青年期女性の自己体型認識と体脂肪率の関係
第1節 目的
近年、若者の間では痩身願望が強く、無理なダイエットのために健全な心身の発達に障 害をきたす恐れがあることが指摘されている(細川,1985;河合ら,1985;竹内ら1987)。例
えば、極端な食事制限によって摂取される栄養素のバランスを失い、筋肉や内臓、神経に も悪影響を与えてしまう身体的ダメージの他、これに加えて強い空腹感を我慢し続けるこ とで起こるストレスで、神経症に陥ってしまう可能性もある。しかし、この自分の体重を 減らしたい、スレンダーな身体でいたいといった痩身志向は、今や社会的な圧力となり
(ComorG㏄ene臥1988;RitchieJ,1988)、青年期にとどまらず、小学生においてもその 志向が認められている(松浦,2000b)。よって、年齢や性別を問わず、自己の体型に対する 関心は非常に高いものと考えられるが、正しく自己の体型を認識しているかについては疑 わしい。特に青年期の女性においては、自己の体型を実際よりも過度に太っていると誤認 する者が多いとの報告がある(外山ら,2000)。そして、このような痩身志向者のなかには、
減量行動へとつながり(井上ら,1992;矢倉ら,1993;1996)、さらにはダイエットを契機とし て家庭内における親との関係(過保護・過干渉など)によるストレス、学校や職場などにおけ る不適応など、さまざまな心理的・社会的問題が重なり合って摂食異常を誘発する者がい るなどの問題が指摘されている(高木,1991)。したがって、成長が著しい年齢層における誤 った痩身願望や体型認識の是正・教育を行い、支援することは、健康上の深刻な事態の発 生を予防するために極めて重要であると思われる。
自己の体型意識に関するこれまでの研究は、女子大学生(竹内ら,1987;楠ら,2000;外山 ら,2000)や、思春期周辺の若者(細川,1985;河合ら,1985;矢倉ら,1993;1996)、小学生(中村 ら,1999松浦,2000b)などを対象として、主として身長と体重に基づく体格指数(bodymass hdeFkg!m2:以下BMI)から検討されてきた。BMIは、簡便な評価法として利点がある
ものの、肥満を正常者に比べて体脂肪が過剰に蓄積した状態と仮定すれば、身長に対する 体重のみからの判定には限界がある。よって、肥満度または体型の評価法としては、BMI や周囲径に加えて、体脂肪率から観察する方法が必要と思われる。なかでも近年開発され た生体インピーダンス法(bio−e1ec㎞ca1impedan㏄method一:BI法)は、水中体重秤量法や
体水分法の基準的な評価法に比べて、測定手技が簡便で、被検者への身体的負担が少なく、
客観性や信頼性(L此askiHCeta1.,1985;Sega1KReta1.,1985;LukashHC,1987;田中 ら,1990;中塘ら,1991)および妥当性(Ke1erBandKatchFI,1985;1986;LukashHCet a1.,1985;L止askiHCanaBo1onchukWW;1986;Sega1KReta1.,1988)に優れているこ
とが内外の多くの研究者に認められている。
そこで研究課題1では、女子高校生を対象として、BI法による体脂肪率と自己の体型に 対する認識(自己体型認識) の関連性について調査・測定し、自己の体型を適正に認識さ せるために教育上必要な知見を得ることを目的とした。
第2節方法
対象は、大阪市内のS高等学校に在学する女子高校生143人(15.6±O.66歳:平均値十標 準偏差)である。自己の体型に対するアンケート調査ならびに体脂肪率測定は、2002年7 月に同高等学校において行った。アンケート調査は、無記名自己記入法により行い、その 場で回収した。アンケートの内容は、外山ら(2000)の方法に準じて、自己体型認識、体重 および体脂肪率に対する調整希望の有無などについて調査した。自己体型認識については
「太っている」「やや太っている」「普通」「やややせている」「やせている」の5項目、体 重調整希望については「体重を増やしたい」「このままでよい」「体重を減らしたい」の3 項目、体脂肪率については「体脂肪率を増やしたい」「このままでよい」「体脂肪率を減ら
したい」の3項目、から選択させた。
体脂肪率は、身長の測定とアンケート調査の後に、タニタ製体組成計(BC・118)を使用 して測定した。尚、体脂肪率は、従来の方法に準じて、食後2時間以上経過した空腹時と し、かつ排尿後の条件下で測定した。両掌と両足底は、濡れたタオルで清拭した。服装は、
予め重量を計測した運動服とした。
統計処理は、統計ソフトSPSS危rWhdows11.OJを用いて分析した。統計的な有意水準
は、危険率1%(pく0−01)とした。
第3節結果
1.対象の身体的特性
対象の年齢、身体的特性および体脂肪率の平均値、標準偏差、最大値と最小値は、表1 に示した。対象の身長、体重は、同年代の平均値(文部科学省スポーツ・青少年局:体力・運 動能力調査報告書,2001:1肌77±5.20cm,51.87蛉.55kδと比較して有意な差はなかった。ま た、図2は体脂肪率別のヒストグラムであるが、平均2τO肚425%でほぼ正規分布を成し、
全体の50−3%が体脂肪率25〜30%の範囲に属した。これらのデータから、本研究対象は、
ほぼ平均的な女子高校生であることが認められた。
2.自己体型認識
自己体型認識は、全体からみると「やや太っている」と認識していた者が42−0%と最も 多く、次いで「普通である」3α8%、「太っている」21.O%の順となっていた。「やややせて いる」と「やせている」とした自己体型認識は、それぞれ↓2%、1.4%に過ぎなかった。図
3は、体脂肪率ごとにその範囲に属する人の自己体型認識を割合で示したものであるが、
体脂肪率が高くなるにつれて「太っている」と自己体型を認識している割合が高くなる傾 向にあった。また、体脂肪率35%以上では、全員が「太っている」と認識していた。肥痩 の判定基準については、先行研究(HuenemamRLeta1.,1966;日本肥満学会編集委員会 編:肥満・肥満症の指導マニュアルく第2版>,2001)を参考にして、本研究では体脂肪率35%
以上を「重度の肥満」、30%以上35%未満を「肥満」、20%以上30%未満を「正常」、20%
未満を「るい痩」に分類した。それによると、体脂肪率で「正常」と判定される範囲に属 する者の60.4%は、「太っている」または「やや太っている」と認識していた。体脂肪率か ら「るい痩」と判定される者であっても、57.1%は「正常」と認識しており、自己体型を実 際よりも太っていると認識している傾向が認められた。
一方、自己体型を判断する要因(複数回答)は、回答比率の高い順に「標準体重から判 断して」4τ6%、「体の一部分から判断して」3a0%、「誰かと比べて」31.5%、「人から指 摘されて」23.8%、「体脂肪率から判断して」14.7%、「その他」7.0%であった。この結果か
ら、対象者は自己体型を判断する際に、体脂肪率よりも体重や見かけのサイズを優先して いると考えられた。