第 1章 地方税徴収の現状と執行実態ー不納欠損処分にみる徴収業務の義異ー
第 2 節 国民健康保険「料 J と「税 j の現状
国民健康保険徴収の実態に入る前に、保険者である市町村の f料j と「税jの選択状況 およびまた徴収実績状況について検討する。まず、制度選択の現状を示したものが図表2・2 である。
図表
2 ‑ 2
平成1 9
年 度 留 民 健 康 保 険f料Jとf税jの採用状況団体 収 入
国民健康保険料 241団 体 (13.3%) 17,497億円 (46.4%) 国民健康保険税 1,575団体 (86.7%) 20,210億円 (53.6%)
合 計 1,816団体 37,707億円 出所)厚生労働省資料より筆者作成
団体数でみると 86%が f税Jを採用している。しかし収入額をみると約 53%である。
r
税j採用団体は中小規模団体が中心で、「料J採用団体は大規模団体が中心であることがわかる。
しかし大阪市のように大規模団体においても f税jを採用している例がある。
小規模団体は、国民健康保険主管課に徴収専門職員を置く人員的な余裕がないことが考 えられ、税務と一体的に徴収を行わないと、滞納処分といった手間と人員がかかる業務が できないといった事情が考えられる。前節の厚生省報告書において f市町村の事務処理体 制に十分考慮、しjは、大部分このことをさしていると考えられる。それでは f料J•
r
税J 別の徴収実績を示したものが図表2合である。国民健康保険全体の徴収率は地方税に大きく劣った数値であり、特に一旦滞納になって しまった分(滞納繰越分)の徴収が困難であることを示している。未収金は直接保険財政 に影響することから、市町村にとって地方税以上の課題であることがわかる。
f料j と「税jの徴収率比較では、現年分、滞納繰越分とも「税J団体の方が優位であ る。合計徴収率において「料jが高くなっているのは、「料Jは徴収権の消滅時効が2年(地 方税は 5年)であるために、滞納繰越分の調定額が元々低く、滞納繰越分徴収率が低くと
も合計徴収率の数値が高く出る傾向があるからだと考えられる。ただし国民健康保険全体 47
と地方税の徴収率差異は歴然としており、そこが問題点の根本であると考えられるが、今 回は国民健康保険内の徴収制度の違いを検討するため、今後の検討課題とする。
図表2‑3平成19年度奈良県内国民健康保険の徴収状況
現 年 分 徴 収 率 滞 納 繰 越 分 徴 収 率 合 計 徴 収 率 国 民 縫 康 保 険 料
( 3団体) 90.5% 10.9% 7 6 . 2
弘 国民{建康保険税(36臼体) 93.2% 12.1% 75.2%
(参考)地方税合計
97 . 7 % 16.4% 89
・0%
出所)奈良県市町村課資料より筆者作成
f料Jと「税jの徴収率の差異は、一般的には根拠法による相違であるといわれている。
しかし徴収業務を実際に検討してみると、それだけでは説明がつかないことを感じる。こ こでは f料j と「税jの法的相違点を押さえることにより、実際に徴収業務に影響を与え るものは何かということを検討する。
図表2‑4
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料jとf税jの法的相違点国民健康保険料 国民健康保験税 根;処法 国 民 健 康 保 険 法 地 方 自 治 法 地方税法
徴収金の取扱 会計職員でも可 徴税吏員のみ
滞 納 処 分
差押を行うことができる 差押を行わなければならない
{也憤権との j頓位 税に劣後私憤権{こ優先 国税と問順位私債権・公課に優先消滅時効 2
年5
年不服申立 国民{建康保険審査会に審査請求 市町村長(こ異議申立 その他 f料jは税務情報の使用不可(地方税法第
22
条・税務の守秘義務) 出所)市町村税務研究会編『国民健康保険税』から筆者作成図表2‑4は「料jと f税jの法的な相違点を示したものである。そこで認識されている ことは、消滅時効期間と他債権との順位である。それが徴収力の差であると説明されてき た340 しかし本報告では、滞納処分に関する規定の違いに着目する。これが体制上の違いを 生み、徴収業務の違いとして表れているのではないかと考えられるからである。
滞納処分とは、滞納者に対し督促を行い、それでも完納しない場合には財産調査を行い、
差押・参加差押・交付要求などの強制的徴収を行い、それでも完納とならない場合、また は最初から財産等がない場合には、執行停止を行い 3年間の継続を経た後の不納欠損処分
34例えば、市町村税務研究会 (1995)pp.90‑96
を行うという一連の徴収業務である。
「税Jが根拠とする地方税法においては、国民健康保険税の滞納処分に対して「差押を 行わなければならなしリ(地方税法第728条)とされており(他の地方税も条項は違うが同 様)、差押を行う義務があると解される。このため財産調査についても徴税吏員の質問調査 権(地方税法第707条)が与えられている。
一方「料jが根拠とする国民健康保険法は、滞納処分について地方自治法によるとし(国 民健康保険法第 79条の 2)、地方自治法は「地方税法の滞納処分の例により処分することが できる。J(地方自治法第 231条の3第3項)としている。地方税法の例によるため、財産 調査、差押などの権限は、地方税関様である(ただし徴税吏員であることが必要)。異なる 点は、差押を行うことが「できるj とされている点であり、これが徴収の体制、徴収業務 執行の強弱に影響を与えていることが考えられる。
他債権との順位に関しては、法規定は実態とは必ずしも整合的ではない。これは税債権 と他債権の差押後の執行(競売など)の調整を定めた滞納処分と強制執行等手続の調整に 関する法律(以下、滞調法)が、必ずしも税債権優先を定めていないことによる。同法は 破産等による財産の差押後の強制執行の円滑な調整を図ることを目的とし、税債権優先よ りも先取権優位の原則等を定めているため、地方税法と滞調法の矛盾であるが、滞調法が 特例法であるために滞誠法によって執行されることが現実に多い。
また、「その他J税務情報の使用についても、滞納処分においては大きな影響があると考 えられる。差押などの執行には、まず財産調査が必要不可欠であり、行う権限はあっても 税務情報とは別に行うことは、多大な事務量になるために負担が大きく、実質上函難であ
るということが考えられる。
第
3
節 奈良県内市町村の実態調査1 .
国民健康保険の徴収体制国民健康保険制度は大きく f料J
r
税jに分かれるが、市町村の徴収体制としては、さら に「税j団体においても分かれることに注意が必要である。徴収を税務主管(多くは税務 課)で、行っている場合と、国民健康保険主管(多くは国民健康保険課)で、行っている場合 に分かれる。これは徴収と賦課業務を一体的に行う方が効率的であると判断し、徴収業務を国民健康 保険主管で、行っていると考えられるが、この場合法的には「税j を扱うために徴税吏員が いれば問題なく、徴収においては「料jに近い体制であるといえるため、本稿では f税J 団体を体制により区分することとした。
また税務課主管で、徴収を行っている場合でも、賦課業務は国民健康保険主管課で、行って いる場合がほとんどで、賦課と徴収を切り離した体制といえる。その状況を示したものが 図表2・5である。
49
図表
2
・5
奈良県内市町村の徴収体制 徴収担当課国民健康保験税 関民健康保験料
嶋崎 一村
和一明務一針
税⁝
2
国保課主管 14市町村
3市
平均徴収率 現 年93.8%滞 繰12.80/0
現 年90.2%滞 繰11.3%
出所)奈良県市町村振興課 平成20年度調査より筆者作成
「税J (国民健康保険課徴収)団体は徴収業務において f税jである法的特性は活用でき るが、税務課とは別々に徴収を行うことにより、純粋に税務課が行う徴収業務とは違う傾 向が出てくるのではないか、と考えられる。これらの点を踏まえ、具体的に調査する団体 を示したものが図表2‑6である。
図表会
6
税方式・料方式と所管課の関係 徴収担当課│
税務課国民縫康保険税 122市 町 村 擾 原 市 生 駒 市 国民健康保険料
国保課
14市 町 村 大 和 高 田 市 大 和 郡 山 市 桜 井 市 3市 奈 良 市 天 理 市 香 芝 市
出所)筆者作成
奈良県内市町村 39団体のうち町村が 27団体を占める。多くの小規模町村は税務におい ても徴収に人員を割けないなどの事情があり、定められた徴収業務を行えていないことが 現実である。そのため今回の徴収業務を比較する対象として不適当であると判断し、「税j
団体の中でも比較的大規模同体を対象とした。また「料J団体は大規模団体が中心である ために、「料j と「税j に徴収業務の比較検討には、同規模程度の団体を選定することが必 要であると考え、図表 2・6に示したとおり「料J3団体(奈良市・天理市・香芝市)、「税j
(税務課主管) 2団体(檀原市・生駒市)、「税J(国保課主管) 3団体(大和高田市・大和 郡山市・桜井市)を選定した。調査の概要は以下のとおりである。
調 査 概 要 期 間 : 平 成21年6月'"'‑'7月
対 象 :
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料J3団体(奈良市・天理市・香芝市) f税J(税務課主管)2団体(櫨原市・生駒市)「税J(国保課主管)3団体(大和高田市・大和郡山市・桜井市)計8市
資料収集方法:各市が条例に定める情報開示請求による(一部は形式として資料提供) 調査項自:直近 3年間(平成 17年度'"'‑'19年度)の由民健康保険料(税)と市税の強制
執行状況(差押など)、不納欠損処分状況(法根拠別)、執行停止状況(法根拠 別)
調査目的:各市の国民健康保険料(税)の徴収業務執行を比較する。また市税との徴収
業務執行を比較する
2.
国民健康保険料(税)の徴収率
最初に国民健康保険料(税)の徴収率状況を、特に滞納繰越分徴収率、滞納繰越分調定 率に注目し検討する。厚生労働者資料などでは、これらは現年徴収率で公表されるため、
先に述べた調整交付金における徴収率によるペナルティーも、現年徴収率によることから、
滞納繰越分に着自した検討は、税では当然に存在するが、国民健康保険においては目新し いものである。それを示したものが図表2・7である。
図表2‑7国民健康保険料〈税〉の徴収率"調定額状況〈平成17‑19年度平均健) (単位:%)
徴収率 滞納繰越比率
王見年 滞納繰越 合計 (滞納繰越分調定額/調定義烏 事ヰ 奈良市 89.6 10.7 ア6.6 16.5
天理市 93.6 8
. 4
76.1 20.5 香芝市 94.0 12.5 76.8 21.1 税(税務課) 撞原市 92.5 12.5 72.0 25.6 宝駒市 94.7 8.5 75.0 22.9 税(国保5
菜) 大和高田市 91.8 11.6 76.2 19.5 大和郡山市 93.7 11.6 76.2 21.4 能井市 91.8 11.2 75.5 24.2出所)筆者調査・作成
調定額に占める滞納繰越分の比率(滞納繰越比率)は、地方税が平均 10%前後であるこ とを考えると、かなり高い数値であることがいえる。滞納繰越分が多いということは、徴 収が困難で滞納になる割合が高いという他に、分納・延納(滞納繰越分調定額の一部であ
る)が多いとしづ感覚的なものを数値で示している。
滞納繰越分徴収率は、傾向としてはっきりは出ていないが、他の地方税(平均20%前後) と比較するとかなり低い数値となっている。
その中で「料jは 2年時効(税は 5年)であることから滞納繰越分調定額比率が低いと 考えられるが、その税と比べて少ない滞納繰越分に対する徴収率が同等もしくは低いとい
うことは、徴収努力という面で評価できるのかという問題もある。
3.
国民健康保険料と市税徴収業務の比較検討
徴収業務の内容の検討に入る前に、単なる団体関の比較は経済状況や税収構造の違いな どから、参考にならない部分がある。本節は徴収業務の内容を、団体問だけでなく、他市
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