第 五章 『記 者ハ ン ドブッ ク』に 見る 差 別語意 識の変 遷
5.2.5 第 5 版(1985)
1985年 の 第 5版 で は 、差 別 語 に 関 す る 冒 頭 の 説 明 文 に 加 筆 が 多 く な さ れ 、「 基 本 的 人 権 を 守 る 」 と い う 「 報 道 に 携 わ る 者 の 重 要 な 責 務 」 が 強 調 さ れ 、 さ ら に 医 師 法 な ど の 法 律 に 使 わ れ て い た 「 差 別 語 」 が 置 き 換 え ら れ た と い う 変 化 も 言 及 さ れ て い る 。
心 身 の 状 態 、 病 気 、 性 別 、 職 業(職 種)、 身 分 、 地 位 、 人 種 、 民 族 、 地 域 な ど に つ い て 差 別 の 観 念 を 表 す 言 葉 、 言 い 回 し は 使 わ な い 。 基 本 的 人 権 を 守 り 、 あ ら ゆ る 社 会 的 差 別 を な く す た め 努 力 す る こ と は 、 報 道 に 携 わ る 者 の 重 要 な 責 務 だ か ら で あ る 。
こ と わ ざ 、成 句 な ど の 引 用 に 当 た っ て も 、そ の 文 言 の 歴 史 的 背 景 を 考 え 、 結 果 と し て 差 別 助 長 と な ら な い よ う な 心 遣 い が 必 要 で あ る 。
た だ し 、 差 別 の 実 態 や 歴 史 に 言 及 す る 記 事 の 中 で 、 以 上 の よ う な 基 本 姿 勢 に 反 せ ず 、 表 現 上 必 要 と 判 断 さ れ る 場 合 な ど に は 、 差 別 語 そ の も の を カ ギ カ ッ コ に 入 れ る な ど し て 引 用 す る こ と は あ り 得 る 。
五 十 六 年 五 月 、 政 府 は 医 師 法 な ど 九 つ の 法 律 に 使 わ れ て い た 「 つ ん ぼ 」
「 お し 」「 め く ら 」を や め「 耳 が 聞 こ え な い 者 」な ど に 改 め た 。五 十 七 年 十 月 か ら は 百 六 十 二 の 法 律 に 使 わ れ て い た 「 不 具 」「 廃 疾 」「 白 痴 者 」 を 「 障
害 」「 疾 病 」「 重 度 障 害 」「 障 害 の あ る 者 」「 精 神 薄 弱 者 」 な ど に 置 き 換 え て い る 。 (pp.383-384)
法 律 の 条 文 に あ る 「 差 別 語 」 が 言 い 換 え ら れ る こ と に よ っ て 、 差 別 語 の 言 い 換 え が さ ら に 普 及 し 、 差 別 語 を 言 い 換 え る と い う 社 会 意 識 が 大 き な 一 歩 を 踏 み 出 し た と 言 え よ う 。 ま た 、 障 害 者 に 関 す る 差 別 語 に は 、 差 別 語 に 内 在 す る マ イ ナ ス の 連 想 的 意 味 が 見 ら れ る(佐 竹, 2000)こ と か ら 、 法 律 の 条 文 で 言 い 換 え ら れ た 言 葉 は 、 ほ と ん ど 障 害 者 に 関 わ る 言 葉 で あ っ た 。
ま た 、 第 5 版 で は 、 差 別 語 の 言 い 換 え が 「 心 身 障 害 、 病 気 」、「 職 業(職 種)」、
「 身 分 な ど 」、「 人 種 、民 族 、地 域 な ど 」と い う 4つ の ジ ャ ン ル に 分 け ら れ 、『 記 者 ハ ン ド ブ ッ ク 』 に お け る 差 別 語 の 言 い 換 え が ジ ャ ン ル 別 に 細 分 さ れ る よ う に な っ た 。
「 心 身 障 害 、 病 気 」 の ジ ャ ン ル で は 、 以 下 の も の が 新 た に 加 え ら れ た 。
ど も り → 言 語 障 害 の あ る 人
つ ん ぼ 桟 敷 → 事 情 を 知 ら さ れ な い 、 局 外 に 置 か れ る め く ら 判 → 確 か め も し な い で 判 を 押 す
ラ イ 病 → ハ ン セ ン 病
片 目 が あ い た → や っ と 一 勝 、 ダ ル マ に 目 を 書 き 入 れ た
差 別 語 の 言 い 換 え は 、 最 初 は 被 差 別 者 へ の 呼 称 だ け だ っ た が 、 第 5 版 か ら 、
「 つ ん ぼ 桟 敷 」、「 め く ら 判 」、「 片 目 が あ い た 」 と い う よ う な 差 別 語 を 含 ん だ 表 現 も 言 い 換 え ら れ る よ う に な っ た 。他 に「 気 違 い 」の 言 い 換 え に も 、「 精 神 障 害 者 」 の ほ か 、「『 気 違 い に 刃 物 』 も 不 適 切 」 と い う 注 記 が 加 え ら れ た 。
「 職 業(職 種 な ど)」 に 関 す る 差 別 語 は 、 以 下 の も の が 新 た に 追 加 さ れ た 。
と(屠)殺 場 → と 畜 場 、 食 肉 処 理 場 、(○ ○ と 場)な ど 飯 場 → (建 設)労 働 者 宿 舎
掃 除 夫(婦) → 清 掃 作 業 員 、 清 掃 従 業 員 炭 鉱 夫 → 炭 鉱 労 働(労 務)者
踏 切 番 → 踏 切 警 手 、 踏 切 保 安 係 線 路 工 夫 → 保 線(係)員
町 医 者 → 開 業 医
ど さ 回 り → 地 方 巡 業
坊 主 → 僧 り ょ 、 坊 さ ん
犬 取 り 、犬 殺 し → 衛 生 作 業 員 、 野 犬 捕 獲 員(法 律 上 は 狂 犬 病 予 防 員)
ま た 、「 身 分 な ど 」 と 「 人 種 、 民 族 、 地 域 」 の 2 つ の ジ ャ ン ル お よ び そ こ に 挙 げ ら れ る 差 別 語 は 、 全 て 第 5版 か ら 取 り 上 げ ら れ た も の で あ る 。 詳 し く は 以 下 の 通 り で あ る 。
▽ 身 分 な ど
特 殊 部 落 → 被 差 別 地 区 、 被 差 別 部 落 、 同 和 地 区
部 落 → 被 差 別 部 落 の 意 味 で は 不 適 切 。 一 般 語 と し て 村 落 の 意 味 で 使 う 場 合 は な る べ く 集 落 、 地 区 な ど と す る 。 文 脈 上 差 別 的 に し よ う し て い な い こ と が 明 ら か な 場 合 は 部 落 と し て も 構 わ な い 。
め か け 、 二 号 、 情 婦
→ 愛 人
出 戻 り → 離 婚 し て 実 家 に 戻 っ て
▽ 人 種 、 民 族 、 地 域 な ど
黒 人 兵 → 米 兵(人 種 問 題 で 在 日 米 兵 の 黒 人 と 白 人 が け ん か し た と き な ど の よ う に 、 黒 人 と 明 記 す る 必 要 の あ る 場 合 以 外 に は 、 わ ざ わ ざ 黒 人 と す る 必 要 は な い)
土 人 → 現 地 人 、 原 住 民
ア イ ヌ 人 → ア イ ヌ(ア イ ヌ は 人 間 の 意 。 従 っ て 「 ア イ ヌ の 人 た ち 」
「 ア イ ヌ 民 族 」 「 ア イ ヌ 系 住 民 」 な ど の 重 複 表 現 は 避 け る 。 た だ し 少 数 民 族 の 意 味 で 「 ア イ ヌ 民 族 」 は 使 っ て も よ い)
後 進 国 、未 開 国 → 発 展 途 上 国(必 要 に 応 じ 途 上 国 、開 発 途 上 国 と し て も よ い)
第 三 国(人) → 例 え ば 日 米 交 渉 で 両 国 以 外 の 国 と い う 意 味 で 使 う 「 第 三 国 」 は よ い が 、 戦 争 中 に 使 わ れ た よ う な 朝 鮮 人 、 中 国 人 を 意 味 す る 「 第 三 国(人)」 は 使 わ な い 。
1960~70 年 代 か ら 差 別 語 論 争 で 多 く 取 り 上 げ ら れ て い る 部 落 に 関 す る 差 別 語 で あ る 「 特 殊 部 落 」、「 部 落 」 な ど の 言 葉 は 、 こ の 版 か ら 初 め て 紹 介 さ れ る よ う に な っ た 。な お 、使 わ れ な く な っ た こ と で 、削 除 さ れ た 語 と し て 、「 ニ コ ヨ ン 」 と 「 運 ち ゃ ん 」 が 挙 げ ら れ る 。 ま た 、「 女 給 」 の 言 い 換 え に つ い て 、 第 4 版 の
「(バ ー)従 業 員 、 ホ ス テ ス 」 以 外 に 、「 ウ エ ー ト レ ス 」 と い う 語 も 加 え ら れ た 。 他 に 、 第 3版 に あ っ た 「 百 姓 、 農 夫 」 は 第 4 版 で 「 百 姓 」 に な っ た の が 、 第 5 版 で は ま た 「 百 姓 、 農 夫 」 に 戻 り 、 そ し て 使 い 方 に つ い て 「 談 話 な ど で 本 人 が
『 百 姓 』 と 意 識 的 に 使 う ケ ー ス は そ の 通 り 引 用 し 、 な ぜ そ の よ う な 表 現 を す る の か を 文 脈 上 明 ら か に す る 。(『 芸 人 』 → 芸 能 人 の 場 合 も 同 様)」(p.384)と の 説 明 を な さ れ て い る 。
こ の よ う に 、 第 5 版 に お け る 差 別 語 言 い 換 え の リ ス ト は 、 取 り 上 げ ら れ る 語 の 数 が 増 え 、 そ し て ジ ャ ン ル に 分 け て 記 載 さ れ る よ う に な っ た 。 ま た 、 言 い 換 え の 仕 方 も 、 言 い 換 え を 示 す だ け で は な く 、 語 に よ っ て 具 体 的 な 使 用 場 面 に 合 わ せ た 説 明 も な さ れ る よ う に な っ た 。