[補題 2.24]任意のx,y,z,w,x0,y0,z0,w0 ∈Nに対して,Zにおいて x−y=x0−y0, z−w=z0−w0 ならば
(xz+yw)−(xw+yz) = (x0z0+y0w0)−(x0w0+y0z0) が成り立つ.
[証明]x−y=x0−y0,z−w=z0−w0とすると,
x+y0=x0+y, z+w0 =z0+w より,
(x+y0)z+ (x0+y)w+x0(z+w0) +y0(z0+w)
=(x0+y)z+ (x+y0)w+x0(z0+w) +y0(z+w0).
Nの加法, 乗法に関する交換法則, 結合法則, 分配法則を用いて計算し, 両辺から共通項を消去す れば,
xz+yw+x0w0+y0z0=xw+yz+x0z0+y0w0 が得られる. したがって,
(xz+yw)−(xw+yz) = (x0z0+y0w0)−(x0w0+y0z0) が成り立つ.
各a,b∈Zに対して,あるx,y,z,w∈Nが存在してa=x−y,b=z−wと表すことができる.
このとき,積abを
ab= (xz+yw)−(xw+yz)
によって定義する. 補題2.24により,abはx,y, z,wの選び方によらずに定まる. この積によって 定まる演算をZの乗法と呼ぶ.
[定理 2.25]任意のa,b∈Zに対してab=baが成り立つ. これをZの乗法に関する交換法則と いう.
[証明]a, b∈Zとすると,あるx,y,z,w∈Nによってa=x−y, b=z−wと表すことができ る. このとき,Nの乗法に関する交換法則より
ab= (xz+yw)−(xw+yz) = (zx+wy)−(zy+wx) =ba となる. よって, Zの乗法について交換法則が成り立つ.
[定理 2.26]任意のa,b,c∈Zに対して(ab)c=a(bc)が成り立つ. これをZの乗法に関する結 合法則という.
[証明]a, b,c∈Zとすると,あるx,y,z,w,u,v∈Nによってa=x−y,b=z−w,c=u−v と表すことができる. このとき,Zの乗法の定義にしたがって計算し,Nの乗法に関する分配法則を 用いると,
(ab)c=(
(xz+yw)−(xw+yz)) (u−v)
=(
(xz+yw)u+ (xw+yz)v)
−(
(xz+yw)v+ (xw+yz)u)
=(
(xz)u+ (yw)u+ (xw)v+ (yz)v)
−(
(xz)v+ (yw)v+ (xw)u+ (yz)u) . 同様に,
a(bc) = (x−y)(
(zu+wv)−(zv+wu))
=(
x(zu+wv) +y(zv+wu))
−(
x(zv+wu) +y(zu+wv))
=(
x(zu) +x(wv) +y(zv) +y(wu))
−(
x(zv) +x(wu) +y(zu) +y(wv)) . さらに,Nの乗法に関する結合法則により
(xz)u+ (yw)u+ (xw)v+ (yz)v=x(zu) +x(wv) +y(zv) +y(wu), (xz)v+ (yw)v+ (xw)u+ (yz)u=x(zv) +x(wu) +y(zu) +y(wv).
したがって(ab)c=a(bc)が成り立つ.
[定理 2.27]Zの乗法における単位元は1である.
[証明]a∈Zとすると,あるx,y∈Nが存在してa=x−yと表すことができる. また, 1 = 1−0 である. よって,
a·1 = (x−y)(1−0) =x·1−y=x−y=a, 1·a= (1−0)(x−y) = 1·x−y=x−y=a.
したがって1はZの乗法における単位元である.
[定理 2.28]任意のa, b,c∈Zに対して
a(b+c) =ab+ac, (a+b)c=ac+bc.
が成り立つ. これらの等式をZの加法と乗法に関する分配法則という.
[証明]a, b,c∈Zとすると,あるx,y,z,w,u,v∈Nによってa=x−y,b=z−w,c=u−v と表すことができる.
Zの乗法の定義にしたがって計算すると,
a(b+c) = (x−y)(
(z+u)−(w+v))
=(
x(z+u) +y(w+v))
−(
x(w+v) +y(z+u)) . 同様に,
ab+ac= (x−y)(z−w) + (x−y)(u−v)
=(
(xz+yw)−(xw+yz)) +(
(xu+yv)−(xv+yu))
=(
(xz+yw) + (xu+yv))
−(
(xw+yz) + (xv+yu)) . さらに,Nの分配法則によって
x(z+u) +y(w+v) = (xz+yw) + (xu+yv), x(w+v) +y(z+u) = (xw+yz) + (xv+yu).
したがってa(b+c) =ab+acが成り立つ.
Zは乗法に関して交換法則を満たす(定理2.25)ので,一方の等式から他方が得られる.
[定理 2.29]任意のx,y,z∈Zに対して,次が成り立つ.
(i) x·0 = 0·x= 0.
(ii) (−x)y=x(−y) =−(xy).
(iii) (−x)(−y) =xy.
(iv) x(y−z) =xy−xz, (x−y)z=xz−yz.
[証明](i) x·0 =x(0 + 0) =x·0 +x·0. 両辺に−x·0を加えるとx·0が得られる. 同様にし て0·x= 0も得られる.
(ii) 分配法則と(i)よりxy+ (−x)y = (x−x)y= 0·y= 0. 逆元の一意性により(−x)y=−(xy).
同様にしてx(−y) =−(xy)も得られる.
(iii) 分配法則と(i)よりx(−y) + (−x)(−y) = (x−x)(−y) = 0·y = 0. 一方, (ii)より x(−y) = −(xy). ゆえに−(xy) + (−x)(−y) = 0. 両辺にxyを加えれば(−x)(−y) = xyが得ら れる.
(iv) 分配法則と(ii)よりx(y−z) =xy+x(−z) =xy−xz. 同様にして(x−y)z=xz−yzも 得られる.
[定理 2.30]任意のx,y∈Zに対して, x6= 0かつy6= 0ならば, xy6= 0.
[証明]x6= 0かつy6= 0のとき, 次の4通りのいずれかが成り立つ.
• x >0かつy >0,
• x >0かつy <0,
• x <0かつy >0,
• x <0かつy <0.
x >0かつy >0のとき,x,y∈N, x6= 0, y6= 0だから,Nにおいてxy6= 0となる.
x > 0かつy < 0のとき, −y > 0なので, x, −y ∈ N, x 6= 0, −y 6= 0だから, Nにおいて x(−y)6= 0となる. 一方,−xy=x(−y)だから−xy6= 0. よってxy6= 0.
x < 0かつy > 0のとき, −x > 0なので, −x, y ∈ N, −x 6= 0, y 6= 0だから, Nにおいて (−x)y6= 0となる. 一方,定理2.29 (ii)より−xy= (−x)yだから−xy6= 0. よってxy6= 0.
x <0かつy <0のとき,−x >0,−y >0なので,−x,−y∈N,−x6= 0, −y6= 0だから,Nにお いて(−x)(−y)6= 0となる. 一方,xy= (−x)(−y). よってxy6= 0.
[定理 2.31]任意のx,y,z∈Zに対して,z6= 0ならば xz=yz=⇒x=y が成り立つ. これをZの乗法に関する簡約法則という.
[証明]z6= 0とし,さらにxz =yzとする. xz=yzの両辺に−yzを加えるとxz−yz= 0とな る. 一方,分配法則より(x−y)z=xz−yzであるから, (x−y)z= 0である. このとき,定理2.30 の対偶によりx−y = 0またはz = 0である. z 6= 0と仮定したから, x−y = 0. よってx=y.
[定理 2.32]任意のx,y,z∈Zに対して,次が成り立つ.
(i) x < yかつz >0ならば,xz < yz.
(ii) x < yかつz <0ならば,yz < xz.
(iii) x >0かつy >0ならば,xy >0.
(iv) x >0かつy <0ならば,xy <0.
(v) x <0かつy >0ならば,xy <0.
(vi) x <0かつy <0ならば,xy >0.
[証明](i) x < yより,あるk∈N,k6= 0が存在してy=x+k. 両辺にzを乗じると yz= (x+k)z=xz+kz.
一方,z >0よりz∈N,z6= 0. よってkz∈N, kz6= 0. したがってxz < yz.
(ii) x < yとする. z <0ならば−z >0であるから, (i)よりx(−z)< y(−z). 一方, 定理2.29 (ii)よりx(−z) =−(xz),y(−z) =−(yz)である. よって−(xz)<−(yz). したがってyz < xz.
(iii) (i)において,x,y,zをそれぞれ0,x,yに置き換えればよい.
(iv) (ii)において, x,y,zをそれぞれ0,x,yに置き換えればよい.
(v) (i)において,x,y,zをそれぞれx, 0,yに置き換えればよい.
(vi) (ii)において, x,y,zをそれぞれx, 0,yに置き換えればよい.
[定理 2.33]任意のx,y,z∈Zに対して,次が成り立つ.
(i) xz < yzかつz >0ならば,x < y.
(ii) xz < yzかつz <0ならば,y < x.
(iii) xy >0かつx >0ならば,y >0.
(iv) xy >0かつx <0ならば,y <0.
(v) xy <0かつx >0ならば,y <0.
(vi) xy <0かつx <0ならば,y >0.
[証明](i) 対偶を示す. すなわち,y≤xならば,z≤0またはyz≤xzであることを示す. y=x のときはyz=xzである. y < xのとき,z≤0でなければz >0であり, そのとき定理2.32 (i)よ りyz < xzとなる.
(ii) xz < yzかつz <0とすると, (−x)(−z)<(−y)(−z)かつ−z >0であり, (i)より−x <−y.
ゆえにy < x.
(iii) (i)において,x,y,zをそれぞれ0,y,xに置き換えればよい.
(iv) (ii)において, x,y,zをそれぞれ0,y, xに置き換えればよい.
(v) (i)において,x,y,zをそれぞれy, 0,xに置き換えればよい.
(vi) (ii)において, x,y,zをそれぞれy, 0,xに置き換えればよい.