〈日本の課題〉
まず人口ですが、日本はこれから若年層が 激減していきます。介護労働者の数を確保す るといっていますが、とてもできる状況には ありません。では何が求められるかというと、
介護の生産性を高めるしかありません。数を 確保できない以上、そうする以外に方法がな いのです。
次に保険料です。2025年には後期高齢者医 療が月額で6500円程度、介護保険が8200円 程度という推計が、厚労省より出されていま す。合わせて1万5000円近い金額を、後期高 齢者本人が支払うということになりますから、
かなり厳しいといえるでしょう。そうすると、
ほかの財源で補うという話が出てくるわけで すが、しかしながら今回も、消費税の増税は 延長されました。
保険料の天井にどこかで必ず突き当たるこ とが、見て取れるわけです。
〈過去10年間の医療費の変化〉
ここからは10年間の医療費の変化をお示し していきます。入院患者および外来患者の 1 人あたりの医療費が、かなり増えています。
これは、提供される医療が濃くなっているこ とを示しています。
病院全体の10年間の変化をみてみると、病 院数も病床数も減少し、病床利用率も減って います。そして外来も、患者数が減っていま
す。一方で医療従事者の数は結構、増えてき ています。これが、ここ10年のトレンドです。
つまり、医療ビジョンで示されていること が、すでに起きているのです。1日平均の新規 入院患者数および退院患者数は増えていて、
平均在院日数も短くなりました。病院が、よ り病院らしくなってきている、ということを、
この数字は示しています。
それが最も顕著なのが一般病床で、精神科 病院も若干、同様の傾向がみられます。療養 病床だけはあまり減っていません。いずれにしても、「医療ビジョンというのは今のトレンドに合 っており、それほど無理なことをいっているわけではない」というのが、私の感想です。
ただし、これはあくまで全国のトレンドです。首都圏が注意しなければならないのは救急の問 題で、東京都は全国で最も救急搬送時間が長く、病院ベッド数も足りなくなっています。何か方 策を考えなければ、首都圏は明らかに厳しいといえるでしょう。
〈将来推計〉
2040年までの外来利用者数の将来推計が出ています。長期的にみると、診療所の医師数は増え ていくのですが、一方で外来の利用率は減っていきますので、今後、診療所が厳しくなるのは一 目瞭然です。例えば人口 10万人が5万人になるような地域では、医師 1人あたりの患者数が大 幅に減ってしまいますから、明らかに成り立たちません。
どうして外来患者数が減っていくかというと、団塊の世代が80歳ぐらいになると外来に通えな くなるからです。その分、医師には地域に出てもらおうということで、今、医師会ベースで在宅 医 療 の 体 制 づ く り が 行 わ れ て い る 状 況 で す。
2.地域包括ケアについて
〈地域包括ケアの課題〉
地域包括ケアの5つの課題をスライドに示し ました。
日本の介護保険制度というのは、非常に間延 びしたかたちになっています。例えば、要支援 から要介護 2までを「軽度」、要介護 3以上を
「重度」というふうに括ると、ドイツや韓国に は、「重度」に相当する部分しか、サービスの 対象となっていません。だから、制度がとても わかりやすいのです。
ところが日本の場合には、軽度の部分まで幅 広く対象としているので、どうしても混乱が生じやすくなっています。例えば、課題①(保健・
予防)や②(自立支援)は、せいぜい要介護 2までの話で、要介護認定者全てに通じるものでは ありません。日本も、対象を要介護3~5に絞り込んでサービスを丹念に行っていくほうがいいの ではないかと、私は思っています。
〈自立度の変化パターン〉
スライドは、自立度の変化パターンを男女別 に示したものです。男性の場合、72~75 歳あ たりから自立度が落ちてくるパターンが 7 割 です。一方、女性はもう少し若い69~71歳く らいから落ちてくるパターンが 9 割近くを占 めます。これを老年医学会ではフレイル、整形 外科ではロコモティブシンドロームといって いますが、要するに脆弱化、虚弱化していくと いうことです。
この、自立度が少しずつ落ち始めた要介護2 や3の段階で、本当に必要なのは、自立を支援 するようなサービスです。今の介護保険で提供 されるサービスはミスマッチになってしまっ ていて、自立を支援できているかというと、必 ずしもそうではありません。
要介護度が4、5まで落ちてくると、医療や 身体介護、看護が中心になります。疾患による 違いはあるものの、要介護3未満と3以上とに 分けて考えると理解しやすくなります。
① 保健・予防ができているか
では、先ほど挙げた5つの課題について、準 に見ていきましょう。
まず、「保健・予防」についてですが、私が 老健局長をやっていた頃、この予防事業という のが事業仕分けに引っかかりました。予防事業 はまだ始まって3年しか経っておらず、当時は まだ参加者が少ない状況でした。廃止にこそな りませんでしたが、「きちんとエビデンスを出 せ」ということが、このときから言われていた のです。
介護予防給付がなぜやり玉にあ がったのかというと、2010年の財 務省の予算執行調査で、「介護予防 といいながら、やっていることは 生活援助ではないか」といった指 摘があったからです。デイサービ スも「通所リハビリと言いながら、
ただ預かっているだけ」という端 的な指摘がありました。さらには、
限度額該当者の調査というのもそ の当時に行われたのですが、支給 限度額までめいっぱい利用してい る人のサービスの中身を見ていく と、2種類以下のサービスが 8割以上を占めていることがわかりました。つまり、身体介護より も、掃除や洗濯といった生活援助が多くを占めていることが見えてきたのです。その一方で、例 えば呼吸器疾患があるのに訪問看護が全く提供されていないなど、本当に必要なサービスに結び ついていないという実態が浮かび上がりました。このような状況は今もまだ続いているかと思い ます。
そこで介護予防給付、介護予防事業の見直しを行いました。「いろいろやれと言われて結局なん だかわからない」などと言われてしまっていますが、話としては単純で、予防給付のうち訪問介 護と通所介護、ホームヘルプとデイサービスを別のかたちでやってはどうか、ということです。
「配食や見守りは、別にヘルパーがやらなくても、地域支援事業の中で配食業者にお願いしたり、
見守り支援隊をつくってみてもいいですよ」ということを、言っているだけなのです。これは恐 らく、給付の設計を変えようとしているのだと思います。
② 自立支援に資するサービスになっているか
予防的介護には、生活不活発の防止、口腔ケア、低栄養の防止、排尿ケアなどが挙げられます。
例えば、「おむつを使わないで済むように排尿ケアをする」というのが予防的介護なのですが、実
はこの部分への給付が非常に弱いのが日本の 現状です。埼玉県和光市では地域支援事業の中 でこの部分をうまく補っていますが、これから は各自治体で、この部分をどう事業の中に組み 入れていくのかを考えていく必要があるでし ょう。つまり、給付の中身を再設計してはどう か、ということです。
医療ケアについては、もう少し裾野を広げて いこうとしています。巻き爪をヘルパーが切っ てはいけないとか、そういったところを見直し ていかないと、なかなか広がっていきません。
一方で、掃除、洗濯、料理などの家事援助は、今は保険給付のほうでできますが、今後は徐々 に圧縮されていく、というのが長期のトレンドだと思います。もともとヘルパーというのは、福 祉の分野で、低所得者に家事支援 をするところから始まっています。
また、もう一つのヘルパーの源流 として、平成 8 年に付き添い看護 が廃止になり、平成12年に介護保 険ができて、家政婦紹介所の人た ちが介護保険に大量に入ってきた、
という経緯があります。こういう 歴史を考えると、家事援助をいき なり圧縮するのは難しい部分もあ り、少しずつ進めていく必要があ ると思います。
寝たきりゼロ 10 箇条に、「手は 出しすぎず、目は離さず」が介護の基本とあります。日本人の「おもてなしの心」が、介護の場 面で果たしていいのかどうか。また福祉用具についても、ヨーロッパでは広く活用されています が、日本では「人の手を使ったほうがいい」という意識が根強いようです。メンタリティの違い だと思いますが、ここは少し意識を変えてもい いのかもしれません。
埼玉県和光市の場合
埼玉県和光市が要介護認定率引き下げを実 現したことはよく知られています。「和光市だ からできたこと」と思われがちなのですが、最 近は大分県が和光市のバックアップを受けて 全県的に和光市方式を取り入れ、2年ほどかけ て今、認定率が下がり始めています。つまり、