青年期女性における運動環境と身体組成の関係
第1節 目的
現在、教育の個性化の流れにより、公立の高校でも様々なカリキュラムが工夫され、数 多くの専攻学科が設立されるようになった。体育・スポーツを専攻として掲げる高校もその 一つであり、体育科・スポーツ健康科学科などの名称を持つ学科を開設する高校が多数出 現している。例えば、1980年に大阪府の公立高校として最初に体育科を設置したS高等学 校では、「優れたスポーツ競技者、将来のスポーツ指導者およびスポーツ科学者を目指す。」
という目的を掲げ、カリキュラムの中に、理論と実践の両面から学習させる内容が盛り込 まれている。同校では、これまでにオリンピック選手をはじめ、プロ野球選手や中学、高 校、大学の体育教員など、スポーツ関連の仕事に従事する者を数多く輩出し、一定の成果 をあげている(大阪市立桜宮高等学校学校案内,2003)。
一方、上記の例に代表される体育・スポーツ関連を専攻する高校生は、中学時fヤから体力 に優れ、特定の競技で高度な技術を有するなど、一般の平均的な高校生とは入学当初から 異なる身体要因を持つことが推察できる。また、カリキュラムや運動への取り組み方とい った運動環境の違いから、同じ年齢であっても身体組成に差があることが予想できる。尚、
ヒトの身体組成について検討したものとしては、中学校における運動部の活動が身体組成 に及ぼす影響0リ上ら,1996)、自己体型認識と体脂肪率の関係(外山ら,2000;本論文第1 章)、経年的変化についての検討(渡辺ら,1998;中村ら,1999)、スポーツ競技記録との関連
(中塘ら,2001)、基礎代講糧:への影響(薄井ら,2001)など、様々な報告がある。しかし、静 期女性、とりわけ中・高校生における運動環境の違いが身体組成に及ぼす影響については、
詳細に検討されていないように思われる。、害者期から青年期においては、身体の発育発達 が著しいだけでなく、生涯にわたって身体組成を形成していく上で重要な時期ととらえら れる。このため、この時期における運動環境の違いが、身体組成にどのような影響を及ぼ しているのかを明らかにすることは、身体的発達を効果的に導き、しかも、より高質な体 育・スポーツ教育の実現のための有益な知見を得る可能性が高いといえる。
そこで研究課題2では、同一校で体育・スポーツ関連の学科と普通科に所属する男女高校 生を対象として、健康と運動に関する調査、身体の周囲径測定および研究課題1と同様に
BI法による身体組成測定を行った。そしてこれらの結果について、体育専攻生徒と非専攻 の生徒を比較検討することにより、青年期における運動環境と身体組成の関連性について 明らかにし、教育上有益な知見を得ることを目的とした。
第2節方法
対象は、体育専門科と普通科を併設する大阪市内のS高等学校に在学する男女高校1年 生200名(男子107名:15.28±O.45歳、女子93名:15−2脚.45歳、平均値十標準偏差)
とした。運動の実施状況に関するアンケート調査、身体の周囲径ならびに組成の測定は2002 年7月に同高等学校において行った。アンケート調査は記名自己記入法を用いて、その場 で配布し、回収した。アンケートの内容は、性別、年齢の他、現在および過去の運動実施 状況や所属専攻学科(体育科・スポーツ健康科学科・普通科)について調査するものであ った。身体周囲径は、左右の上腕囲、胸囲、膀囲、腎囲、左右の大腿囲、左右の下腿囲を 測定対象とした。身体組成は、全身、四肢、体幹部の組成を評価できるタニタ製体組成計
(BC−118)を使用し、従来の方法に準じて、食後2時間以上経過した空腹時かつ排尿後の 条件下で測定した。その際両手掌と両足底は濡れたタオルで清拭し、月麟はあらかじめ重 量を計測した運動服とした。
統計処理には、統計ソフトSPSSbrW血dows11.0Jを用いた。なお、有意差については 対応のないt検定を用いて検定し、有意水準は危険率5%(pくO−05)とした。
第3節結果
1.対象の身体的特性
対象の年齢、身体的特性の平均値と標準偏差は、表2に示した。対象の身長、体重は、
同年代の平均値(文部科学省スポーツ・青少年局:体力・運動能力調査報告書,2001:男子 169−71坊.71cm,60.44蜴.50kg,女子157.77坊.20cm,51.87±6−55kg)と比較して有意な差は なかった。したがって、本研究対象は、ほぼ平均的な体格を有する高校生男女であること が認められた。
表2対象の身体特性(平均値±標準偏差)
男子(n=107) 女子(n=93)
年齢(歳)
身長(Cm)
体重(kg)
BMl(kg1m2)
15.28±0.45 169.13±5.82
59.61±7.07 20.83±2.18
15.28±0.45
158.23±5.02
53.16±6.85
21.20±2.29
2.身体および健康への関心度による比較
表3は、被検者の身体および健康への関心度について、アンケートの回答結果から得ら れた平均値を体育専門科(体育科・スポーツ健康科学科:以下「S群」)と普通科(以下「N 群」)で比較したものである。回答は、魑民時間については実時間を、健康度の自己評価を 100点満点で、その他の項目については5段階(5.大変そう思う、4ややそう思う、3.普通、
2一あまりそう思わない、1.全くそう思わない)で記入させた。その結果、男子では、「健康 にどのくらい関心があるか」、「多くの病気は日々の心がけで避けられるもの」の2項目に おいてS群がN郡より有意に高い値を示した。しかし、主観的な健康度や体力、健康の自 己評価点数については有意な差は認められなかった。一方、女子においては、「健康にどの くらい関心があるか」についてS群がN郡より有意に高い値を示し、「鰯民時間」について はS群がN郡より有意に低い値を示した。しかし、男子同様、主観的な健康度や体力、健 康の自己評価点数については有意な差は認められなかった。
3.運動経歴による比較
表4は、被検者の運動経歴について、アンケートの回答結果から得られた平均値をS群と N群で比較したものである。回答は、現在、小学生時代、中学生時代のそれぞれについて、
運動の有無(5.よく運動する、4運動する、3.普通、2.あまり運動しない、1.全くしない)、
頻度(1.週に4回以上、Z週に2〜3回、&週に1〜2回、4.月に1〜2回)、1回の運動時間
(1.20分未満、Z20〜40分未満、3.40〜60分未満、4.60〜120分未満、5,120分以上)、
長距離走と短距離走の得意度(3.得意、2.普通、1.苦手)などについて、それぞれの選択肢 より選ばせた。統計処理は、運動頻度と一回の運動時間については実際の値を把握しやす くするために選択された項目の代劇直を使用し、その他の項目については間隔尺度で検討 した。その結果、男子については、現在の運動の有無、運動頻度、1回の運動時間および 中学生時代の運動の有無、運動頻度、1回の運動時間、長距離走の得意度について、S群が N郡より有意に高い値を示した。しかし、小学生時代には、有意な差は認められなかった。
これに対し、女子については、現在および中学生時代における運動の有無、運動頻度、1 回の運動時間に加え、小学生時代の運動の有無、1回の運動時間、短距離走の得意度につ いてもS群がN郡より有意に高い値を示した。
表3 健尉こ関するアンケート調査の学科別比較
平均(S.D)
※有意水準
*:pく0.05 榊1P〈0.O1 淋*1p〈0.001男子 女子
体育専門科(n=65) 普通科(n=42)
平均値の差
体育専門科(n=54) 普通科(n=39)平均値の差
康であるか
3.98(0.81)
3.76(0.73
O.22 3.98(1.OO)
3.92(O.70)
O.06 度度白己点数(点) 74.40(18.36)
74.64 (13.75一〇.24
72.04(19.35)
71.38 (14.86 O.65カがあるか
3.36(O.93)
3.02(0.90)
0.34 3.19 (O.78 2.97 (O.78 O.21眠時間(時間) 6.32
(O.73)
6.61(1.22) 一〇.29
5.93 (O.74 6.55(1,25)
一〇.63 榊康への関心度
3.88 (0.98 3.29(0.92
O.59榊 3.74(0.89)
3.23(O.87) O.51 榊 康は日々の努力
4.16(1.00)
4.10(1.01
O.06 4.11 (O.74 4.18 (O.79 一0.07気ば心がけ次第
4.17(O.94)
3,79(1.05)
O.39 * 4.02 (O,86 4.OO (O.94 O,02度への留恵度
3.41(0.93)
3.19(0.80)
0.22 3.28(0.92)
3.08(1.00)
O.19書より健康優先
2.70(0.78)
2.83(0.92 一〇.13
2.70(1.10)
2.80(0.96) 一〇.10 神的疲労がある
2.η(1.06)
2.66(O.91)
0.11 2.43 (O.96 2.46 (1.02 一0.04一 一 一 ■ 一 ■ ■
単位のない項目は間隔尺度
表4 運動状測二関するアンケート調査の学科別比較
平均(S.D) ※有意水準 ポp〈O−05 **:p〈0.01 }**:p〈0.001
■「■^o,U・
■、Il,ふ I、そi 1ハ、 ・∪U
.■ 、 ・ 一 11,■,■■.ハ、 ・∪U.
男子 女子
体育専門科(n=65) 着通科(n:42)
平均値の差
体育専門科(n=54) 普通科(n=39)平均値の差
現在の運動状況
動の有寮
4.95(O.28)
4.07(1.30)
O.88 *榊 4.89(O.42)
3.03 (1.39) 1.86 *榊動頻度(回/週) 4.00
(0.00)
2.98(1.55)
1.02 *榊 3.97(O.20)
2.01 (1.72) 1.96榊
一回の運動時間(分) 118.OO
(10.03)
90.71(45.18)
27.29 *淋 115.37(16.56)
42.82 (47.35) 72.55 *榊距離走の得意度
1.89(O.69)
1.66(O.62)
O.23 1.69(O.67)
1.56 (O.60) 0.12距離走の得意度
2.12(O.60)
2.05(O.63)
O.07 1.96(O.64)
1.95 (0.76) O.01小学生時代の運動状況
動の有㌫
4.25(1.12)
3.95(1.01)
0.30 4,33(O,85)
3.51 (1.23) O.82 *榊動頻度(回/週) 2.65
(1.09)
2,67(1.26)
一0.02 2.47(1.23)
2.15 (1.28) O.32一回の運動時間(分) 86.46
(36.29)
73.33(36.74)
13.13 68.89(42.14)
43.59 (37.31) 25.30ホ*
距離走の得意度
1.84(O.74)
1.76(0.66)
O.09 1.91(0.73)
1.67 (O.66) 0.24距離走の得恵度
2.36(0.68)
2.22(O.72)
O.14 2.44(0.69)
2.13 (0.83) 0.32*
中学生時代の運動状況
動の有痛
4.86(O.43)
3.85(1.17) 1.01榊*
4.91(O.29)
4,21 (1.24) 0.70 *榊動頻度(回/選) 3.93
(O.32)
3.05(1.39) 0.89欄*
3.93(0.39)
3.46 (1.15) O.46 ま一回の連動時間(分) 112.92
(14,44)
83.10(39.66) 29.83*榊
112.04(15.22)
87.69 (41.89) 24.34距離走の得意度
2.09(0.77)
1.73(O.71) 0.36*
2.11(O.74)
1.92 (O.87) O.19 榊距離走の得意度
2.27(O,65)
2.12(O.64)
O.14 2.26(O.68)
2.13 (0.77) O.13一 I 一 一 I . 一 一 一 一 I
単位のない項目は間隔尺度
4.身体組成および身体周囲径の比較
表5、図5および図6は、被検者の身体周囲径および身体組成の平均値をS群とN群で 比較したものである。男子については、身長、体重、BMIを含め、全身に対する測定値で 有意な差は認められなかった。しかし、分節的に見てみると、左右足の除脂肪量、左右足 の推定筋肉量、左右の腕の除脂肪量、左右の腕の推定筋肉量についてS群がN郡より有意 に高州直を示した。体幹部には、有意な差がみられなかった。
一方、女子については、身長、体重、全身の体脂肪量、BMIなどの測定値に有意な差は みられなかったが、全身の体脂肪率、除脂肪量においてS群がN郡より有意に低州直を示 した。そして、分節的には、足、腕、体幹部除脂肪量、体幹部の推定筋肉量など、ほとん どの項目において有意差が認められ、S群がN郡より体脂肪率が小さく、除脂肪量、推定 筋肉量が大き州頃1向が見られた。
また、身長、体重、B㎜といった基礎的な体格を示す値および身体周囲径の測定値は、
すべての項目でS群とN群の間に有意な差は認められなかった。