もう一つ、いかに簡便に楽しく、ちょっと した気づきを与えられるかということで、市 民目線で分かりやすいものはないかと探して いたところ、『ふくらはぎの周囲長』に注目し、
ふくらはぎを自分の指の輪っかで測る方法を 思いつきました。市民公開講座でそのことを 提案すると、参加者の皆さんはワイワイ言い ながら測っていたのですが、最初は皆さん、
指の輪っかでふくらはぎを囲めない、つまり
指の輪っかよりも足が太いほうが良くないという先入観があるようでした。すなわち、高齢女性 などは「私、大根脚だから恥ずかしい」と言っていましたが、我々の分析結果としては、指輪っ かで隙間ができる方がサルコペニアの危険度は高いことが明らかとなりました(危険度は6.8倍)。
もともとふくらはぎの周囲長は栄養の指標だと漠然とは言われていましたが、そのことが科学的 に裏付けられた、しかも市民目線の簡単な方法でそれを可能にしたということです。
次に【社会性】についてです。ニュースや新聞でも 2025 年問題に向けて、独居高齢者はとて も危険であるといったことが繰り返し言われます。当然だと思いますが、一人暮らしの方でも普 段からの友達付き合いがあり、しょっちゅう友達と一緒にご飯を食べ、おしゃべりしている人も 存在します。すなわち、「独居高齢者が一括りでフレイルである」とは言えません。
我々の柏スタディでも、最もフレイルな集団は、『同居家族がいるにもかかわらず三食ともいつ も個食である(一人で食べている)という人たちが最もデータが悪い結果となっています。ただ し、「家族がいるのになぜ個食なのか?」というところまでは読み取れません。ここは深堀調査を 予定しております。
この三位一体の重要性と栄養(食と口腔機 能)からみたサルコペニア予防について、改 めて概念化すると、右のような図が描けます。
4 つのフェーズの中で、第 2 段階のフェーズ が一番幅広になっています。おそらくコミュ ニティにいる高齢者のほとんどの方が第 2段 階に入ってくると思われます。
第1段階は「社会性/心のフレイル期」、孤 食や鬱傾向など社会参加の欠如からくるもの と、ヘルス・リテラシーの欠如も大きな要因で す。ここがドミノ倒しの起点となります。第2 段階は「栄養面のフレイル期」、低栄養に至る 前のわずかな食の偏りや些細な口腔機能の衰 えが存在し、にそれをオーラル・フレイルとい う新しい概念で再構築致しました。それらの些 細な衰えの兆候が、運動の低下や社会参加の低
下とともに負のスパイラルに入りやすいです。そして、ある一線を越えると第 3 段階の顕著なサ ルコペニアに入っていきます。そして身体機能障害が起こり要介護状態(第4段階)となるとい うフローです。
市民の皆さんには「ちょっと筋肉が痩せこけても、努力すれば戻るから頑張ろう」とエンカレ ッジしますが、医学的にはやせ細った筋肉をもう一回太らせるのは非常に難しいですので、第 3 段階の真ん中くらいから第 4 段階にかけては、不可逆となります。
この虚弱化フローを、口腔機能にズームアップして描くと右図のようになります。上述しまし た『オーラル・フレイル』の新概念です。滑舌の低下、食べこぼしやわずかなむせ、噛めない食 品の増加などから、食欲低下や食品多様性の低下に繋がり、それらを無視しているとどんどん次 のフェーズに進んでしまいます。「生活に困っていないけれども、言われてみれば確かに気になる」
というこの辺で、どれだけフレイルを意識できるかが非常に重要です。負のスパイラルに入らな いように、咀嚼能力維持のトレーニングをやっていかなければなりません。
4.市民の気づき
柏スタディでは、常に「市民目線とは何なのか」と考え続けてきました。市民が気楽に参加でき る場を作り、楽しさや目新しさ(斬新さ)、そして測定による自分の状態の見える化ができるプラ グラムであることが必要です。ふくらはぎを指輪っかで測るということから始めて、市民全員が、
「栄養(食と口腔機能)・運動・社会参加」の三位一体を全部学ぶというスタイルを基本コンセプ トとしてプログラムを作りました。そこから、意識変容が起こり、行動変容へのきっかけとなる ような気づきがもたらされます。
市民の声を紹介すると、次のような感想が寄せられています。
柏スタディを吟味していろいろな角度から解析してみると、やはりこうした『社会参加という 処方箋』を切っていかないと、フレイル予防には有効打が打てないのではないかと見えてきます。
フレイルにもソーシャル・フレイル、メンタル・フレイルといろいろありますので、それをもっ と学際的に科学的に検証することも必要であると考えます。また、市民目線のわかりやすい概念 と基準値も必要です。市民サポーターの養成研修やプログラム全体のブラッシュアップも継続し
ていかなければなりません。
ここで直近の我々の活動をご報告いたします。この度、新たに養成された市民サポーターたち が主体となって、地域サロンを活用しながらフレイルチェックを行い、参加した高齢者たちに気 づきを与え、さらに自分事化を促しております(下図2つ)。専門職のいない市民サポーターと参 加市民だけの『気づき』と『自分事化』を促す場をどう作り上げるのか。そして、それが市民自 身の意識変容へと繋がります。『社会参加~社会貢献という処方箋』をまちづくりを通してどのよ うに切ることが出来るのか。そこには産学官民での取り組みにより、従来の既存の活動と新規の 取り組みの融合が強く求められます。今後もコミュニティーでの健康増進活動を通しながら、最 先端研究も同時並行で走らせる必要があり、そのデータの源は「最前線」であるコミュニティー からのビッグデータを構築していく必要があり、データ収集に加え、効果判定や検証を重ねてい く必要があります。
また、本取り組みのもう一つの大きな目的が、新たな市民フレイル予防サポーター自身の「生 きがい、やりがい、社会貢献」などの気持ちです。まさに、市民主体で、市民の手による、市民 のための健康増進活動に寄与して下さる市民サポーターをより多くでも各地に養成して行きたい と思っております。
最後に、我々の課題は、学術と市民の合同における「学際的研究」をいかに前に進めていくか です。柔軟に長期縦断追跡調査を継続していき、新たなエビデンスの創出と蓄積をしながら、そ れをしっかり運動論に反映させていき、そこでの効果判定をしていこうと考えています。
第 8 回「大都市における地域包括ケアをつくる政策研究会」
『日本経済の将来と医療・介護政策』
話 題 提 供 : 西村 周三 氏
一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構 所長
日 時 : 2015 年 7 月 16 日(木)19:00~21:00
場 所 : 東京都千代田区丸の内 1-7-12 サピアタワー6F ステーションコンファレンス東京 605C 会議室
◆第 8 回
日本経済の将来と医療・介護政策
【話題提供】
西村周三氏(一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構 所長)
1.日本経済の将来
〈医療・介護政策――考えるべきこれからの備え〉
これからの医療政策を考えるときには、スライドに示した内容をしっかり頭に入れる必要があ ると考えています。
超高齢化はほぼ間違いなく起きますし、中 でも75歳以上高齢者が激増してきます。特に 大都市での超高齢化は大きな課題です。
一方、増税を「起きる可能性があること」と するのは妥当ではないかもしれませんが、言 いたいことの主旨は、「とにかく何らかのかた ちで増税しないと、これからは乗り切ってい けない」ということです。国民がそれを納得す る方向にいかに持っていくのか、ということ が重要になります。そして、大災害の可能性、
そのリスクマネジメントということも、非常に大事なテーマになるでしょう。
もう一つ、「国際価格暴落クラッシュ」が起きると言われていますが、結論を先に申し上げると、
それほど心配することはありませんよ、という話です。とはいえ万が一、起きてしまったときに は医療・介護従事者も不干渉ではいられません。ギリシャは外から見ていても非常に混乱を極め ていますが、日本にも同じようなことが起きてしまったら、たいへん深刻です。そういう可能性 がないとはいえず、その意味で、国民的なコンセンサスをつくっていくための準備はしておく必 要があると思っています。
このように、少し先のことを考えると、かなり深刻なことがいろいろあります。だからこそ私 は、「できるだけ質を下げないで、医療費・介護費を抑制していくという考えをお持ち頂きたい」
というメッセージを、医療従事者、介護従事者の方々に申し上げたいのです。
〈社会保障関係費の伸びについて〉
今、骨太方針2015をどう具体化していくのか、内閣の経済財政諮問会議で議論されています。
ここでの大事なポイントは、「今後 3年間の社会保障関係費の伸びについて、“高齢化に相当する 1.5兆円”を目安とし、その達成に向けた改革をすることが示された」という部分です。
物事の決定はどこか1か所で決まるわけではありませんので、これが実現するかどうかは、ま