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内国歳入法典での所得相応性基準の規定

第2章 米国における所得相応性基準

第2節 米国の所得相応性基準の規定

1 内国歳入法典での所得相応性基準の規定

(1)米国連邦議会による 1986 年の内国歳入法典§482 の改正

上述のような背景の下では、比較対象取引を見出すことが困難なケース においては、納税者はしばしば産業全体の平均値との比較を持ち出すなど、

無形資産の移転時点に知られていた事実にのみに着目して独立企業間価格 を主張し、無形資産の潜在的な収益性を考慮しようとしなかったことが IRC§482 白書に指摘されており、無形資産の収益性が高ければ高いほど、

その無形資産が国外に移転等されることにより、当時の米国としては適正 な課税の機会を失うという事態が続いていたわけである。

1986 年に米国連邦議会は、比較対象取引に依存した従来の制度は、比較 対象取引が存在しない場合の明確な指針を示しておらず、関連者に対する 適正課税の実現ができないと判断し、IRC§482 を改正し米国における所得 相応性基準の導入を行ったわけである。IRC§482 には、所得相応性基準と して次の第二文が追加された。併せてその仮訳を示す。

○ 米国内国歳入法典 第 482 条 第二文

“In the case of any transfer (or license) of intangible property (within the meaning of section 936(h)(3)(B)), the income with respect to such transfer or license shall be commensurate with the income attributable to the intangible.”

「(§936(h)(3)(B)に規定する)無形資産の譲渡(又は使用権の供与)

の場合において、当該譲渡又は使用権の供与に係る所得金額は、その 無形資産に帰属すべき所得と相応するものでなければならない。」

なお、IRC§936(h)(3)(B)は無形資産の定義規定であり、これには無 形資産に係る項目が以下のように網羅的に列挙されている(41)。 (ⅰ) 特許、発明、方式、工程、設計、様式又はノウハウ (ⅱ) 著作権及び文学、音楽又は芸術作品

(ⅲ) 商標、商号、又はブランド名

(ⅳ) フランチャイズ、ライセンス又は契約

(ⅴ) 手法、プログラム、システム、手順、キャンペーン、サーベイ、研 究、予測、見積り、顧客リスト又は技術データ

(ⅵ) 上記の類似項目(その価値が無形資産に由来するもの)

(2)米国連邦議会の所得相応性基準に係るコンセプト

米国連邦議会は、所得相応性基準のコンセプトとして、無形資産からの 所得の金額の決定し、次に、各関連者が果たした機能、負担した経済コス トやリスクの分析を行い、そして各関連者の経済的な寄与及びリスクの程 度に応じて無形資産からの所得を配分することにより、所得相応性基準を 満たすことができるとした。

また、所得相応性基準を適用する時点としては、無形資産の移転時点の みとするか、それとも定期的な時点を設けるかについては、立法経緯的に は、これを移転時点に限定すれば、納税者が潜在的に高収益の見込まれる 無形資産(high profit potential intangible)を低い対価で移転してお いて、このような高収益を生む成功商品になるとは思ってもいなかったと 主張することで当初の低い対価の正当化を図ることができるという米国連 邦議会の懸念を反映して、無形資産からの所得を適切に把握するためには、

実際の収益の実態(actual profit experience)が用いられるべきであり、

したがって、関連者の経済活動、経済コスト及びリスクの変動による無形 資産からの所得の実際の変化を反映させるために、定期的調整(periodic adjustments)がなされるべきであるとした。

無形資産には、通常収益の無形資産(Normal Profit Intangibles)と潜 在的に高収益が見込まれる無形資産(High Profit Potential Intangibles)

が認められるが、所得相応性基準の導入により、潜在的に高収益が見込ま れる無形資産については、これまでと比較して非常に高いロイヤルティ率、

言い換えると「スーパーロイヤルティー(super-royalty)」での料率が適 用されることがあり得る。スーパーロイヤルティーは非常に高率になるこ

とかあるが、これは独立企業間価格を超えているということではなく、非 関連者間の取引においてはそのような高率なロイヤルティ料率が存在して おらず、所得相応性基準を満たすものがないということを意味するに過ぎ ないものである。

無形資産が取引について、販売形態(lump sum royalty or sale payments)

によるか、ライセンス形態によるかについては自由であるとされたが、ど ちらの場合も所得相応性基準の下での定期的調整は必要であるものとされ た。

また、米国連邦議会は、無形資産の研究及び開発にコスト・シェアリング 契約が用いられるときには、真正な(bona fide)コスト・シェアリング契 約の使用は排除しないが、当該契約が所得相応性基準と整合的であること を期待した。つまり、コスト・シェアリング契約の参加者は、各々が当該無 形資産から受取る所得の割合に応じてコストをシェアする必要があり、コ スト・シェアリング契約では無形資産からの所得に相応したコスト負担が なされるべきであるとされた。