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砂州干潟:潮位差の大きい内湾の沖合いに形成される砂質の浅瀬であり、漂砂が激しい ために底土の安定性が低く、そのために生物量は小さい。漂砂が比較的安定している潮

間帯下部では、アマモ場が形成される場合もあり、ときにはアサリ、バカガイやハマグ

リ等の二枚貝類の好適な生息場となっていることもある。

上記のようなさまざまのタイプの干潟があるが、一般に干潟では生物が多様で豊富であ り、生物生産が高く、また水質浄化能力が高いのは、なぜであろうか。これを理解する には、流域さらには沿岸域全体の中一部として干潟を理解すること、具体的には、潮汐 の干満に応じて出入りする海水、流入する河川水、これらの環境変動の影響下に生息し ている生物等々、の連関を理解する必要がある。例として、アサリ等の二枚貝類やゴカ イ類等の多毛類が優占する砂泥質の河口干潟を考えてみよう。

干潟の代表的な生物としては、アサリ等の二枚貝類、ウミニナ類の巻貝類、ゴカイ等

の多毛類、チゴガニやコメツキガニ等のカニ類、イシガニ等のカニ類、スナモグリ類の 異尾類、カモメ類やシギ・チドリ類の鳥類があげられるであろう。食性の面からこれら の生物を分類すれば、次のようになる。

ア サ リ 等 の 二 枚 貝 類

: 底 土 表 面 で は な く 、 表 面 近 く の 底 土 中 に 生 息 し て い る 埋

在性の二枚貝である。上潮時や満潮時に干潟を覆う海水中から、粒子状(懸濁態)の有 機物を濾過して食べる。佐々木(2001)の「アサリの水質浄化の役割」(水環境学会誌

24:13-16)に示されているように、アサリ等の二枚貝の水質浄化能力には驚くべきもの

があり、これらの二枚貝の水質浄化への寄与は流域下水道のそれに勝とも劣らない。

ウ ミ ニ ナ 等 の 巻 貝 類

: 底 土 表 面 に 生 息 す る 表 在 性 の 巻 貝 で あ る 。 干 潮 時 に 干 潟

表面を動き回り、底土表面に繁茂した付着珪藻を剥ぎ取って食べる。

チ ゴ ガ ニ 等 の カ ニ 類

: 上 げ 潮 時 や 満 潮 時 に は 巣 穴 に 潜 み 、 干 潮 時 に 干 潟 表 面 に

現れる。干潮時に干潟表面の砂泥を掬い取って口に運び、砂泥中の粒子状有機物を濾し とって食べ、他は砂泥団子として底土表面に戻す。

ゴ カ イ 等 の 多 毛 類

: 底 土 中 に い る 埋 在 性 生 物 で あ り 、 砂 泥 を 取 り 込 み 、 そ の 中

の粒子状有機物を消化する。

イ シ ガ ニ 等 の カ ニ 類

:干潟表面よりも水際線の岩の間におり、干潮時には潜み、

上げ潮や満潮時、とくに夜間に活発に活動する生物である。このカニは他の生きたベン トスときには腐肉を食べる肉食動物である。

ス ナ モ グ リ 等 の 異 尾 類

: 干 潟 表 面 に は 出 現 せ ず 、 つ ね に 巣 穴 中 に い る 埋 在 性 生

物である。上げ潮時や満潮時に巣穴に引き込んだ海水中から粒子状有機物を濾しとって 食べる。

カ モ メ 類 や シ ギ ・ チ ド リ 類 等 の 鳥 類

: 干 潟 の 種 々 の ベ ン ト ス を 捕 食 す る 。 恐 ら

くは嘴等の形状や行動的な特性と密接に関係しているが、種によって主として餌となる 餌生物は異なっている。

干潟の埋在性ベントスのほとんどが特定の形状の巣穴をもち、また巣穴をもたない場合 でも、何らかの生痕を干潟の底土中に残すので、干潟の底土はいたるところに空隙があ

るといっても過言ではない。干潟底土はこれらのベントスによって、つねに活発に耕さ れていることになる。このことは、干潟底土の深くまで、そこは通常は酸素が不足して いる還元層であるが、酸素の豊富な海水が送り込まれ、有機物の分解が促進されている ことを意味している。つまり、アサリ等のベントスによる海水中からの粒子状有機物の 摂取、干潟底土深くの還元層の酸化等を通して、有機物の分解および栄養塩類の再生が 促進され、これによって底土表面の付着藻類が繁茂する。次に、これらの付着藻類は再 び干潟の植物食性ベントスに摂食される。水質浄化の面から見れば、干潟は三次下水処 理に相当する働きをしていることになる。

藻場

本邦の藻場(海草・海藻)の総面積は約

200,000 ha

あり、

1978

年(昭和

53

年)以降、

6,000 ha

も消滅しており、現在でも徐々にではあるが減少を続けている。藻場は光合

成が補償される深度までの浅海域にあり、その構成種の名称を冠して呼ばれることが多 い。、例えば、アマモ場、ホンダワラ場(ガラモ場)、アラメ場、カジメ場、コンブ場 などである。

アマモ類は海産顕花植物であるが、植物進化的には本来は陸上の植物であったものが

海に侵入し、そこに適応した顕花植物である。アマモ類は、春に草体の一部が花枝に変 化し、種子を形成する。種子は冬に発芽し、冬から春にかけて成長が盛んになり、根は 株分れを繰り返す。春から夏にかけて繁茂・成熟し、枯死して海底に沈積するか、流失 する。秋になると、アマモ場は草丈の短い草体のみとなる。海草藻場はしばしば河口干 潟に隣接したり、砂質前浜干潟の前面に位置することが多い。これに対して、海藻はま ったく異なった生活史をもつ。アラメ・カジメ類の生活史はほぼコンブ類と同じであり、

大型の胞子体と糸状の配偶体からなる世代交代をおこなう。ガラモ場を形成するホンダ ワラ類は、陸上の口頭植物と同じ複相世代交代であり、成熟した生殖器床の中で精子と 卵子が形成され、受精すると蘭が分裂を始め、一次仮根、二次仮根が現れ、発芽体(幼 芽)は基質に着生する。これらの大型海藻の藻場は波の荒い、外海水の影響を直截に受 ける岩礁海岸の前面に位置することが多い。

アマモ類(アマモ(アジモ)、コアマモ)のような海草は砂質底、ワカメ、ホンダワ

ラ、アラメやカジメのような大型海藻は岩礁という生息基盤の違いはあるが、いずれに せよ藻場は干潟に比べれば安定した生息環境をもつ。もっとも、これらの大型海藻自体 が岩礁域での強い流れを弱め、藻場内部に周りに比べて穏やかな流況を作り出している。

海草と海藻は第一次生産生物であり、有機物生産とともに水中への酸素供給源でもある。

藻場は海の草原あるいは海の保育場とも呼ばれており、多くの生物の生息場であり、か つそれらの生物の幼・稚仔の保育場となっている。

大型海藻の生育場である岩礁域は、安定した基盤であり、またベントスや付着生物の 着底基盤である岩盤は種々の形状や起伏に富み、これに波浪や潮汐による強い流れの影

響が加わって、多様な生息空間となっている。大型海藻の藻場では磯焼け現象がよく知 られているが、大型海藻が何らかの原因で消失すると、付近の魚介類の漁獲量が減少す ることがあり、藻場が周辺海域の生態系の中で重要な役割を果たしていたことがうかが える。一方、海草藻場は地理的に人為的な影響を受けやすい場所にあり、埋立や干拓等 による消滅の危機に曝されている。海草藻場は一般に穏やかな流況の見られる砂質底に あり、砂質底は岩盤に比べれば安定した基盤とは言えないが、そこは穏やかで多様な生 息空間となっている。藻場(海草・海藻)の生態的機能として、以下の項目が挙げられ る。

(1)海水流動の抑制と多様な生息空間

(2)藻場を構成する海草・海藻と微小付着藻類による高い一次生産力 (3)光合成による酸素の供給源

(4)炭酸ガスの吸収

(5)窒素や燐等の栄養塩類の吸収による富栄養化の進行の抑制 (6)魚介類その他の動物の産卵場、保育場、摂餌場、生息場、隠れ場

富栄養化の進んだ沿岸水域において、河川からの淡水流入の影響を直接受けることが

少ない海岸あるいは干潟では、アオサ類が繁茂し、ときには海岸や干潟の広い範囲にわ たってオアサ類が観察される。アオサ類が大発生して、海岸を埋め尽くすようになった のは、1970 年代(昭和

45

年)の頃からであり、とくに関東以南の富栄養化した沿岸域 や河口域に大繁殖してきた。しかし、これらの大繁殖して、海岸をびっしりと覆ってい るアオサ類を指して藻場とは呼ばない。これらの大量に繁茂したアオサ類は活発な光合 成活動を通した酸素供給や栄養塩類の取り込みによって、環境に対して好ましい働きも する。しかし、これとは逆に、腐敗して異臭を放つこれらのアオサ類(生きたアオサ、

死んだアオサ)が海岸や干潟の底土表面をびっしりと覆うことによって、むしろベント スにとって負の働きをし、ときにはベントスの死亡要因にもなっている。アオサ類の成 長の速さ、繁殖の強さ、さまざまな環境への適応力の高さといった特徴を生かして、能 登谷(1999)の「アオサの利用と環境修復」(成山堂書店)に紹介されているように、アオ サ類を養殖場の水質浄化あるいは養殖排水の水質浄化の人工プラントに組み込んだ種々 の装置も考案されている。

ヨシ原

河川や湖沼のヨシ原には、次の3つの事実が知られており、これは閉鎖的水域の水質

浄化に著しく寄与していると評価されている。すなわち、浄化能力が高いこと、淡水性 植物であるが塩分耐性が高いこと、地下茎の発達により土壌の透水性がよくなること。

これらの水質浄化作用と浄化能力は、汽水域のヨシ原にも当てはまると期待されている。

河川や湖沼のヨシ原に比べて、汽水域のヨシ原の浄化作用および浄化能力については、

知見が少ない。環境省は閉鎖海域の浄化対策として、全国の4箇所(東京都、静岡県、

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