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わが国に導入すべき所得相応性基準の制度構成

第5章 わが国の所得相応性基準の具体的イメージと執行の在り方

第1節 わが国の所得相応性基準の具体的イメージ

1 わが国に導入すべき所得相応性基準の制度構成

前章までの所得相応性基準導入に係る各検討を踏まえて、わが国に導入す べき所得相応性基準の制度構成については、以下のようなデッサンが描ける ものと考える。

○ 所得相応性基準の対象取引

所得相応性基準の対象取引は、国外関連者間取引のうち無形資産の譲渡 又は使用権の供与を含むもので、年間の取引金額が一定以上のものとする。

所得相応性基準の対象となる無形資産については、基本的にはこれま での移転価格税制の対象としてきた無形資産〔移転価格事務運営要領 2

-11(調査において検討すべき無形資産)〕が対象となるものと考えるが、

現行では通達規定であり定義規定的に置かれたものではなく、また、新 たなる義務規定についてその範囲をより明確に示す必要があるとも考え られることから、法令上に所得相応性基準の対象となる無形資産につい て定義規定を置くことが望ましいものと考える。

年間の取引金額については、以下の基準金額ではどうかと考える。

・製造特許等の無形資産により生産された商品の輸出入取引について は、同一商品の取引の年間取引総額が 10 億円

・無形資産の使用料であるロイヤルティの受取又は支払については、同 一無形資産の使用料の年間受取又は支払総額が 5 千万円

・役務提供の対価については、同一国外関連者への年間総額が 1 億円

○ 所得相応性基準の適用除外

所得相応性基準に係るセーフハーバールールの導入

乖離幅方式を採用したセーフハーバールールを所得相応性基準による

定期的調整の適用除外要件として導入する。乖離幅としては、期待利益 の上下 25%幅ではどうか。

特異な発生事項による適用除外

国外関連者の管理能力を超えて、締結時点では合理的に予想できなか ったと認められる特異な発生事項が生じた場合には、所得相応性基準の 適用除外とする。これには、市況が予想以上に好転したことのよる大幅 な売上増などは該当しないものとする。

また、これは納税者にとって有利な事実を納税者が主張するものであ り、「証拠との距離」という実質論的な観点にも着眼して、立証責任につ いては納税者側が負うものとする。

明確な比較対象取引による独立企業間価格の算定

一般的に、潜在的に高収益が見込まれる無形資産については、比較対 象取引が存在していないわけであるが、当該無形資産の譲渡又は使用権 の供与に関し、比較対象取引が明確に存在しこれにより独立企業間価格 の算定がなされており、そのことを納税者が同時文書化をして、当該事 業年度の申告書にその判断根拠の説明を記載して提出するのであれば、

所得相応性基準の適用除外にすることができることとする。

○ 所得相応性基準による定期的調整の適用期間

所得相応性基準による定期的調整の適用期間は、5 年間とする。

適用期間内の定期的調整に係る通算については、当該無形資産の譲渡又 は使用権の供与により、5 年間を通算してセーフハーバーの範囲内に納ま ることで国外関連者への所得移転の蓋然性が認めらない場合には、問題な しとすべきであると考える。

したがって、そのような場合には、その根拠について各事業年度で同時 文書化を行い、当該事業年度の申告書にその判断根拠の説明を記載して提 出することで、定期的調整の猶予(繰延)を認めることが妥当である。

ては同時文書化を、それ以外の移転価格税制に係る国外関連者間取引につ いては文書化を、法制度として導入すべきである。

所得相応性基準についての同時文書化

所得相応性基準の適用対象となる国外関連者間取引を行う納税者は、

当該国外関連者間取引に係る独立企業間価格の算定及びその定期的調整 に関して、同時文書化の義務を負うものとする。

・同時文書化の文書の作成期限

同時文書化に係る独立企業間価格の算定のために要した文書が存在 している期限としては、米国では納税者の申告時点において、ドイツ では事業年度終了後 6 ヶ月以内となっており、わが国においては企業 の事務負担を考慮して、ドイツと同様に事業年度終了後 6 ヶ月以内と する。

・同時文書化の文書の提出期限

同時文書化に係る文書の提出は、課税当局から要求がされてから 60 日以内になされなければならないこととする。

・同時文書化の文書の保存年限

所得相応性基準による定期的調整の適用期間を 5 年間とすると、そ の最終年度に係る除斥期間の終了時点までを同時文書化の文書の保存 年限とすることが望ましい。

・同時文書化において入手・保存すべき文書

所得相応性基準の適用対象となる無形資産の譲渡又は使用権の供与 の対価に係る独立企業間価格の算定に関する文書に加えて、前章第 2 節 1.(3)で示したリストに掲げた文書を入手・保存すべきである。

なお、同リストの星印をつけた 3 項目については国外関連者から無 形資産の移転後において継続的に入手する必要があり、これらについ ては当該無形資産の移転等に係る国外関連者との契約条項のなかに取 り込むこと等により、所得相応性基準の適用期間に係る各事業年度に おいて入手可能としておくことが必要となるものである。

このことは国外関連者に別途コストを掛けさせることから、このよ うな事項の契約条項への盛込みを国外関連者に納得させるには、少な くとも所得相応性基準に係る同時文書化が法律上の制度であることが 必要である。

所得相応性基準以外の移転価格税制に係る文書化

所得相応性基準以外の移転価格税制に係る国外関連者間取引について は、小規模企業への軽減措置的な適用基準を置いた上で、訴訟対応の観 点からも文書化義務が必要である(99)

○ 同時文書化の適切な履行による加算税の賦課免除

同時文書化を適切に履行したうえで定期的調整が的確になされていたと 認定できるものについては、国税通則法通則法第 65 条第 4 項の規定を解釈 するか又は新たな立法措置により、当該定期的調整に関し更正処分がなさ れたとしても、その加算税を免除することとする。

なお、同時文書化を適切に履行せず、これに係る定期的調整に関し更正 処分がなされた場合には、重加算税の賦課を行うべきである。

○ 新日米租税条約の交換公文 3 との調整

OECD 移転価格ガイドラインの尊重を定めた新日米租税条約の交換公文 3 の規定内容について、「OECD 移転価格ガイドラインに採用されていないが、

両締約国が共に採用することとなった移転価格に係る制度は除く」旨の記 述を追加するなどの訂正を行い、所得相応性基準を交換公文 3 の適用除外 とする。

以上アウトラインではあるが、わが国に導入すべき所得相応性基準の制度 構成について、上記のような構想を思い描くところである。