第 5 章 中国現地企業に対する調査に基づく産業振興政 策の効果と影響に関する考察 策の効果と影響に関する考察
5.3 各種類の企業が産業振興政策に関する意見の考察
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調査結果から、中国政府が推進するアニメ産業基地政策が、全ての地域ではなくても、
一部の地域でアニメ作品の生産力を確実に向上させたことが明らかになった。地域にと って、アニメ産業は伝統産業にせよ新興産業にせよ、地元の優位性を元に適切な発展政 策が推進出来れば、地元アニメ企業の発展を促進すること、並びに外地のアニメ企業を 誘致することは可能になり、生産力の向上も実現できると考えられる。特に、杭州政府 が積極的に他の地域の企業を誘致し、中国国際アニメフェスティバルを毎年開催するな ど、産業の発展を強く推進することで、現在中国アニメ産業の発展を象徴する代表的な 地域となった。また、無錫や吉林でも政府が企業に投資し、産業の発展に直接関わって いる。多くの企業は政府の振興政策に影響され、アニメ産業に参入し、また動画産業基 地に移転するなどの状況から見ると、政府の関与はアニメ産業の発展に大きな影響力を 持っていると考えられる。即ち、現在中国アニメ産業はまだ完全に市場化の発展を遂げ たとは言えず、政府主導の方法で発展を推進していると判断できる。
それに対し、中関村にあるゲーム企業は調査時ほとんど政府の支援政策に頼らず、市 場のルールに従って自力で発展している点が確認できた。ただ、この発展には、第 2 章 で李が提示した中関村発展における第二段階以降に形成された中関村クラスター環境 が重要な役割を果たしたと示唆できた。つまり、①創業期の企業に対する税金と賃金減 免制度の存在、②中関村という立地における人材獲得の優位性、③大企業との連携を実 現しやすい設置環境などだ。これらの環境により、規模を問わず、調査対象だった各企 業は自らの発展に適切な道を発見出来、且つ、更に大きく発展するチャンスを見つけ出 すこともできた。また、中関村の発展環境は、企業のみならず、ゲーム産業全体のクラ スター化も推進した。中関村にあるゲーム企業の発展状況及び第 3 章で論じた中関村発 展の軌跡を見ると、政府が「イノベーション・クラスター構想」に基づいて構築した産 業発展環境の中で、起業家の活動により産業を自発的に発展させる、即ち李が言及した ボトムアップ式の発展は、中国ゲーム産業のクラスター化とその発展にも当てはまると 考えられる。
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表 5.2 調査企業が現在実行している産業政策に対する意見の分類整理 複合企業 アニメ企業 ゲーム企業
直 接 支 援 政 策 に対する意見
放 送 奨 励 の 金 額が少ない
Q N
企 業 融 資 政 策 を改善すべき
D
奨 励 す る 作 品 の 品 質 を 重 視 すべき
D
基 地 型 支 援 政 策 に 対 す る 意 見
ス タ ジ オ 賃 料 の 減 免 額 が 少 ない
A
交 流 促 進 支 援 政 策 に 対 す る 意見
人 材 の 育 成 を 強化すべき
D、J、V、W、
T
H、I、U T、S
企 業 連 携 を 強 化すべき
D、J
企 業 に 対 す る 政 策 の 宣 伝 を 強化すべき
S
バリューチェーンの強化など産 業発展環境を改善すべき
Q C
政策内容と企業の需要が食い違 う場合がある
V P O
中小企業の支援を強化すべき Q I、N、U、L 出所:中国企業に対する現地調査の結果により作成
表 5.2 は現地調査した企業の種類を元に分類し、各社が述べた意見を整理した結果で ある。
調査した企業の中で、B 社、E 社と M 社が現在受けている政策に満足し、改善すべき 内容を提示していなかった。また、F 社、K 社と G 社も政策に対する意見を述べなかっ た。また、R 社は税金減免政策の効果を高く評価し、他の意見を提示しなかった。その 他の 17 社が少なくとも現在実行している産業振興政策について、1 点あるいはそれ以上 改善してほしい点について述べていた。
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企業の意見を前章で分析した直接支援政策、基地型支援政策及び交流促進支援政策を 基準に分類すると、直接支援政策及び基地型支援政策に比べ、交流促進支援政策の改善 を要望する企業が遥かに多いことが明らかになった。特に人材育成の強化に 10 社が言 及した。また、表 5.1 を見ると、23 社のうち、16 社が経験者のみを採用するあるいは 自社のソースを使って人材を育成するため、中国アニメ産業とゲーム産業では、人材育 成政策の強化は非常に重要であると考えられる。また、企業連携の強化について改善の 意見を述べた企業は 2 社のみであるものの、外資系の 3 社を除くと、調査した他の企業 はすべて国内外の企業との協力を展開している、あるいは連携の相手を探している。そ の他、前章で行ったアンケート調査において、15 社が質問最後の自由記入欄に産業政策 に対する意見を記入した。その内の 3 社が企業間コミュニケーション環境の改善すべき 意見を示した。企業側が積極的に他の企業との連携を試みている状況の中、政府も適切 な政策を作りだし、企業間の連携を推進する必要があると言えよう。交流促進支援政策 に対する意見のほか、5 社の中小企業に対する支援を強化すべきことについても言及し た。
企業が最も改善を求める交流促進支援政策である人材育成及び企業連携の強化と中 小企業に対する支援の強化は一見大きな関係がないものの、実は産業イノベーションの 促進にとって、両者共に非常に重要な要素である。トロント大学のフロリダは「創造経 済の時代にあって、クリエイティブやイノベーションを担うのは、組織ではなく創造的 な人材であるという認識である。それは、創造経済における創造的機能は大企業ではな く、創造的個人にリードされた小企業、SOHO(Small Office, Home Office)、起業であ ることにもとづく」(野田[36]、173 頁)と述べ、創造的人材あるいは人材が務める中小 企業のイノベーション創発での重要性を論じた。
坂田ら([16]、2-3 頁)は、今日の先端技術産業では、イノベーションを実施するに 当たって、自社内だけですべての情報、技術、知識、人材、資金その他の経営資源を得 ることは難しく、外部資源の獲得が欠かせない(Powell[55])が、ネットワークの存在が、
組織やセクターを超えた共同事業を容易にすると指摘した。つまり、企業連携を促進す ることは、イノベーションに重要な企業間ネットワークを促進するのだ。
また、情報、知識の交換、融合や異なる組織に分散した資源を統合して行う共同作業 を効率的にできるような環境があることは、個々の企業の経営資源の制約を緩和し、イ ノベーションの促進力を高めることができる。企業間ネットワークの存在が、情報・知 識のスピルオーバーを早め、密度を高めることができ、創造性とそれによって生じる新 規事業の創出力が高まると坂田らが述べた([16]、2-3 頁)。そのため、交流促進支援政 策と中小企業に関する支援政策を改善すれば、創造的人材を増やすことができ、企業間
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コミュニケーションも促進できる。これによって、企業各自の生産性を向上できるのみ ならず、ポーターが論じたクラスターの重要な成分であるイノベーションの創発にも有 利な影響を与え、結果として、産業クラスターの発展を推進できると考えられる。