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米国の所得相応性基準と OECD 移転価格ガイドラインにおける見解

第2章 米国における所得相応性基準

第3節 米国の所得相応性基準導入の反響等

3 米国の所得相応性基準と OECD 移転価格ガイドラインにおける見解

スタンスを示しており、所得相応性基準について容認してはいないものと解 される。

なお、取引時にその評価が極めて不確かである無形資産について、この OECD 移転価格ガイドラインの対応で十分な対処が可能かということについ ては、その 6.13 において無形資産が「比較対象取引を探すのが困難であり、

また場合によっては取引時に価格の決定が困難であるという特別な性格を持 っている」ことを認めているように、当該無形資産に比較対象取引が存在し ない又は想定できない場合には、この OECD 移転価格ガイドラインの対応では 限界があり、対処できないことが容易に想像できるところである。

このような OECD 移転価格ガイドラインの見解が、すべての EU 諸国の考え であるかは定かではないが、これまでにおいて、OECD 加盟国のコンセンサス として OECD 移転価格ガイドライン上は、米国の所得相応性基準に対しては容 認できないというポジションが保持されてきたところである。

3 米国の所得相応性基準と OECD 移転価格ガイドラインにおける見解への考察

性基準について、「納税者が合理的に予知し得なかった状況に焦点を当てるこ とによって、利益分割法の適用により、納税者に罰を与えてしまうことにな りかねない。そのような適用は独立企業原則に反する」としていることは、

納税者が合理的に予知し得なかったのか、それとも意図的に予知し得なかっ たのかが、納税者の内心の意思によるものであり、これは納税者の恣意的な 判断を許容する根拠となりえるものであると考える。

したがって、米国の所得相応性基準のように、独立企業間原則が認められ るなかで適用除外要件として、「当初の予測による期待収益等が実際の総利益 等がその 80%以上かつ 120%以下ならば適用除外とする」というようなセー フハーバー的な範囲を組み込むことが、納税者の内心の意思とは別に、課税 上問題となる取引のみに焦点を当てることで、適正課税の実現を図るという ことが望ましいのではないかと考える。

納税者の予知がセーフハーバー的な範囲外となるような場合であれば、当 該予知がその時点で合理的なものだったのか、恣意的なものだったのかを問 わず、得られるべき所得に基づいた課税がなされるのであれば、それは「後 知恵」として非難されるものではなく、適正課税又は公正な課税の実現に資 するものではないかと思慮するところである。納税者の内心の意思に基づき、

合理的な予知を救済する(その予知が如何に大きく外れたとしても)ことを 理由として、実績値からの課税を「後知恵」として葬ることは、何か他に所 得相応性基準を認めたくない意図があるようにも思えるところである(54)

OECD 移転価格ガイドラインが、比較対象取引の存在しない無形資産に係る

(54) 米国が導入した所得相応性基準を OECD 移転価格ガイドラインが受け入れない上記 以外の理由を想像するに、OECD 加盟国の多くはどちらかというと、米国のような潜 在的に高収益が見込まれる無形資産によって所得が国外流出する側の国ではなく、

そのような流出所得の受け入れ側の国になるものと想定され、所得相応性基準を認 めるならば実績値を用いた事後的な米国の課税に対し、租税条約に基づき相互協議 を通じて、税額還付に応じることになりかねないと考えたからではないか。自国が 無形資産に関し入超である国にとっては、所得相応性基準を認めることは事後的な 税収の減少を受け入れることになりかねないということである。

独立企業間価格の算定について有効な手立てを提供できてはいないというこ とが、現実に移転価格課税上の問題となる国としては、OECD 加盟国のうち、

潜在的に高収益が見込まれ、かつ、国外に流出しやすい無形資産を数多く保 有している国に限られるであろうと思われる。そのような国は、世界的な技 術力を持つ有数の企業が存在しており、国際的に通用する技術特許やノウハ ウの製造無形資産、トレードマーク等の流通無形資産が国内に数多く認めら れる国であるといえる。

このような国としては、米国が該当することは当然であるが、EU 諸国のな かでドイツが該当するものと思われ、ドイツもこれまで製造無形資産等の国 外流出に悩まされてきたところであるが、上記のように OECD 移転価格ガイド ラインは無形資産に係る独立企業間価格の算定について有効ではなかったこ とからも、これまで米国の所得相応性基準の導入を非難する側にいたドイツ ではあるが 2008 年 1 月に所得相応性基準の導入に踏み切ることとした。

この EU 諸国第一の技術立国であるドイツの所得相応性基準の導入につい て、次章においてみてみることとする。