Qの零元を0とするとき,Rの零元は[0]である. つまり,任意のn∈Nに対してdn= 0である ような有理数列(dn)を代表元とする同値類である. 実際,
[an] + [0] = [an+ 0] = [an].
[an]の加法における逆元は[−an]である. 実際,
[an] + [−an] = [an−an] = [0].
次に,Rの乗法が体であるための条件を満たすことを確認する.
([an][bn])[cn] = [anbn][cn] = [(anbn)cn]
= [an(bncn)] = [an][bncn]
= [an]([bn][cn]).
よってRは加法に関して結合法則を満たす.
[an][bn] = [anbn] = [bnan]
= [bn][an].
よってRは加法に関して交換法則を満たす.
Qの乗法における単位元を1とするとき,Rの乗法における単位元は[1]である. つまり,任意の n∈Nに対してdn= 1であるような有理数列(dn)を代表元とする同値類である. 実際,
[an][1] = [an·1] = [an].
Rの乗法における逆元の存在は,上の命題によって明らかである.
最後に,
[an][bn] + [an][cn] = [anbn] + [ancn] = [anbn+ancn]
= [an(bn+cn)] = [an][bn+cn]
= [an]([bn] + [cn]).
よってRの加法と乗法に関して分配法則が成り立つ.
以上より,Rが体であることが示された.
[an]<[bn]が成り立つとき, [bn]は[an]よりも大きいといい, [an]は[bn]よりも小さいという. また, [an]≤[bn]⇐⇒[an]<[bn]または[an] = [bn]
と定める.
[an]∈Rについて, [an]>0が成り立つとき, [an]は正であるという. また, [an]<0が成り立つ とき, [an]は負であるという.
[定理 4.10]任意の[an], [bn]∈Rに対して,次が成り立つ.
(i) [an]≤[an].
(ii) [an]≤[bn]かつ[bn]≤[cn]ならば, [an]≤[cn].
(iii) [an]≤[bn]かつ[bn]≤[an]ならば, [bn] = [an].
(i), (ii), (iii)より,≤が実際にR上の順序関係であることがわかる. さらに,任意の[an], [bn]∈R に対して, [an]<[bn], [an] = [bn], [an]>[bn]のいずれか一つ,しかも一つだけが成り立つ.
[証明](i) [an] = [an]より明らかである.
(ii) [an]≤[bn]かつ[bn]≤[cn]ならば,ある正の有理数c,c0と自然数n0,n1が存在して,任意の 自然数nに対して,
n > n0=⇒bn−an≥c n > n1=⇒cn−bn ≥c0
が成り立つ. n2= max{n0, n1}とおくと,任意の自然数nに対して,n > n2ならば, cn−an = (cn−bn) + (bn−an)≥c+c0.
ところで,c+c0およびn2はnによらない. よって[an]≤[cn].
(iii)an−bn≥c⇔bn−an ≤ −cであるから,補題より, [an]<[bn]と[bn]<[an]とは同時に成 立しない. したがって[an] = [bn]でなければならない.
後半の主張は,補題においてanをbn−anと置き換えたとき, [an] = [bn], [an]<[bn], [an]>[bn] がそれぞれ補題の条件(i), (ii), (iii)に対応することから明らかである.
QからRへの写像ϕを,各a∈Qに対して
ϕ(a) = [a]
によって定義する. ここで, [a]は任意のn∈Nに対してan =aであるような有理数列(an)を代 表元とする同値類である.
[補題 4.11]a∈Qとする. 0≤a < εが任意の正の有理数εに対して成り立つならば,a= 0で ある.
[証明]対偶を示す. a6= 0とすると, a >0なので, Qの稠密性により, あるc∈ Qが存在して 0< c < aとなる.
[定理 4.12]写像ϕは単射準同型である. したがって特に,QはRの部分体である. さらに,ϕは 順序を保つ.
[証明]a,b∈Qとする. [a] = [b]ならば,二つのCauchy列が同値であることの定義から,任意の 正の有理数εに対して|a−b|< εが成り立つことがわかる. よって,上の補題より|a−b|= 0,し たがってa=bが得られる. これはϕの単射性を示している. また,
ϕ(a) +ϕ(b) = [a] + [b] = [a+b] =ϕ(a+b), ϕ(a)ϕ(b) = [a][b] = [ab] =ϕ(ab).
よって,ϕは準同型である.
さらに,a < bならば,Qの稠密性によって,ある有理数cが存在して, b−a > cかつc >0とな る. よって,n0= 0とすれば,当然のことながら,任意の自然数nに対して,n > n0ならばb−a > c が成り立つ. このことは[a]<[b], すなわちϕ(a)< ϕ(b)を意味する.
以後,有理数aに対して, a= [a]であるとみなす. 特に, 0 = [0]はRの零元であり, 1 = [1]はR の乗法における単位元である.
[補題 4.13][an], [bn]∈Rとし,ある自然数n0が存在して,任意の自然数nに対して,n > n0な らばan≤bnが成り立つとする. このとき[an]≤[bn].
[証明]ある自然数n0が存在して, 任意の自然数nに対して,n > n0ならばan≤bnが成り立つ とすれば,補題においてanをbn−anに置き換えたとき,条件(iii)は成り立たない. よって補題の 条件の(i)または(ii)が成り立つ. よって[an]≤[bn].
[定理 4.14]任意の[an]∈Rに対して,ある自然数mが存在して[an]< m. これをArchimedes の性質と呼ぶ.
[証明]Cauchy列の有界性から,ある正の有理数bが存在して,任意のn∈Nに対してan< bが 成り立つ. よって上の補題より[an] ≤bがわかる. 一方, b =c0/d0を既約分数による表示とし, m=c0+ 1とおけば, 0< b≤c0< m. したがってm∈Nかつ[an]< mとなる.
[定理 4.15]任意のx,y∈Rに対して, x < yならば,あるr∈Qが存在してx < r < y. これを RにおけるQの稠密性という.
[証明]Rは体であり,x6=yなので, 1/(y−x)∈Rである. Archimedesの性質により,ある自然 数nが存在して1/(y−x)< nが成り立つ. y−x >0なので, 1< n(y−x)となる.
次に, m= min{k ∈Z| nx < k}とおく. nx < mよりx < m/n=r. 一方, mの最小性から m−1≤nx. よって
nx=n(y−x) +nx >1 + (m−1) =m.
ゆえにy > m/n=r. したがってx < r < y.
4.4 実数の絶対値
[補題 4.16]| ∗ |をQにおける絶対値とする. このとき,任意の(an)∈ Cに対して, (|an|)∈ C.
[証明]Cauchy列の定義と不等式||am| − |an||<|am−an|よりわかる.
[補題 4.17]|∗|をQにおける絶対値とする. このとき,任意の(an), (bn)∈ Cに対して, [an] = [bn] ならば[|an|] = [|bn|].
[証明]同値類が等しいことの定義と不等式||an| − |bn||<|an−bn|よりわかる.
各x∈Rに対して, x= [an]とするとき,絶対値|x|0を
|x|0= [|an|]
によって定義する. ここで,右辺の| ∗ |はQにおける絶対値である. この定義がwell-definedであ ること,すなわち同値類の代表元(an)∈ Cの選び方によらないことは,上の補題よりわかる.
任意のa∈Qに対して,
|a|0 = [|a|] =|a|.
したがって,実数の絶対値は有理数の絶対値の拡張になっている. そこで,実数の絶対値もまた| ∗ | で表すことにする.
[命題 4.18]任意のx∈Rに対して,
|x|=
x x >0のとき
0 x= 0のとき
−x x <0のとき が成り立つ.
[証明]x= [an]とする. x >0のとき,ある正の有理数cと自然数n0が存在して, 任意の自然数 nに対して,
n > n0=⇒an≥c.
一方,an∈Qより,an>0ならば|an|=anであるから, n > n0=⇒ |an| −an= 0.
したがって,任意の正の有理数εに対して
n > n0=⇒ ||an| −an|< ε.
これは[|an|] = [an],すなわち|x|=xを意味する.
x= 0のとき, 任意の正の有理数εに対して, ある自然数n0が存在して, 任意の自然数nに対 して,
n > n0=⇒ |an|< ε.
一方,an∈Qより,|an| ≥0であるから,||an||=|an|. よって n > n0=⇒ ||an||< ε.
これは[|an|] = 0,すなわち|0|= 0を意味する.
x <0のとき, ある正の有理数cと自然数n0が存在して,任意の自然数nに対して, n > n0=⇒an≤ −c.
一方,an∈Qより,an<0ならば|an|=−anであるから, n > n0=⇒ |an| −(−an) = 0.
したがって,任意の正の有理数εに対して
n > n0=⇒ ||an| −(−an)|< ε.
これは[|an|] = [−an] =−[an], すなわち|x|=−xを意味する.
[命題 4.19]任意のx,y∈Qに対して,次が成り立つ.
(i) |x| ≥0.
(ii) |x|= 0⇐⇒x= 0.
(iii) x≤ |x|. (iv) |−x|=|x|.
(v) |xy|=|x||y|.
(vi) y6= 0ならば,|x/y|=|x|/|y|. 特に,|1/y|= 1/|y|.
[証明]実数の絶対値が有理数の絶対値の拡張であることに注意して,有理数の絶対値に関する性 質を利用して証明する.
(i) x = [an]とすると, |x| = [|an|]である. 一方, 任意の自然数nに対して, an ∈ Qなので,
|an| ≥0であることがすでに分かっている. よって[|an|]≥0が得られる.
(ii)上の命題から明らかである.
(iii)x= 0またはx >0のときは|x|=xである. x <0のときはx <0<|x|である.
(iv)x= [an]とすると,−x= [−an]だから,
|−x|= [|−an|] = [|an|] =|x|. (v)x= [an],y= [bn]とすると,xy= [anbn]だから,
|xy|= [|anbn|] = [|an||bn|] = [|an|][|bn|] =|x||y| となる.
(vi)y·(x/y) =xであるから, (v)より|y||x/y|=|x|. 両辺を|y|で割れば,|x/y|=|x|/|y|が得 られる.
[定理 4.20]任意のx,y∈Qに対して,次が成り立つ.
(i) |x+y| ≤ |x|+|y|. この不等式は三角不等式と呼ばれる.
(ii) |x−y| ≤ |x|+|y|. (iii) |x| − |y| ≤ |x+y|. (iv) |x| − |y| ≤ |x−y|.
[証明](i)x≤ |x|,y≤ |y|より
x+y≤ |x|+|y|. 一方,−x≤ |x|,−y≤ |y|より
−(x+y)≤ |x|+|y|.
|x+y|はx+yか−(x+y)のどちらかに等しい. よって
|x+y| ≤ |x|+|y|. となる.
(ii) (i)において,yに−yを代入すれば, |−y|=|y|より(ii)が得られる.
(iii) (ii)においてyにx+yを代入すれば,
|x−(x+y)| ≤ |x|+|x+y|. これと|−y|=|y|より(iii)が得られる.
(iv) (i)においてxにx−yを代入すれば,
|(x−y) +y| ≤ |x−y|+|y|. これより(iv)が得られる.
4.5 R の完備性
Qの元の列を有理数列といい,Rの元の列を実数列ということにする.
実数列(xn)が実数xに収束するとは,任意の正の実数εに対して,ある自然数n0が存在して,任 意の自然数nに対して,n > n0ならば|xn−x|< εが成り立つときにいう.
実数列(xn)がRのCauchy列であるとは, 任意の正の実数εに対して, ある自然数n0が存在 して,任意の自然数m,nに対して,m > n0かつn > n0ならば,|xm−xn|< εが成り立つときに いう.
[補題 4.21](xn)を実数列, xを実数とする. このとき, (xn)がxに収束することの定義におい て,「任意の正の実数εに対して」というところを, 「任意の正の有理数εに対して」に置き換え た条件さえ成り立てば, (xn)はxに収束する.
[証明]任意の正の有理数eに対して,ある自然数n0が存在して,任意の自然数nに対して,n > n0
ならば|xn−x|< eが成り立つと仮定する.
εを正の実数とする. RにおけるQの稠密性により, ある有理数eが存在して0< e < εが成り 立つ. このとき, eに対して,ある自然数n0が存在して, 任意の自然数nに対して,n > n0ならば
|xn−x|< e < ε が成り立つ. これは(xn)がxに収束することを意味する.
[補題 4.22](an)を有理数のCauchy列とし,x= [an]とおく. このとき, (an)はRにおいてa に収束する.
[証明]εを正の有理数とする. (an)は有理数のCauchy列であるから,εに対して,ある自然数n0
が存在して,任意の自然数m, nに対して,
m > n0, n > n0=⇒ |am−an|< ε が成り立つ.
いま,mを固定し,b=amとおくと,任意の自然数nに対して,n > n0ならば
|b−an|< ε,
すなわち
b−ε < an< b+ε が成り立つ. したがって
b−ε≤[an]≤b+ε.
よって
|b−[an]| ≤ε.
x= [an],b=amとおいたから,
|am−x|< ε
となる. この不等式は,m > n0を満たす任意の自然数mに対して成り立つ. ゆえに上の補題より, (an)はaに収束する.
[定理 4.23]Rの任意のCauchy列は,ある実数に収束する. これをRの完備性という.
[証明](xn)をRのCauchy列とする. εを任意の正の有理数とする.
いま,nを固定し,各nに対してxn = [an,i]とおく. 上の補題より, QのCauchy列(an,i)はxn に収束する. すなわち,ある自然数i0が存在して,任意の自然数iに対して,
i > i0=⇒ |an,i−xn|< ε 3. そこで,
an =an,i0+1
によって有理数列(an)を定義すると,任意の自然数nに対して
|an−xn|< ε 3
が成り立つ. このとき, (an)がQのCauchy列であることを示す.
εを任意の有理数とする. (xn)はRのCauchy列であるから,ある自然数n0が存在して,任意の 自然数m,nに対して
m > n0, n > n0=⇒ |xm−xn|< ε 3
が成り立つ. よって,任意の自然数m,nに対して,m > n0, n > n0ならば
|am−an|=|(am−xm) + (xm−xn) + (xn−an)|
≤ |am−xm|+|xm−xn|+|xn−an|
< ε 3 +ε
3 +ε 3 =ε.
ゆえに(an)はQのCauchy列である.
x= [an]とおくと,上の補題より, (an)はxに収束する. よって,εに対して,ある自然数n1が存 在して,任意の自然数nに対して
n > n1=⇒ |an−x|< ε 3.
n2= max{n0, n1}とおくと,任意の自然数nに対して,n > n2ならば,
|xn−x|=|xn−an|+|an−x|< ε 3 +ε
3 < ε.
ゆえに(xn)はxに収束する.
[定理 4.24]実数列(xn), (yn)について,任意のn∈Nに対して xn≤xn+1≤yn+1≤yn
が成り立つと仮定する. このとき, もし数列(yn−xn)が0に収束すれば, ある実数xがただ一つ 存在して, (xn), (yn)はともにxに収束し,任意のn∈Nに対して
xn≤x≤yn を満たす. これを区間縮小法の原理という.
[証明]まず, (yn−xn)が0に収束することから,任意の正の実数εに対して,あるn0が存在し て,任意の自然数nに対して,n > n0ならば
|yn−xn|< ε.
n1をn1> n0なる自然数とすれば,任意の自然数m, nに対して,m > n1, n > n1ならば, xn1 ≤xm≤yn1, xn1 ≤xn≤yn1
となるから,
|xm−xn|<|yn1−xn1|< ε.
よって(xn)はRのCauchy列である. Rの完備性から,ある実数xが存在して, (xn)はxに収束 する.
ここでもし仮に, ある番号n2が存在してx < xn2ならば, c=xn2−xとおくと, n > n2なる任 意の自然数nに対して
0< c≤ |xn−x|
となり, (xn)がxに収束することに反する. よって,任意のn∈Nに対してxn≤xが成り立つ.
一方, (yn)もまたxに収束することは, (xn)がxに収束すること, (yn−xn)が0に収束するこ と,および,任意のn∈Nに対して成り立つ不等式
|yn−x| ≤ |yn−xn|+|xn−x|
よりわかる.
もし仮に,ある番号n3が存在してyn2< xならば,c0=x−yn3とおくと,n > n3なる任意の自 然数nに対して
0< c0 ≤ |x−yn|
となり, (yn)がxに収束することに反する. よって,任意のn∈Nに対してx≤ynが成り立つ.
最後に,もし実数x,yが,任意のn∈Nに対して
xn ≤x≤yn, xn ≤y≤yn
を満たしているとすれば,
|y−x|<|yn−xn|.
したがって,任意の正の実数εに対して|y−x|< εとなる. もし仮に|y−x|>0であるとすると, c00=|y−x|/2とおけば0< c00 <|y−x|となって矛盾が生じる. よってy=xが得られる. した がってxは存在すれば一意的である.
[補題 4.25]任意のn∈Nに対してn+ 1≤2n.
[証明]nに関する数学的帰納法により証明する. n= 0のときはn+ 1 = 2n = 1である. nのと き正しいとすると, 2n+1= 2·2n ≥2·(n+ 1)≥n+ 2. よってn+ 1のときも正しい. したがって, すべてのn∈Nについてn+ 1≤2nが成り立つ.
Rの部分集合Sが上に有界であるとは,あるc∈Rが存在して,任意のx∈Sに対してx≤cが 成り立つことである.
Rの部分集合Sが下に有界であるとは,あるc∈Rが存在して,任意のx∈Sに対してc≤xが 成り立つことである.
Rの部分集合Sが有界であるとは,あるc∈R,c >0が存在して,任意のx∈Sに対して|x| ≤c が成り立つことである18).
aを実数,SをRの部分集合とする. aがSの上界であるとは,任意のx∈Sに対してx≤aが 成り立つときにいう. また, Sの上界に最小のものが存在するとき,それをSの上限という.
aがSの下界であるとは,任意のx∈Sに対してa≤xが成り立つときにいう. また,Sの下界 に最大のものが存在するとき,それをSの下限という.
[定理 4.26]Rにおいて上に有界な空でない任意のRの部分集合は上限をもつ.
[証明]SをRにおいて上に有界な空でないRの部分集合とする. もしSがS自身の上界を含め ば,その上界はSの最大元であり,したがってSの上限である. そこで,SはS自身の上界を含ま ないと仮定する.
18)明らかに,Sが有界⇔Sが上にも下にも有界.