第 6 章 結論
6.2 政策改善の提案
本研究で解明された問題を解決し、アニメ産業とゲーム産業の更なる発展を推進する ため、現在実行している政策の改善と補完について、以下のように提案を試みる。
① 人材育成政策の強化
現在多くの教育機関がアニメ制作あるいはゲーム制作に関わる授業を用意したも のの、業界での仕事の経験がない講師が多いために、学生に教えられた技能と企業が 従業員に求めた能力との間にズレが生じている。そのため、企業側は実務経験がある 人材のみを採用することとなり、あるいは新人社員を社内でもう一度訓練しなければ ならない。結果として、企業の効率においても、若い世代の人材の育成においても悪 い影響を与えた。このような問題を解決するためには、産官学連携をさらに促進し、
政府あるいは教育機関がそれぞれの機関が単独で人材を育成するのではなく、企業と コミュニケーションを深め、企業の需要を参考しながらカリキュラムをデザインする 必要があるだろう。あるいは企業側の人間を学校に招聘し、実際の教育のプロセスに 参加させることが重要である。
② 企業連携の強化
アニメ産業とゲーム産業においては、クリエイターのアイデア、つまりイノベーシ ョンが非常に重視される。しかし、実体がある商品とは違い、アイデアは盗まれやす い。これが中国多くの企業が他の企業との連携を拒否する原因である。この問題を解 決するため、著作権を保護する法制度を改善し、クリエイターの利益が守られる社会 環境を作る必要がある。
③ 中小企業の支援の強化
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資金面では、現在実行されている資金支援に関する政策の内容は、政府の要件を満 たす企業に奨励金あるいは補助金が存在するとのことだが、本研究における N 社への 半構造化面接の結果、アニメ放送奨励の金額は制作コストの一部しか補助できないこ とが明らかになっている。従って、政府の奨励金や補助金が果たせる役割は限定的と 考えられる。そのため、民間の投資機関に対する支援政策を用意し、投資のリスクを 軽減させることによって、民間資金による投資行為を促進することは重要である。ま た、中国において、青少年に悪い影響を与えないよう、発売する前に、アニメ作品と ゲーム作品の内容は管理機関に厳しく審査され、企業が自由に作品を作ることができ ない。そのため、ゲームの題材はほとんど歴史と武侠に限られ、アニメ作品では低年 齢層向けの作品が多く作られこととなり、高い年齢層の視聴者に受け入れられないと いう状況が続いている。この状況を打破し、クリエイターの創造力を発揮させるため には、作品のレイティング制度の確立がもはや必要不可欠となっている。第 5 章でも 記述したように、フロリダによると、「創造経済における創造的機能は大企業ではな く、創造的個人にリードされた小企業、SOHO(Small Office, Home Office)、起業で あることにもとづく」(野田[36]、173 頁)であるため、中小企業に勤めるクリエイタ ーの創造力が発揮できれば、その人が務める組織にも間接的に支援を与えたと考えら れる。
最後に、アニメ産業では、産業の発展を促進するために、各地方政府の主導によって、
多くの「国家動画産業基地」が設立され、認定された。しかしながら、10 年の発展を経 て、動画産業基地内発の上場企業はなく、社会的にブランドとして認識され、ビジネス 的な成功を収めたと言える企業は杭州の一社のみである。あらにその企業は杭州政府が 誘致されて基地に移転しているため、創業した地域において成功した企業はまだ存在し ない。したがって、政府主導の、単に企業の経営負担を軽減させることを目的とした基 地型政策は、産業の発展の大きな役割を果たしえたのかについては疑問が残る。このた め、アニメ産業でも、北京中関村で成功を収めた地域全体に対するビジネス活動や起業 活動の活発化のために作られた政策を参考し、現在の企業の発展を中心とする産業政策 を改善すべきである。当然、北京中関村の政策も試行錯誤を経てたどり着いた結果であ るため、単に真似することはではなく、地域の長所と不足を分析し修正する必要がある。
また、中国におけるアニメの放送習慣は、日本番組のように週一回の更新ではなく、番 組を毎日放送するだけでなく時には 1 日数話放送する習慣がある。そのため、アニメ作 品の審査は制作プロセスをすべて終了してから行うこととなり、結果的に審査期間の費 用はすべて企業自分が負担しないといけない。加えて、テレビ局がアニメ作品の放送権
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は非常に低い費用で取引されている50ために、アニメ企業は作品の放送からわずかの収 益しか得ることができず、赤字経営の悪循環が続いている。これはアニメ企業が産業政 策に頼らざるを得ない原因の一つでもある。現在の中国アニメ市場では、たまに商業的 成功する作品もあるものの、作品制作量のみならず、産業全体的に収益を高め、良好な 発展循環に入るため、アニメ企業を補助する放送制度やテレビ局の放送権購入制度の見 直しを含め、アニメ産業全体的のバリューチェーンの改善が必要である。
同時にアニメ産業は、市場そのものの力が、産業のさらなる発展へとつながる可能性 がある。上場企業の発展から見ると、ゲーム産業関連企業では、売り上げの上位を占め る 10 社の中で、9 社が他の産業からゲーム事業に参入した企業である。資金力がある大 企業の参入は産業全体の発展を推進したと考えられる。これと同様に、近年、中国では、
大手ゲーム企業がアニメ事業に進出するようになっている。これらの企業が漫画サイト を開設し、自社のサイトでアニメ放送ページを作った。海外漫画、アニメ作品の輸入の みならず、国産漫画作品も募集し、連載している。さらに人気漫画作品のアニメ化、ゲ ーム化を成功させたケースもある。このようなゲーム企業主導によるアニメ産業の発展 がどこまで成功するのかは改めて検証していく必要があるだろう。
以上のように、本論文で取りまとめた一連の調査と研究を通じて、アニメ産業および ゲーム産業を代表とする中国新興文化産業に対し、政府の産業振興支援政策の効果と影 響を定性且つ定量的に分析し、この結論をもとに、アニメとゲーム産業を始めに、新興 文化産業クラスターの発展を促進するため、現在実行している産業新興政策の改善策を 提案した。しかしながら、本研究には限界もある。まず、アニメ産業とゲーム産業の発 展時間が現時点では短く、先行研究の資料が少ない。加えて本研究での資金と時間の制 限もあるため、より多くの地域と企業を調査することが出来なかったのは誠に残念であ る。また、両産業は新興産業であり、今後の政府による振興政策の変化や産業全体の発 展の傾向は予測しにくい状況でもあるため、両産業発展をもっと長期的な観察していく 必要があると考えられる。それにしても、両産業は今後も政府に支援されつつ、研究者 にも注目されつつであるに間違いない、また、「五年計画」から見ると、アニメ産業と ゲーム産業を含む文化産業は今後も中国経済の継続的な発展をけん引する重要な力の 一つとなることを予想されるため、研究者のみならず、中国国内と海外の産業界、投資 家にも関心を持たせると考えられる、例えば“クールジャパン”を推進する日本の企業 の中には、今後中国への文化製品の輸出や中国企業との連携が更に増やしていく可能性 があるかもしれない。
50 「中国アニメ産業発展報告 2013」によると、現在国産アニメ作品の制作コストは 1 分間 1.2 万元から 2 万元 であるものの、テレビ局が支払った放送権料の値段は最大でも制作コストの 1/10 程度である ([137])。
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本研究は、産業全体の発展状況や政策内容に対する分析が多い中国産業政策研究の中 で、企業の発展と政策の関係に着目することで、本研究独自の視点から、産業振興政策 を分類し、それを元に企業を調査、分析した。その結果、業界の主体である企業の意見 をまとめることをある程度実現したため、今後の研究者にとって、参考あるいは批評の 対象としての価値が持ち、産業界にとって中国市場をより深く認識できる資料となれば 筆者の本望である。