この不定性を排除することは、値がすべて1nのn個の数の極限となる場合を 考えれば簡単である。上の積の本当の値は、このとき、積
1 n ×n
の極限となるが、これは常に1だから、極限も1となるのである。
この結論は次の事実と矛盾しない。その事実とは、各項がゼロに近づく 級数の値は、項数が無限にあっても、値はゼロに近づくことがしばしばある という事実である。たとえば、一様収束する級数の場合がその典型例である。
しかし、最初のn 項が 1
nで、他はゼロであるような級数は、各項はゼロに近 づくが、級数の値はゼロには近づかない。
できるだけ公平に以上の主張を説明したつもりだが、私自身はこの主張 に納得できない。しかし、以下のことを急ぎ足になるが言っておきたい。私 は、その主張を馬鹿げていると考えるべきだとは思ってはいない。ある程度、
論理的で一貫している主張を私が認めない理由は実践的な観点からのもので ある。これまでのところ、可算集合における確率の上記のような定義が、数 学的問題の解決に利用できるような結果をもたらした例を挙げることは誰も できないと私は思う。あとで、なぜそうなるかの理由と思われることを説明 したい。すなわち、この定義は、論理的には馬鹿げたものではないとしても、
不毛で役に立たないであろう理由を説明したい。
率もゼロ、以下同様、となる。「以下同様」の意味は、われわれの論法が、ど んな到達可能な数についても妥当する、ということである。もしもAがそう いう数であれば、勝手に選んだ数はA以上となることは確実であると考えな ければならない。なぜなら、それがA未満となる確率はゼロだからである。
こうして、偶然に選び得る数はまさに到達不能数だけであることがわか る。すなわち、余りにわれわれから遠く離れているために、それを正確に定 義できるような状態にわれわれは置かれていないような数だけが、偶然に選 びえることになる。1
選択のメカニズムを考えると、等確率原理への批判はもっと説得力を増 す。ただし、選択のメカニズムとは、有限の数をランダムに定義するために 使えそうな方法のことである。この選択が、連続体からの選択よりはるかに 難しいように見えることは不思議に思われれるかもしれない。というのは、
連続体の場合には、0から9の中から数を籤でひくことを繰りかえすことで 満足のいく結果が得られていた。そこで、次のようなことは可能かどうかを 考えてみよう。すなわち、不自然であっても容認できるような回り道を通し て、0と1の間からランダムに通約不能な数α をまず選び、次にαからラン ダムに選んだ数nを対応させることはできないだろうか。実際、無理数αを 使って、無限個の自然数を定義することができるので、その中から、一つの 自然数を選ぶ明確な方法を指定すればよい。当面、αを選ぶことの困難は無 視することにしよう。もちろん、この困難は現実には克服できそうもないの ではあるが。当面、ツェルメロの公理を認める人達の視点に立つことにして、
数α が定義されていると考えられるだけでなく、その十進展開や連分数展開 について議論できるとしよう。しかも、あたかも、この無限展開全体を私た ちが完全に知っていて、たとえば、連分数の不完全商の中に与えられた数が 与えられた回数現れるかどうか、あるいは、無限回現れるかどうかを知るこ とができる、という立場をとろう。
このとき、anをn番目の不完全商とするとき、不完全商として無限回現 れる自然数の中で最も大きいものを考えることができる。しかし、知られて いるように、ある測度ゼロの集合があって、それには属さないαについては、
すべての自然数が不完全商として無限回現れるので、上の定義はほぼ必ず無 限大の数を定義することになり、定義は機能しないことになる。
もっと一般的に、不完全商anとnの関数ϕ(an, n)を定義し一方、nの関
1訳注: これは、上の原理が馬鹿げていることを意味していることの傍証と、ボレルは考 えている。
数ψ(n) を定義し、
(1) ϕ(an, n)> ψ(n)
を満すnを考えよう。もしも、そのような数nが有限個しかないときは、そ れらのなかの最大値または最小値を選び、ある関数f(an, n)の値をαに対応 させればよさそうである。ただし、もしも、そのようなnが無限にあるとき は、上の操作がうまく行くような関数ϕとψを捜さなければならない。
しかし、α がランダムに選ばれたとき、不等式(1) が成り立つ確率をpn とすると、可算確率論によれば、級数pn が収束するか発散するかによって、
2つの場合を区別しなければならない。最初の場合、つまり、級数が収束す る場合は、不等式(1)が無限回成り立つ確率はゼロであるが、後者の場合、
すなわち級数が発散する場合は、不等式(1)が無限回成り立つ確率は1であ る。どの級数も収束するか発散するかのいずれかなので、他の選択肢は存在 しない。
もしも発散する場合には、不等式(1)は、一般に無限個のnの値について 成り立つので、私達に可能な唯一の方法は、これらの中で最も小さい値を選 択するか、決められた数列、たとえば1000個の数を小さい順に並べた数列、
から一つの数を選ぶしか方法はない。しかし、いずれの場合にも、こうやっ て選ばれた数や、対応する数f(an, n) が極めて大きい確率はとても小さい。
すなわち、到達不能な数が選ばれる確率は到達可能な数が選ばれる確率より も小さい。
一方、収束する場合には、明かに関係(1)を満すnの有限個の値は到 達可能であり、前節の結論は、当然、成り立つ。
実際、収束する場合は、好ましい場合がm回繰りかえされる確率は有限 の数pmで、しかも級数∑
pm は収束し和は1となることがわかる。従って 数mを定義する確率はmとともに減少する。一方、発散する場合は、pmは いつもゼロなので、数mを定義することができない。
結局、実際には実現が不可能にみえる方法も含めて、想像しえる方法の いずれも、小さい自然数には有限の確率を与え、しかも もっと大きな数を得 る確率は小さい。そうでなければ、すべての自然数nに対する確率はゼロで あり、nの無限値に対しては確率1を与える、すなわち、数α に対し、n の どの有限値も対応しない。
もちろん、私達が試みた方法よりももっと複雑な方法を考えることはで きるが、それを詳しく吟味すれば、可算確率論の基本法則により、いつも同 じ結論となることは容易に想像がつく。すなわち、どのnの確率もゼロとな
り無限の確率が1となるか、あるいは、無限の確率はゼロとなりnの確率pn が1を和とする収束級数となるかのいずれかである、という結論が得られる であろう。