◆第 14 回
「地域包括ケアシステムの構築と自治体の役割」
~広島県 23 市町への 3 年間の支援をもとに~
【話題提供】
岩名礼介氏
(三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 経済・社会政策部社会政策グループ主任研究員)
当社は、「広島県内23自治体への地域包括ケアシステム構築に向けた支援」を行うことを目的 に、広島県と契約しました。実質的には23市町と直接やりとりをして支援するものです。
〈3年間の取り組み〉
では、具体的にどのように事業を進めていったのか。我々は、保険者がその機能を発揮するた めには3つの段階が必要と考えています。
第一段階で、現状をしっかりと把握・分析して課題を明らかにし、第二段階では方針を共有し ます。そして第三段階では、実践とそれに対する評価を行う。このプロセスをしっかりと踏んで いかなければ何をやってもうまくいきません。今回の事業においても、以下の3つのステップで 進めてきました。
① 平成24年度事業「地域の把握」
初年度は、まず実態把握が必要ということで、「生活実態調査」を実施しました。これは要介護 認定を活用した地域データサービスなのですが、初年度だけでは十分なデータが取れず、次年度 も再度、同じ調査をブラッシュアップした形で行っています。
同時に、レセプトデータを分析して「ケアバランス指標」というものをつくりました。さらに、
日常生活圏域単位でその地域の人口、認定率、ホームヘルプの利用率などの基本的な情報をシン プルにまとめた「地域診療カルテ」を作成しています。こういった初年度の取り組みは、ほとん ど県とのデータのやり取りによって行っており、自治体との接点はほとんどありませんでした。
② 平成25年度事業「考え方の共有化(規範的統合)」
そして2年度目には、初年度の分析データを各自治体にフィードバックし、課題の共有を図り ました。ところが、そのときの自治体のリアクションはというと、「データが多すぎて何をみたら いいかわからない」というものでした。実際、私たちが納品したデータ集は、電話帳よりも分厚 い冊子で、説明会を開いたりもしましたが、自治体の職員の方には全く響いていないことがよく
わかりました。
一方で、地域包括ケアシステム構築への共通認識を持つための会議として「市町会議」という ものを7回実施しました。「在宅限界点」「生活支援」「介護予防」など毎回さまざまなテーマを設 定し、有識者を招いて講演をして頂いています。各自治体にお願いしたのは、7 回すべて同じメ ンバーで参加して頂くということで、そうでなければ横断的にテーマを理解することができない からです。その場で「いい話だったね」で終わってしまうこともあったかと思いますが、共通認 識をつくるためには、薄く幾重にも重ねていくプロセスが大切と考え、地道に進めてきました。
そして、初年度にも行った「地域生活実態調査」を再度内容を精査して実施しましたが、二度 目はより調査仮説を明確にしてデータを集めました。この事業を進める上で、理解しやすいゴー ルをセットしようと考えたからです。
そのため、初年度の終わりに、「在宅で暮らし続けるために最もネックになっているのは何か」
を皆さんと話し合いました。そこで出てきたのが、「どうして要介護3になると急に在宅を諦める 人が増えるのか」ということです。繰り返し話し合いながら徐々に絞り込まれていったのが、「排 泄の問題」と「PTSDの問題」で、二度目の実態調査はこの2つのテーマに絞りこみました。
これらのテーマは、決して私たちが設定したのではなく、あくまでこの 1年間の話し合いの中 でなんとなく合意に達したものです。この「みんなで考え付いたかのように思ってもらうこと」
が、実は非常に重要なポイントだと考えています。
③ 平成26年度事業「取り組みの具体的プロセス」
3 年度目はいよいよ具体的にどのように進めていくのか、自治体ごとにロードマップを作成す る段階へと入りました。今度は県単位ではなく、自治体ごとに膝を詰めて議論しました。このロ ードマップ作成にあたって活用したのが、JICAの「プロジェクトデザインマトリックス(PDM)」 というものです。目的と指標と活動の内容を全て関連付けて描くマトリックスなので、それぞれ の事業の目的を意識できると考えたからです。今やっている事業にどういう意味があり、どこに
向かっているのかを理解して頂くことが、ロードマップづくりの重要な目的の一つです。
しかし、この作業は非常に難航しました。県の事業のため、23自治体そろって報告書を出す必 要がありますが、積極的な自治体もあればそうでないところもあり、結果的にこちらで全て書い たところもありました。しかし、この作業を通して、我々の側でどれだけのことをしたら、自治 体が自発的に取り組む「動機づけ」になるのか、ということが見えたようにも思いました。
〈その後の展開〉
平成27年度以降はいよいよ取り組みを本格化して頂く段階に入っています。この3年間で我々 と広島県との契約は終わっているため、それ以降の直接的な関わりはありませんが、その後はど うなったのか。残念ながら、あまり進んでいない自治体があるのも事実ですが、その後も着実に 進めて頂いているところもあります。
例えば江田島市は、人口減少が激しい地域で、そろそろ2万人を切る規模になってきています。
具体的な施策が何もなく困り果てていたところでこの事業の話が来たので、人々の意識も高く、
どのような取り組みを行えば本当に効果が出せるのかを、皆さんでしっかりと議論して頂くこと ができました。その結果、今もこの事業を、少しずつ進めて頂いているようです。
もう一つは熊野町です。広島市と呉市に挟まれていて、ベッドタウン的な要素もあります。こ こは団塊の世代の居住者も多く要介護認定者が今後 1.8 倍に膨れ上がる一方で、若い人が広島市 へ出て行ってしまい、需要と供給のバランスが大きく崩れるということで、非常に危機感を持っ ています。ここでは排泄の問題にテーマを絞り、「すっキリンプロジェクト」という名称で取り組 みが始まっています。
大切なことは、その地域にいる人たちがしっかりと問題意識を共有し、「これはやる意味がある な」「こういう結果が出るかもしれない」という期待感を持って取り組むことができるかどうか、
なのだろうと思います。そういう気持ちが、地域の取り組みの持久力につながっていくと理解し ています。
2.広島でやろうとしたこと
〈ケアバランス指標〉
ケアバランス指標は、要介護3以上の人がどこに住んでいるのか、居場所を分析するものです。
地域包括ケアシステム構築の進捗を確認するためのモニタリング指標の一つとして開発しました。
要介護 3以上に設定したのは、認定率が軽度者に比べてさまざまな社会的因子に影響を受けに くく安定しており、なおかつ、ちょうど在宅が難しくなる段階でもあるからです。この中に「シ ョートステイサービスの利用が15日以上」という指標をつくり、日常生活圏域ごとに分析をした ところ、非常に多い地域と全くいない地域があることがわかってきました。中には、ショートス テイを 1か月以上利用している人も、少なくありませんでした。こうなると、実質的には施設に いるのと同じです。
あるいは、要介護1の人が施設にたくさん入所しているのに、要介護3以上の人がショートス テイを15日以上利用している地域もありました。その理由を話し合って頂いたところ、入所判定
会議の基準がおかしいことにお気づきになったようです。
このショートステイの集中利用というのは、要介護 3以上から急に増えていきます。そのこと を示すデータをつくり、「どうしてなのか?」ということを皆さんで議論していただきました。デ ータをつくるのは結論を出すためでなく、あくまで皆さんで議論するネタづくりが目的です。デ ータからスタートして、「なぜ」を追求していくと、非常にいいアイデアが出てくるということを、
今回ファシリテーションしていて強く感じました。
〈居宅サービス利用状況からみえること〉
こちらは要介護3以上の方がどのような居宅サービスを組み合わせて利用しているかを示すデ ータです。広島県全体のものです。1位は、通所介護のみを使っている人で、要介護3以上で12%
でした。訪問系サービスを利用している人は非常に少なく、要介護3以上のうち4割は、家に専 門職が一切、入ってこない環境にあります。
また、私は「在宅外在宅サービス」と呼んでいるのですが、ショートステイやデイサービスを 利用している人は、施設を検討している率が概ね高いことが示されました。逆に在宅で暮らして いる人で「施設を検討していない」という人は、訪問系のサービスを利用している率が高いこと もわかっています。切迫しているからこそレスパイトに流れているだけかもしれませんし、因果 関係はわかりません。しかしながら、訪問系サービスが全く入っていない人は、基本的に在宅は
「諦めモード」になっていて、施設に流れていることはいえると思います。
〈大切なのは、答えを自分たちで見つけ出すプロセス〉
このことから何を議論したかというと、「需要があるからといって、デイサービスやショートス テイをどんどん増やすことが、本当にいいのか?」ということです。こうしてデータを見せると、
「やっぱり違うよね」という話が、自治体の皆さんから自ずと出てくるようになります。
このように、データをもとに自分たちで考え、分析し、気づくというプロセスを踏むことが大 事なのだろうと思います。ですから、例えば「定期巡回サービスが大事ですよ」という言い方は、
私はあえてしませんでした。問題意識がしっかりと共有されていないと、「ここは中山間地だから 無理だ」という話で終わってしまうからです。しかし実際のところは、三次市のように、中山間 地という厳しい環境で定期巡回を行っている事業所もあります。ここは 4か所の小規模多機能か ら定期巡回に出ていく仕組みで、小規模多機能やケアハウスなどとの複合経営で採算をとってい ます。
いろいろと議論をしていくうちにアイデアは出てくるものなのですが、そうなるためには何か 触媒になるものが必要だというのが、今回の事業を通じての私の実感です。漠然と「地域包括ケ アをやりましょう」「在宅を強化しましょう」ということが、いかに答えを生んでいないか、とい うことを強く感じました。
〈ロードマップの作成から見えてきたもの〉
ロードマップを各自治体に作成 して頂いたところ、おもしろいこ とに、テーマがある共通したとこ ろに集中していきました。それは
「介護予防、生活支援を、資格の ない人たちにやってもらい、介護 職は中重度者のほうにシフトして いきましょう」という方向性です。
これは決して私たちが総合事業を 意識して誘導したものではなく、