本研究では,分散培養した神経回路網において,単一の神経細胞スケールではなく神 経回路網スケールで発現するメモリー的な現象を発見した.一つは神経回路網に対する 刺激の履歴現象であり,印加された電気刺激の影響が神経回路網内に保持される時間
(履歴持続時間)を明らかにした.培養した神経回路網は,一般的にリカレントネット ワークの構造を持ち,ある神経細胞で発現した神経活動はフィードバック経路によって 繰り返し反響的にその神経細胞に入力される傾向がある.その反響的な入力が戻ってく る時間と連続刺激の間隔との関係に依存して,神経回路網は連続的な入力に対して複雑 な時空間パターンを発現する.入力による神経活動が反響的に再入力されるまでの時間 は,神経回路網のネットワークサイズと細胞密度に依存すると考えられる.本研究では 直径 7 mm ネットワークサイズ,7800 cells/mm2 の細胞密度の神経回路網で実験を行っ たが(図 6.1),この条件では,前回の刺激の影響が 2 秒程度保持される.すなわち履 歴持続時間が 2 秒程度であることを示している.前述のようにこの 2 秒という時間は刺 激によって誘発された神経活動が神経回路網を伝搬する時間に依存し,履歴持続時間は これによって制限されると考えられるので,神経回路網のネットワークサイズ,細胞密 度を調整することで,さらに長い履歴持続時間の発現が予想される.
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図 6.1 履歴現象と神経ネットワークサイズの関連性.
また,3 章では 2 連続刺激による履歴を解析したが,3 連続,4 連続の刺激を印加し た場合,いくつ前の刺激の影響を受けるか,履歴の次数がどの程度持続するか解析する ことは今後の課題である.電気刺激電極は単一の電極を選択し印加したが,刺激電極を 1 発目,2 発目の刺激印加毎に変更することでより複雑な時空間パターンが発現すると 予想される.この刺激回数,刺激箇所のシーケンスに依存した履歴現象を詳細に解析す るためには,神経活動の時空間パターンを詳細に解析する必要がある.本研究における 履歴性の解析はユークリッド距離を用いており,64 電極による 64 次元の特徴ベクトル をもとに,2 状態を比較して類似度を算出する手法でしかないので,個々の神経活動時 空間パターンの特徴が欠落している.従って,神経活動の空間的な位置情報を加味した 上で,神経活動パターンの詳細な分類を行う必要がある.その手法として自己組織化マ ップを用いた分類手法を提案する(図 6.2).
6.結論
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図 6.2 自己組織化マップによる時空間パターン分類手法.
(1)各電極で得られた神経活動頻度を神経ネットワークの時空間パターンと捉 え,これを入力特徴ベクトルとして入力層に送る.(2)入力層の特徴ベクトル と個々の出力層の参照ベクトル間でユークリッド距離を計測し,最も近い参照 ベクトルを持つ出力層のユニットを勝者ユニットとする.(3)そして勝者ユニ ットと周辺ユニットの参照ベクトルを,入力層の特徴ベクトルに近づける(最 急降下法).この(1)-(3)の手順を繰り返し行い,出力層を更新することで,
出力層に時空間パターンの分布が表現されたマップを得る.この手法によって,
神経回路網の時空間パターンの変動を分類可能であり,履歴現象が発現してい る時間に対してこの解析を適用することで,履歴現象に関わる特有の時空間パ ターンの検出に用いることができる(図 6.3).
6.結論
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図 6.3 履歴現象に関わっている時空間パターン分類手法.
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