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新日米租税条約の交換公文 3 との調整

第4章 わが国への所得相応性基準の導入の検討

第2節 わが国への所得相応性基準の導入のために 検討すべき課題

8 新日米租税条約の交換公文 3 との調整

(1)新日米租税条約 交換公文 3- OECD 移転価格ガイドラインの尊重 交換公文 3 は、両締約国の税務当局が移転価格の執行、つまり調査及び 事前確認審査を行う際には OECD 移転価格ガイドラインを尊重すべき義務 を以下のように規定したものである。

この交換公文 3 には、これまでの日米の移転価格の実務経験を踏まえて、

わが国に移転価格の算定方法として OECD 移転価格ガイドラインで認めら れている新しい算定方法-取引単位営業利益法(Transactional Net Margin Method:TNMM)-を導入する意図があったものであると考えられる。

「 条約第 9 条に関し、二重課税は、両締約国の税務当局が移転価格課税事 案の解決に適用されるべき原則について共通の理解を有している場合に のみ回避し得ることが了承される。このため、両締約国は、この問題に ついての国際的なコンセンサスを反映している経済協力開発機構の多国 籍企業及び税務行政のための移転価格ガイドライン(以下この 3 におい て「OECD 移転価格ガイドライン」という。)に従って、企業の移転価格 の調査を行い、及び事前価格取決めの申請を審査するものとする。各締 約国における移転価格課税に係る規則(移転価格の算定方法を含む。)は、

OECD 移転価格ガイドラインと整合的である限りにおいて、条約に基づく 移転価格課税事案の解決に適用することができる。」(97)

この交換公文 3 との関係で所得相応性基準を制度として導入すること自 体については、交換公文 3 は「OECD 移転価格ガイドラインを遵守した執行」

等について制約を課したものであり、わが国が OECD 移転価格ガイドライン と整合的でない制度の導入を禁じたものでないことから、OECD 移転価格ガ イドラインと整合的でない制度改正をわが国がすること自体は交換公文 3 に抵触することにはならないものと考える。

(2)所得相応性基準の導入と新日米租税条約 交換公文 3

上記から判断して、現状の新日米租税条約 交換公文 3 の規定の下では、

(97) 英文では、「Therefore, the Contracting States shall undertake to conduct transfer pricing examinations of enterprises and evaluate applications for advance pricing arrangements in accordance with the Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations of the Organisation for Economic Cooperation and Development (hereinafter referred to as “the OECD Transfer Pricing Guidelines”), which reflect the international consensus with respect to these issues.」となっており、この文章では「shall」が用いられてい ることから、「in accordance with」の訳として「踏まえて」程度の訳ではなく強制 力を伴う「従って」が用いられている。したがって、移転価格の調査及び事前確認 審査において、租税条約により二重課税を回避するためには、OECD 移転価格ガイド

所得相応性基準を導入したとしても、日米の移転価格事案については機能 しないという事態が生じることが考えられる。これに対しては、以下のよ うな対応策を考えるところである。

イ 所得相応性基準を日米の移転価格事案に対して適用する場合 日米の経済取引はわが国の国際取引のなかで大きなウェイトを占めて いるものであり、移転価格事案の相互協議件数についても 2005 事務年度 で半数近くを占めており(98)、今後この件数の割合が急激に減少するもの とはおもわれない状況である。米国との一方的な基本的技術供与のよう な事例は少ないと思われるが、最先端技術の提供による高額なロイヤル ティ収入は十分に見込まれることから、所得相応性基準が導入されれば、

米国についても的確に無形資産の対価を検証する必要があると考える立 場をとる場合である。

なお、おそらく米国自体が今後とも相互協議にしないことを前提に、

日米の移転価格事案に所得相応性基準を適用することは十分に考えられ ることから、ユニラテラルな事案については両国とも所得相応性基準の 適用が可能で、バイラテラルで相互協議となるとどちらも所得相応性基 準が使えないという奇妙な状況が生じることにもなる。

このような状況を改善するためにも交換公文 3 に関して、次の①又は

②の対応について検討を行う必要があるものと考える。

① 米国と租税条約に関し協議を行い、交換公文 3 の規定内容に「OECD 移転価格ガイドラインに採用されていないが、両締約国が共に採用 することとなった移転価格に係る制度は除く」旨の記述を追加する などの訂正について両国で承認しあう。

② 交換公文 3 の訂正をしないのであれば、所得相応性基準を導入し たドイツや米国と共に OECD 移転価格ガイドラインが所得相応性基 準を採用するよう働きかけ、無形資産の評価について定期的調整を

(98) 国税庁『事前確認の状況 APA レポート 2005』による。

受け入れる改正をしてもらう。

上記②より①の方に実現可能性があるのではと考えるが、現実的には どちらも実現はかなり厳しいものと思われる。

ロ 所得相応性基準を日米の移転価格事案に対して適用する必要はないと する場合

米国と日本では先進国間の租税条約として締結したものであり、所得 相応性基準を日米の移転価格事案に対して適用しないのは先進国間の優 遇措置であるとし、無形資産の国外流出で重点的に問題となるようなア ジア諸国又は低課税国との移転価格事案についてのみ、所得相応性基準 を適用すれば問題はないという立場をとる場合であり、政策的見地から みても、上記(1)の①及び②の実現可能性がほとんどないことからもこの ような判断が妥当であるとするものである。

確かに、ロのような割切りはあり得るは思うが、実現可能性が低くと も、わが国に所得相応性基準が導入できたのであれば、イのような取組 みがなされることを期待したいものと考えるところである。