[定理 2.51]n∈Z,n >1とする.
nは素数の積として表せる. しかもその表し方は積の順序を除いて一意的である.
[証明]まず,nが素数の積として表せることを,nに関する数学的帰納法によって証明する.
n= 2のとき, 2は素数である.
2≤k≤nであるようなすべてのk∈Zについて,kが素数の積として表せると仮定する.
n+ 1が素数ならば,これ以上すべきことはない.
n+ 1が合成数ならば,適当なl,m∈Z>0をとって
n+ 1 =lm, 2≤l < n+ 1, 2≤m < n+ 1
と書ける. 帰納法の仮定から,l,mはそれぞれ素数の積で表せる. したがってn+ 1も素数の積で 表せる.
以上より,すべてのn∈Z,n >1について,nが素数の積として表せることが示された.
次に,表し方の一意性を証明する.
上に述べたことから,n∈Z,n >1なる任意のnに対して,あるk∈Z>0が存在して,nはk個 の素数の積で表すことができる:
n=p1p2· · ·pk.
そこで,kに関する数学的帰納法によって,表し方の一意性を証明する.
nが素数のとき, n=p1p2· · ·pk (piは素数)と書けたとすると, k= 1, p1 =nでなければなら ない.
nが少なくともk個の素数の積で書けるならば,表し方は一意的であると仮定する.
n=p1p2· · ·pk+1=q1q2· · ·ql, pi, qjは素数
のとき,帰納法の仮定からk+ 1≤lである. p1|(q1q2· · ·ql)より, あるiについてp1|qi. 積の順 序を考えなければ, p1|q1としてもよい. q1は素数だから,p1=q1. よって
n p1
=p2· · ·pk+1 =q2· · ·ql. 帰納法の仮定より, l=k+ 1,pi=qiでなければならない.
以上より,すべてのkに関して,表し方の一意性が証明された.
したがって,すべてのn∈Z,n >1について,nの素数の積での表し方は一意的である.
整数n(n >1)を素数の積として表すことを,nの素因数分解という.
また,nを割り切る素数をnの素因数という.
[定理 2.52]素数は無限に存在する.
[証明]背理法により証明する.
いま,素数が有限個しかないと仮定し,p1,p2,. . .,pkが素数のすべてであるとする.
n=p1p2· · ·pk+ 1 とおく.
nは素因数分解できる. よってnは素数の約数を持つ.
ところが,p1,p2,. . .,pkはすべてnを割らない. これはnが素数の約数を持つことに反する.
したがって素数は無限に存在する.
3 有理数
3.1 商体
ZからQを構成するにあたって,より一般的に,整域から体を構成する方法について述べる.
この節の全体を通じて,Rは整域を表すものとする.
R∗=R\ {0}とおく. すなわち,任意のx∈Rについて x∈R∗⇐⇒x6= 0.
R∗は整域だから,任意のy,w∈R∗に対してyw∈R∗であること,すなわち任意のy,w∈Rに対 して,y6= 0かつw6= 0ならば,yw6= 0であることに注意せよ.
R×R∗上の2項関係∼を,各(x, y), (z, w)∈R×R∗に対して (x, y)∼(z, w)⇐⇒xw=zy によって定める.
[命題 3.1]∼はR×R∗上の同値関係である.
[証明]x,y,z,w,u,v∈Rとする.
xy=xyより(x, y)∼(x, y). したがって∼に関して反射法則が成り立つ.
(x, y)∼(z, w)⇒xw=zy ⇒zy=xw⇒(z, w)∼(x, y). したがって∼に関して対称法則が成 り立つ.
(x, y)∼(z, w), (z, w)∼(u, v)を仮定すれば,
xw=zy, zv=uw.
z6= 0のとき,これらの式を辺々乗じると
xwzv=zyuw.
Rの乗法に関する結合法則,交換法則により
zw(xv−uz) = 0.
zw6= 0より,xv−uz= 0. よってxv=uz.
z= 0のとき,xw=uw= 0であるが,w∈R∗すなわちw6= 0より,x=u= 0. よってxv=uz が成り立つ.
ゆえに(x, y)∼(u, v). したがって∼に関して推移法則が成り立つ.
直積集合R×R∗を同値関係∼により類別した同値類の集合をKとおく:
K=R×R∗/∼
また, (x, y)∈R×R∗を代表元とするKの同値類を[x, y]と書く. つまり, K={[x, y]|x, y∈R}.
このとき,任意のx,y,z,w∈Rに対して
[x, y] = [z, w]⇐⇒(x, y)∼(z, w)⇐⇒xw=zy が成り立つ.
[補題 3.2] (i) 任意のx∈R,y∈R∗に対して, [x, y] = [0,1]⇐⇒x= 0.
(ii) 任意のx∈R,y∈R∗に対して, [x, y] = [1,1]⇐⇒x=y.
(iii) 任意のx∈R,y,w∈R∗に対して[xw, yw] = [x, y].
[証明](i) [x, y] = [0,1]と仮定すると,x=x·1 = 0·y= 0. 逆は明らか.
(ii) [x, y] = [1,1]と仮定すると,x=x·1 = 1·y=y. 逆は明らか.
(iii) Rの乗法に関する結合法則と交換法則より(xw)y=x(yw).
Kの各元[x, y], [z, w],x,z∈R,y,w∈R∗に対して,それらの和と積をそれぞれ [x, y] + [z, w] = [xw+zy, yw], [x, y][z, w] = [xz, yw]
によって定義する.
[命題 3.3]Kは体になる.
[証明]x,z,x0,z0,u∈R, y, w,y0,w0,v∈R∗とする. 以下,Rの加法, 乗法に関する結合法則, 交換法則,分配法則を利用して計算する.
まず,Kの加法が体であるための条件を満たすことを確認する.
[x, y] = [x0, y0],[z, w] = [z0, w0] =⇒xy0 =x0y, zw0=z0w
=⇒xy0ww0+zw0yy0=x0yww0+z0wy0y
=⇒(xw+zy)y0w0= (x0w0+z0y0)(yw)
=⇒[xw+zy, yw] = [x0w0+z0y0, y0w0].
よってKの加法はwell-definedである.
([x, y] + [z, w]) + [u, v] = [xw+zy, yw][u, v] = [(xw+zy)v+ (yw)u, ywv]
= [xwv+zyv+ywu, ywv] = [x(wv) + (zv+uw)y, ywv]
= [x, y] + [zv+uw, wv] = [x, y] + ([z, w] + [u, v]).
よってKは加法に関して結合法則を満たす.
[x, y] + [z, w] = [xw+zy, yw] = [zy+xw, wy]
= [z, w] + [x, y].
よってKは加法に関して交換法則を満たす.
Rの零元を0とするとき,Kの単位元は[0,1]である. 実際
[x, y] + [0,1] = [x·1 + 0·y, y·1] = [x, y].
[x, y]の加法における逆元は[−x, y]である. 実際,
[x, y] + [−x, y] = [xy+ (−x)y, yy] = [0, yy] = [0,1].
次に,Kの乗法が体であるための条件を満たすことを確認する.
[x, y] = [x0, y0],[z, w] = [z0, w0] =⇒xy0=x0y, zw0=z0w
=⇒(xy0)(zw0) = (x0y)(z0w)
=⇒(xz)(y0w0) = (x0z0)(yw)
=⇒[xz, yw] = [x0z0, y0w0].
よってKの乗法はwell-definedである.
([x, y][z, w])[u, v] = [xz, yw][u, v] = [xzu, ywv]
= [x, y] + [zu, wv] = [x, y]([z, w][u, v]).
よってKも乗法に関して結合法則を満たす.
[x, y] + [z, w] = [xz, yw] = [zx, wy] = [z, w] + [x, y].
よってKも乗法に関して交換法則を満たす.
Rの乗法における単位元を1とするとき,Kの単位元は[1,1]である. 実際 [x, y][1,1] = [x·1, y·1] = [x, y].
[y, w]の乗法に関する逆元は[w, y]である. 実際,
[y, w][w, y] = [yw, wy] = [yw, yw] = [1,1].
ここで,上の補題の(i)より, [x, y]が零元でないための必要十分条件はx∈R∗であることに注意 せよ.
最後に,上の補題の(ii)を用いると
[x, y][z, w] + [x, y][u, v] = [xz, yw] + [xu, yv] = [xzyv+xuyw, ywyv]
= [yx(zv+uw), y(ywv)] = [x(zv+uw), ywv]
= [x, y][zv+uw, wv] = [x(zv+uw), ywv]
= [x, y]([z, w] + [u, v]).
よってKの加法と乗法に関して分配法則が成り立つ.
以上より,Kが体であることが示された.
各x∈Rに対して
ϕ(x) = [x,1]
とおくことにより写像ϕ:R→Kを定義する.
[補題 3.4]任意のx∈R,y∈R∗に対して[x, y] =ϕ(x)ϕ(y)−1.
[証明][x, y] = [x,1][1, y] = [x,1][y,1]−1=ϕ(x)ϕ(y)−1.
[定理 3.5]ϕは単射準同型である. したがって特に, RはKの部分環である.
[証明]a, b∈Rとする.
ϕ(a) =ϕ(b) =⇒[a,1] = [b,1] =⇒a·1 =b·1 =⇒a=b.
よって,ϕは単射である. また,
ϕ(a) +ϕ(b) = [a,1] + [b,1] = [a·1 +b·1,1·1] = [a+b,1] =ϕ(a+b), ϕ(a)ϕ(b) = [a,1] + [b,1] = [ab,1·1] = [ab,1] =ϕ(ab).
よって,ϕは準同型である.
[定理 3.6]Lが体で,ψ:R→Lを単射準同型とすると,準同型g:K→Lで ψ=g◦ϕ
を満たすものがただ一つ存在する.
[証明]x,z∈R,y,w∈R∗とする.
[x, y] = [z, w]とすると,xw=zyである. ψは準同型だから ψ(x)ψ(w) =ψ(xw) =ψ(zy) =ψ(z)ψ(y).
ψは単射であり,y6= 0,w6= 0であるから,ψ(y)6= 0,ψ(w)6= 0である. よってLにおいてこれら の元に対する逆元が存在し,
ψ(x)ψ(y)−1=ψ(z)ψ(w)−1 を得る. そこで,
g([x, y]) =ψ(x)ψ(y)−1
によって写像g:K→Lを定義すれば,この値はx,yの選び方によらない. つまりgはwell-defined である. また,
g([x, y][z, w]) =g([xz, yw]) =ψ(xz)ψ(yw)−1
= (ψ(x)ψ(z))(ψ(w)ψ(y))−1
=ψ(x)ψ(z)ψ(y)−1ψ(w)−1
=ψ(x)ψ(y)−1ψ(z)ψ(w)−1
=g([x, y])g([z, w]) が成り立つ. よってgは準同型である. さらに,ψ(1) = 1だから,
g◦ϕ(x) =g([x,1]) =ψ(x)ψ(1)−1=ψ(x).
よってg◦ϕ=ψが成り立つ.
次に,g0:K →Lを準同型とし,g0◦ϕ=ψをみたすものとすると, [x, y] =ϕ(x)ϕ(y)−1である から,
g0([x, y]) =g0(ϕ(x)ϕ(y)−1) =g0(ϕ(x))g0(ϕ(y))−1
=ψ(x)ψ(y)−1=g(ϕ(x))g(ϕ(y))−1
=g(ϕ(x)ϕ(y)−1) =g([x, y]) を得る. x,yの取り方は任意であるから,g=g0となる.
[定理 3.7]Kは,整域Rを部分環とする体のうちで最小のものである.
[証明]Lを,Rを部分環とする体であるとすれば,RからLへの単射準同型が存在する. それを ψで表すことにする. 前定理より準同型g:K→Lで
ψ=g◦ϕ となるものがただ一つ存在する.
x, z ∈ R, y, w ∈ R∗ とし, g([x, y]) = g([z, w])とする. このとき, 上の補題より[x, y] = ϕ(x)ϕ(y)−1, [z, w] =ϕ(z)ϕ(w)−1であるから,
g([x, y]) =g(ϕ(x)ϕ(y)−1) =g(ϕ(x))g(ϕ(y))−1=ψ(x)ψ(y)−1, g([z, w]) =g(ϕ(z)ϕ(w)−1) =g(ϕ(z))g(ϕ(w))−1=ψ(z)ψ(w)−1. これらより,
ψ(x)ψ(y)−1=g([x, y]) =g([z, w]) =ψ(z)ψ(w)−1. したがってψ(x)ψ(w) =ψ(z)ψ(y)となる. ψは単射準同型だから,
ψ(x)ψ(w) =ψ(z)ψ(y) =⇒ψ(xw) =ψ(zy)
=⇒xw=zy
=⇒[x, y] = [z, w].
ゆえにgは単射である.
よって,整域Rを含む体Lはすべて,Kを部分環とすることがわかる.
一方,前の前の定理よりK自身がRを部分環とする体である. したがってKは,Rを部分環と する体のうちで最小のものである.
Kを整域Rの商体と呼ぶ.