn+1(a) =Rn+1(a)−Rn+1(0) =Rn+1(c)a= (−1)n cn 1 +ca
となるcが0とaの間に存在します。今−1< a≤1なのですから−1< c <1です。よって、n→ ∞の ときcn→0であり、Rn+1(a)→0が成り立つことがわかります。これで示せました。★
| x | > 1 のとき
x <−1のときはlog(1 +x)が定義されないので、「log(1 +x)に収束するかどうか」は問題にな りませんが、テイラー級数自体が収束するかどうかは議論できます。それも含めて考えましょう。
一般に、無限級数∑∞
k=0ak が収束するなら、
nlim→∞|an|= 0 (8)
でなければならないことを思い出しましょう。実際、
Sn=
∑n k=0
ak, S=
∑∞ k=0
ak
とするとき、
an=Sn−Sn−1 n→∞
−−−→S−S= 0 であり、0に収束する数列は絶対値をとっても0に収束します。
log(1 +x)のx= 0におけるテイラー級数は
∑∞ k=1
(−1)k−1xk
k =x−x2 2 +x3
3 −x4 4 +x5
5 − · · ·
でした。この級数は |x|>1では条件(8)に反することを示しましょう。|x|>1 を満たすxを一 つ固定します。
nlim→∞
n+ 1 n = 1
ですので、ある自然数N で、N より大きな任意の自然数nに対して n+ 1
n <|x|
となる N が存在します。よってN より大きな任意の自然数nに対して xn+1
n+ 1 =
xxn n
n n+ 1
= xn
n
|x| n n+ 1 >
xn n
n+ 1 n
n n+ 1 =
xn n
となって、N より大きいところではxn
nという数列は単調増加であり、0に収束することはあり 得ません。
これでlog(1 +x)の0 におけるテイラー級数が|x|>1で収束しないことが示せました。
x = − 1 のとき
x <−1 のときと同様に、x=−1のときはlog(1 +x) = log 0 は存在しないけれどテイラー級 数自体が収束するかどうかは意味を持ちます。それを調べておきましょう。
log(1 +x)の0 におけるテイラー級数 x−x2
2 +x3
3 − · · ·+ (−1)n−1xn n +· · · に x=−1を代入して得られる無限級数
1 +1 2 +1
3 +· · ·+1 n +· · ·
を調和級数といいます。limn→∞1/n= 0なので、|x|>1のときのように級数の発散を示すこと はできません。そこで、他の工夫が必要になります。
積分と比較する
f(x) = 1/xの積分と比較しましょう。
1 n >
∫ n+1 n
1 xdx
です(図8)。 よって、
1 +1 2 +1
3+· · ·+ 1 n >
∫ n+1 1
1
xdx= log(n+ 1)−−−→n→∞ +∞ となって示せました。 □
n n+ 1 x 1
n y= 1
x
図 8: 面積比べ。
発散することがわかっている級数と比較する
積分を微分の逆演算として定義している以上、定積分がグラフの囲む部分の面積になっているこ とを使ってしまったら証明とは言えない、と思う人もいるでしょう。冬学期に積分を面積の一般化 として定義し直すと上の証明はキッチリ正当化されますが、たしかに現時点ではその批判は当たっ ていると思います。そこで、もっと初等的な証明も紹介しましょう。
第2n+ 1項目から第2n+1 項目をすべて1/2n+1 に変えた無限級数を考えます。具体的には、
1 +1 2 +1
3+1 4+1
5 +· · ·+1 8 +1
9+· · ·+ 1 16+ 1
17+· · · を
1 +1 2 +1
4+1 4 +1
8 +· · ·+1 8 + 1
16+· · ·+ 1 16+ 1
32+· · ·
と作り替えます。すると、各項はもとの調和級数の対応する項以下であり、第2n+ 1項目から第 2n+1 項目までの和はすべて1/2です。よって、
1 + 1 2 +1
3 +1 4+1
5 +1 6 +1
7+· · · ≥1 + 1 2 +1
4 +1 4+1
8 +1 8 +1
8+· · ·
= 1 +1 2 +1
2 +1 2+1
2 +1
2· · ·= +∞ となって示せました。 □