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国際会計基準及びわが国の会計基準での対応

第1章 移転価格課税と無形資産評価

第1節 国際会計基準等における無形資産に係る会計上の取扱い

2 国際会計基準及びわが国の会計基準での対応

(1)国際会計基準における新たな企業結合会計基準の導入

国際会計基準においても、2004 年 3 月に国際財務報告基準第 3 号「企業 結合」(以下「IFRS 3」という。)、改訂された IAS 第 36 号「資産の減損」

及び IAS 第 38 号「無形資産」が公表された。

企業結合に係る新たなる国際会計基準は、上述の米国の SFAS 141 及び SFAS 142 と整合的なものとなっており、IFRS 3 の主な内容は以下のように

なっている。

・ IFRS 3 の適用範囲のすべての企業結合は取得であるとし、パーチェ ス法で会計処理をしなければならない。持分プーリング法の使用は禁 止する。

・ 企業結合で取得した無形資産は、それが資産の定義に合致し、分離 可能であるか又は契約その他の法的権利から生じたものであり、かつ、

公正価値を信頼性をもって測定できる場合には、のれんとは別個の独 立した資産として認識されなければならない。

・ 取得した識別可能資産及び引受けた負債等は、公正価格で当初の測 定をしなければならない。

・ のれん及び耐用年数が不確定の無形資産については、償却が禁止さ れる。その代り、毎年又は減損の可能性が認められるときはより頻繁 に、のれん等の減損テストを実施しなければならない。

このように、国際会計基準においても、企業結合において持分プーリン グ法は禁止され、のれんと無形資産は厳格に識別することが要求されてお り、今後の国際財務報告基準との国際的コンバージェンスの取組みの進展 を鑑みると、このような会計上の取扱いがよりスタンダードとなっていく ものと思われる。

(2)わが国における企業結合会計基準の導入

わが国では、2003 年 10 月に企業会計審議会から「企業結合に係る会計 基準の設定に関する意見書」が公表され、2006 年 4 月 1 日開始事業年度か ら企業結合に係る会計基準が実施されたところである。

わが国の企業結合に係る会計基準の特徴としては、企業結合を「ある企 業又はある企業を構成する事業と他の企業又は他の企業を構成する事業と が一つの報告単位に統合されることをいう」と定義して、企業結合に「取 得」と「持分の結合」の双方の実態が存在するとしているところにあり、

れているわけである。

企業結合が「持分の結合」と認められるのは、以下の 3 つの要件をすべ て満たす場合である。

① 企業結合に際して支払われた対価のすべてが、原則として、議決権の ある株式であること

② 結合後企業に対して各結合当事企業の株主が総体として有すること になった議決権比率が等しいこと

③ 議決権比率以外の支配関係を示す一定の事実が存在しないこと このようにわが国では現状において「持分の結合」を認識し持分プーリ ング法による簿価引継を認めているわけであるが、実際のわが国の M&A の 最近の状況をみると、2007 年 10 月 16 日に ASBJ の企業結合プロジェクト チームが公表した「企業結合会計に関する調査報告要旨」によれば、新た な企業結合会計基準が適用された 2006 年 4 月 1 日から 2007 年 7 月 2 日ま での 1 年半の間に提出された有価証券報告書及び半期報告書による企業結 合への適用件数は、持分プーリング法が 3 件であり、パーチェス法は 113 件となっていることから、公開企業においては実態として既にそのほとん どがパーチェス法を適用している(25)ところである。

わが国においても国際財務報告基準とのコンバージェンスの取組みがハ イペースで進められており、将来的には企業結合に係る会計基準について も国際会計基準の取扱いに収斂する、つまり持分プーリング法による簿価 引継が制度的にも認められなくなることが想定されるところである。

第3節 無形資産の評価方法に係る課税上の問題点等

上述したように、米国や国際会計基準では新たな企業結合会計基準が導入さ れており、企業は M&A に際して企業結合の会計処理としてパーチェス法しか用

(25) これら会計上パーチェス法が適用された企業結合について、税務上は適格合併と することで簿価引継されたものがあるかもしれないが、その実態は把握していない。

いることができなくなったことから、無形資産については厳格に識別したうえ で公正価格により評価することが義務づけられたわけであり、この意味からは、

今後、企業がより的確に無形資産の評価を行っていくことが期待できるものと 思われるが、一方で、これには公正価格に基づく無形資産の評価を企業がどの ように行うのかという実務的な非常に重要な問題が存在している。

一般的に、公正価格による無形資産の評価方法としては、コストアプローチ、

マーケットアプローチ、インカムアプローチの 3 つの評価方法があるとされる。

これらの評価方法にはそれぞれ長所・短所があり、必ずしも課税上問題のない 無形資産の評価が得られるとまではいえないものと思われる。以下にこれら評 価方法についての課税上の問題点等についてみておくこととする。