第 6 章 固定資産評価における納税者の権利救済
第 4 節 納税者保護のための今後の課題
平成 13年に公表された総務庁行政監察局『税務行政監察
J
によると、国税庁に対し適正 かっ公平な課税実現のために、不服申立等に係る法令の解釈・適用の状況等について調査 がなされた。それによると「納税者においてどのような解釈・適用を行えば適正な申告と なるかが明らかではなし泊6Jとし、「納税者等からの質疑があればその内容と、審査請求に おける採決の内容は、法令解釈と同様の意義があり、納税者が申告を行う上で有用な国税 不服審判所の採決内容については、納税者の秘密保持に配慮しつつ、公表事案を拡充して いく余地がある87J と指摘している。納税者の視点に立って考えた場合、求められている最大のものは信頼性である。それは 外面の公平らしさという面も重要であり、例えば審判官の 90%が国税庁出身者であるとい うことは、大きな欠点である。合議体の中で外部出身者がなるべく多い方が望ましいこと はいうまでもない。ただし専門性が必要不可欠という観点もあるため、審判官の最低 3分
86総務庁行政監察局 (2001)p.52
87総務庁行政監察局 (2001)p.53
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の 1は外部出身者が入ることが必要である白また国税庁内部での周知体制、税務通達およ び税務行政への反映は、第三者機関としての権威という面で疑問が残る。
そうしたことから 納税者の権利救済を考えた場合、司法機関が最良であろうが、そう すると簡易・迅速という面が失われ、納税者の救済機会が奪われかねないという点にも注 意が必要であるD 問題点はあるものの 納税者の権利保護としては、他の行政機関よりも 透明であり、今後内部運営を改善することにより、現制度のままでかなりの弊害が解消さ れるといえる。
おわりに
税務行政公権力の発揮と納税者保護のバランス
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不十分な徴収努力と徴収業務の改革課題
政権交代後、民主党連立政権における最初の税制改正となった2009年 12月22日「平成 22年度税制改革大綱Jは、税務行政改革について具体的な方向性を示している。そこでは 副題を「納税者主権の確立へ向けてJとし、「納税者の税制上の権利の裏返しとして、納税 者には適正に税制上の義務を履行することが求められます。義務を適正に履行しない納税 者に対しては、厳正かっ的確に対処する必要がありますj とし、具体的には、国税不服審 判所の改革などの納税者権利保護と、税と社会保障の一体改革の一環として、納税者番号 制度の導入や歳入庁の設置、各税法の改正による罰則の強化など、徴収強化に向けて踏み 込んだ姿勢が示されている。
もっともそれらは新政権となっての目新しい議論ではなく、例えば平成15年6月政府税 制調査会中問答申 f少子・高齢化社会における税制の在り方jでは、納税環境整備として、
f納税者番号制度J
r
記録・記帳に基づく申告制度Jr
立証責任の見直しJr
公示制度・資料 情報告IJ度Jr
罰則の強化Jが挙げられるなど、税務行政改革に対し具体的項目が答申されて いる。しかし、そうした答申が、具体的な制度改正になかなかつながってこなかった。徴収面で法整備が十分でないことを表す事例として、序章第2節の OECD諸国の比較に おいて取り上げた納税者番号制度がある。同制度が存症しない国は日本とスイスのみであ り、主な国は滞納者に対し海外渡航制限、政府サービスの利用禁止、政府支払の臨保、破 産手続きの開始など厳しい罰則を課している。法令はどの程度厳密に執行されているかが 重要なので、法令の規定だけで、制度の厳格性を比較することに鰭賭するところはあるが、
わが国では、いわゆる脱税(過少申告を含む)・滞納に対する罰則が OECD諸国中最も軽 く、少なくとも徴収強化に踏み込んでいるとはいえない。納税者保護と徴収強化が同時に 強化され、かっバランスよく行われることは、税制への国民の信頼獲得にとって望ましい ことである。徴税強化に向けた制度とその運営面での改革は、国民の税制への信頼感の獲 得の上で、避けられない課題であるといえる。
本論では、税務行政の執行におけるフィーノレドワーク調査を重視してきた。例えば、第4 章で取り上げた各地で設立され活動している地方税滞納整理機構は、徴収強化に一定の効 果を挙げている反面で、徴収が厳しすぎるとしづ批判もある。滞納整理機構の滞納処分に ついて、差押などの強制処分による徴収の例が行き過ぎであるという認識から、納税者の 権利を保障するように求めている88。滞納処分にあたっては、差押などの強制処分を行うこ とのみでなく、納税者の経済的事情にも配慮、し、厳格な財産調査などを経て滞納処分の執 行停止(その後 3年間財産状況に変化がなければ自動的に徴収権が消滅する)を行うこと
による納税者保護を行うことも重要な処分である。しかしながら、それら双方とも執行さ れることなく、時効を迎えるようなことになると、納税者間の公平と納税者保護のどちら
88例えば、平成22年 3月24日、参議院総務委員会における山下芳生委員の質問。
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からみても不十分という結果となり、税制への不信感を募らせる事態を招いてしまう。
本論で調査・検討してきたように、市町村税務行政の徴収面においては、特に小規模団 体において、定められている徴収業務ができていないことが多い、その背景として、行革 推進による職員数削減が挙げられる。現場ではそれに甘んじることなく、対応策として滞 納整理機構等、広域連合による税務共同化などの工夫を講じることにより、徴収率改善に 取り組むべきである。
国税・地方税双方の税務行政改革の方向性を、効率化の観点から検討したものが、第 3 章取り上げた三税協力である。国税・道府県税・市町村税は課税事務においてかなり重複 するものが多い。本論で取り上げた所得税と住民税の新しい連携関係は、税収の大きな税 自であることから、効率化の効果が大きいと期待される。特に、徴収業務では改善の余地 は大きい。政府が導入方針を示した共通番号制度が実現し、財産状況が課税側に把握され るようになれば、課税庁間での情報共有化が進む。その際に、徴収活動において三税が利
とらわれず協力する必要がある。
本論で取り上げた税務行政に関するフィールドワークによって、自治体の税務行政にお いて、十分な徴収業務が行えていないケースが多いことを示した。不納欠損処分を擦路す るあまりに、徴収率が異常に低い団体もある。市町村間では団体規模の差が大きい。地方 行政全体の職員定員の削減によって、特に小規模団体においては、単独で徴収業務の質的 向上が難しい状況にある。そうした状況を克服するための改革課題は大きい。
2 . 納税者保護制度改革の確立の課題
日本の税務当局の納税者権利保護に対する意識は、飯塚事件がその転換点といわれてい る。 1963年、飯塚毅税理士が顧問企業に脱税を指導したとして89、関東信越国税局が集中 的な税務調査を行った。飯塚税理士は以前から、国税庁通達などに異議を発信し続けてお り、そのためか顧問企業に対する税務調査が、常軌を逸したもので、あったといわれている。
飯塚税理士や支援者による粘り強し、運動の末、宇都宮地裁で、無罪の判決を勝ち取った。ま た国会でも国税庁の対応等が問題視され90、1970年の国税通則法改正(国税不服審判所関 係)となったとされる。理不尽な税務調査など税務当局の怒意性に対し、国会での国税庁 長官答弁からの国税庁運営指針の転換で一定の歯止めがかかったとされている。
本論では納税者保護制度の確立のための課題を次に示す各章で取り上げている。序章第2 節の税務行政の各国比較においてOECD諸国の納税者保護制度の代表的手法は、納税者権 利憲章の制定であることがわかる。納税者の権利保護を明文化・明確化することにより、
税務当局または納税者保護制度が、納税者の立場に立ったものであることが必要となって
89具体的には 1962年、見IJ段賞与・出帳日当に対する国税局の指摘に対し、税務訴訟を提起 したことが挙げられる。
90例えば、昭和39年3月4日衆議院大蔵委員会での横山手IJ秋議員(社会党)の質問、 6月 10 E3同委員会での渡辺美智雄議員(自民党)の質問より質疑が行われた。
きている。翻って日本の納税者保護制度はどうなっているか。国税庁が毎年公表する「税 務運営方針jでは、税務行政の適正運営を促しているが、具体的に納税者が活用できる権 利保護を求める制度は国税通則法で定められた国税不服審判所への不服申立のみである。
他に平成 13年度に新設された「納税者支援調査官J制度があるが、設置税務署が限られて いることや権限面での問題など、現状主要な納税者保護制度とはなっていないのが現状で ある。
第 7章でみた国税不服審判所は、前身の協議団制度と比較すると、独自の採決権、国税 庁長官通達に対する否認権という大きな権限を持っていることを指摘した。それが制度の 趣旨通り機能していれば、納税者にとっては大きな利点となり、税務当局にとって怒意的 な通達、運用を妨げるものとして効果を発揮するものである。わが国では納税者権利章典 などの整備は遅れているものの、執行面で実質的に納税者保護に資すればよいとの考え方 で進んできており、その点で国税不服審判所の運営方針は緩やかではあるが、実質的な納 税者保護制度へ前進しているようにみえる。しかし本論でも述べたように、制度の趣旨に のっとり納税者の立場に立ち実質化していくという税務当局の努力は、まだ改善の余地が 大きい。
第 6章で取り上げた固定資産評価審査委員会は、回定資産税の税額決定の基礎となる国 定資産評価に対する納税者の異議に対応するもので、賦課課税の税目、特に悶定資産評価 額などの一般に判断が困難であるものには必要不可欠な制度であると考えられる。その制 度整備状況では、事務局が税務関係課に置かれ納税者の信頼性が損なわれている点、執行 面では委員の専門性が薄く説得的な採決が行われておらず、納税者の信頼を得るには至っ ていないことを確認し、それらの充実が必要であることを挙げてきた。
第 5章で取り上げた滞納処分の執行停止の運用状況は、納税者保護の執行面での問題を 示している。税の徴収業務では、原則差押などの強制執行が行われる反面、納税者の経済 的事情に配慮した滞納処分の執行停止や徴収猶予の制度が整えられているが、その運用状 況は全滞納額の 1%以下であり、強制執行と合わせても数%にとどまっている。これは税務 当局が財産調査などの滞納者調査を行っていないか、行っていても執行に踏み切っていな いことを示している。また正式な規定ではない分納・延納がその数倍にのぼるなど、制度 の趣旨を執行面で十分に生かしていない現状が示されている。そのように制度面の問題の みではなく、執行面での問題が納税者の税務当局に対する信頼を損ねていることが考えら れる。制度の趣旨にのっとった運用が行われているかを常に検討する必要がある。
3 . 今後の税務行政改革の方向性
納税者保護と徴収強化が問時に強化され、かつバランスよく行われることは、税制への 国民の信頼獲得にとって望ましいことであり、どちらか一方の強化は国民の理解を得られ ないと考えられる。序章でのOECD諸国との制度面の比較において、日本の税務行政は納 税者保護・徴収強化両面において大きく立ち遅れていることを述べたが、執行面において
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