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ヘドロ:河川、湖沼、内湾域の堆積物のなかで、粒子が微細で水分や有機物の含有量の 多いものを指す。語源は明確ではないが、軟らかく黒い底泥に対して使用されていたも

のが、公害問題の発生とともに、汚濁物質が堆積して生じた泥をヘドロと呼ぶようなっ た。ヘドロの用語は人によってさまざまに異なった意味で使用されることが多く、例え ば比較的固い堆積物の直上の水分含有量

90%以上の浮泥を指すこともあり、この用語の

使用には注意を要する。

もちろん、沿岸水域の環境容量は当該の水域の水質浄化能力によって規定されている。

環境容量は「汚染物質が環境中に放出されても、自然浄化力により悪影響がでないよう な環境の収容力」と定義できる。自然浄化力に関与する物理・化学・生物過程は複雑で あり、かつ相互に関連しあっているので、排水中の窒素、燐、有害化学物資など汚染物 質ごとに、漁業や観光など業種ごとに、あるいは海面養殖場、閉鎖的内湾、サンゴ礁、

藻場・干潟など区域・海域ごとに、環境容量を定めるべきである。しかし、世界各国に おいて環境容量概念にもとづく沿岸海域の環境管理が目指されているが、その実現は容 易ではない。

環境容量の解明とそれにもとづく環境管理が容易ではないのは、環境容量は時空間的

に変動し、環境容量推定のための有力な道具である数値生態系モデルに未だ標準的なモ デルがなく、環境容量概念が自然科学と人文社会学の双方にまたがる概念であり、この 概念にもとづく沿岸海域の環境管理には、政府・公共自治体の行政・政策担当者、業界 の代表者、自然科学・人文社会学の専門家、地域住民も参加した合意形成が必要である、

といった数々の困難があるためである。いずれにしろ、これらの難問に対処し、これを 解決していかなければ、沿岸海域に未来はないであろう。現在、国連開発計画と国際海 事機構が組織した

PEMSEA (Partnerships in Environmental Management for the Sea of East Asia: http://www.pemsea.org)

に参集した専門家が、沿岸海域の環境容量の定義、

推定法とその応用例等をめぐって検討中である。

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下水道とその関連施設

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下水道施設

排水処理には、一次下水処理、通常の二次下水処理、さらには高度処理とされる三次 下水処理まである。一次下水処理は沈殿槽に排水を導いて排水中の大型ゴミあるいは大 型懸濁物を除去する単純なものであり、一方、通常の二次下水処理ではこの一次下水処 理に加えて、微生物の集団である活性汚泥曹に排水を導き、排水中の懸濁態と溶存態の 有機物を無機物に分解して、排水中から有機物を除去する。標準的活性汚泥法である二 次処理は排水中の有機物量を、したがって

COD

BOD

を著しく低下させるが、排水中 に溶存している無機態の窒素や燐を十分には除去できない。二次処理における処理水質

目標は

BOD 20ppm, SS

(懸濁物質)30ppm程度とされている。三次処理はこの水質目

標値以上の処理をおこなうことを意味していたが、従来の処理では除去対象にしていな かった窒素や燐等の除去は、必ずしも一次、二次、三次のプロセス形態をとるものでは ないので、三次処理に代えて高度処理という用語を用いている。高度処理の技術は、処 理の目的により、(1)有機物の除去を主目的にしたもの、(2)栄養塩類の除去を主目的にし

たもの、

(3)処理水の再利用のために無機塩類の除去を主目的にしたもの、に分けられる。

後に言及するが、水域の富栄養化の進行を防止するための下水処理技術の発展が問題と なっている。したがって、建設省都市下水道部(1994)の「日本の下水道」によれば、高度 処理である三次下水処理の長所は、二次下水処理では十分に除去できない無機態の窒素 と燐の除去率を上げることであり、その目的は処理排水を放流する水域の水質環境基準 の達成維持、閉鎖的水域の富栄養化の防止、処理排水の再利用、放流水域の水利対応等 である。

屎尿、生活系排水、工場廃水、農業集落排水などは、さまざまな下水処理技術によっ

て処理されているが、大きく分けて下水道と浄化槽に分類されている。下水道はさらに、

公共下水道、流域下水道、都市下水路に分けられる。三重県土木部(1998)の「みえの下水 道」によれば、生活排水処理対策はさまざまであり、各地域の特性に応じた生活排水対 策として、排水処理方法は次のように分類されている。

公共下水道(広義)

(1)公共下水道(狭義)

主として市街地における下水を排除し、または処理するために地方公共団体が管理する下水道で、終末処理施 設を有するもの(単独公共下水道)または流域下水道に接続するもの(流域関連公共下水道)であり、かつ汚 水を排除する排水施設の相当部分が地下にある。処理方法は多くの場合、活性汚泥法が採用されている。

(2)特定環境保全公共下水道

非市街化区域内において、生活環境の改善や環境保全のために特に緊急に整備する必要があるものについて行 う公共下水道である。

(3)特定公共下水道

公共下水道のうち、特定の事業者の事業活動に主として利用されるもの。

流域下水道

市町村が管理する下水道(流域関連公共下水道)により排除される下水を受けて、これを排除し処理するため に、県が建設・管理する下水道で2以上の市町村の区域における下水を排除し、かつ終末処理場を有するもの。

都市下水路

主として市街地の雨水を排除して浸水を防除するために、地方公共団体が管理する下水道(公共下水道を除 く)で、処理施設をもたないものを指し、その規模が制令で定める規模以上のもの。

その他の汚水処理施設

(1)農業集落排水事業

農業振興地域内等の農業集落における生活環境を改善するために実施する排水処理施設で、概ね1,000人程度

以下の規模を対象とする。農林水産省の管轄になっている。

(2)漁業集落排水事業

漁業法第5条に基づく指定漁港の背後の漁業集落における生活環境を改善するために実施する排水処理施設

で、概ね100人以上5,000以下の規模を対象とする。農林水産省の管轄になっている。

(3)林業集落排水事業

林業振興地または森林整備市町村における生活環境を改善するために実施する排水処理施設で、概ね20戸以

上の規模を対象とする。農林水産省の管轄になっている。

(4)コミュニテイ・プラント(地域屎尿処理施設)

生活の場から屎尿を衛生的に迅速かつ容易に排除することにより、公衆衛生の向上及び生活環境の保全を図る

ことを目的とし、地方公共団体等が行う事業であり、計画処理人口が101人以上3万人未満の推薦便所の屎

尿と生活排水を併せて処理する施設の整備事業である。厚生労働省の管轄になっている。

(5)合併処理浄化槽

個々の家庭毎に整備する事業と市町村が整備する事業があり、屎尿と雑排水を合わせて処理する廃水処理施設 である。厚生労働省の管轄になっている。法律「浄化法」によって、排水の水質検査が義務づけられている。

(6)特定地域生活排水処理事業

水道水源の水質保全のために、生活排水対策の緊急性が高い地域において、市町村が設置主体として個別合併 処理浄化槽の面的整備をおこなう。厚生労働省の管轄になっている。

(7)小規模集合排水処理施設整備事業

市町村が汚水等を集合的に処理する施設であって、農業集落排水施設に係わる補助制度の対象にならない小規

模なものの整備の促進を図る。住宅戸数10戸以上20戸未満の農業集落が対象である。総務省の管轄になっ

ている。

(8)個別排水処理施設整備事業

農業集落排水施設等により汚水等を集合的に処理することが適当でない地域について、生活雑排水等の処理の

促進を図る。住宅戸数10戸以上20戸未満の農業集落が対象である。総務省の管轄になっている。

上記の中の「その他の汚水処理施設」に挙げられている施設は、農林水産省、厚生労働 省、総務省の管轄に分けられる。水域への汚濁負荷として、化学肥料等の農地に由来す る負荷や家畜排泄物等の畜産系排水からの負荷は大きな問題となっているが、その一部 の原因は上記の農林水産省管轄の排水処理施設の管理が杜撰なことである。農地からの 負荷削減の有効な対策は、上記の排水処理施設の普及と運用は必須の要件であるが、

1999

年(平成

11

年)に成立した法律「施肥技術の開発・改善、普及、持続性の高い農業生産 方式の導入の促進に関する法律」の活用を通じて可能であろう。一方、畜産系排水から の負荷削減の有効な対策は、同じく

1999

年(平成

11

年)に成立した法律「畜産経営に 起因する環境汚染防止対策指導要領」等の活用を通じて可能である。また、 場所によっ ては、淡水または海水の養殖・飼育に由来する汚濁負荷も無視できないほど環境への影 響は大きいが、上記の農地や畜産に由来する排水ほどには政策的な対応が取れていない。

建設省その後の国土交通省が進めている流域下水道には、経済効率の面からだけでな

く、環境保全の面からも、多くの批判がよせられている。その問題点を石井・山田(1990) の「下水道革命」(藤原書店)に従ってまとめれば、次のようになるであろう。(1)流域 下水道は大量の排水を流す幹線管が必要なために、建設費が高くつく、(2)流域下水道の 幹線管延長距離が長くなるので、すべての幹線管が完成するまで数十年かかる、(3)排水 が地下の下水管に入り、近くの河川を流れないために、河川が干上がってしまう、(4)終 末処理場の汚染排水を集中的に放流するために、下流水域へ大きな影響を与える、

(5)種々

の工場廃水や家庭排水の混合水を処理するために、処理効率が悪い、(6)流域下水道計画 は数十年単位の長期計画であるために、途中で問題が出てきても修正しにくく、柔軟な 処理システムの採用を妨げている、等の問題点である。もちろん、流域下水道には考慮 すべき利点も多くあるが、現状で判断するかぎり、上記のような問題点のほうが強調さ れるべきであろう。

下水道施設の建設・維持を費用対効果の観点から見れば、流域下水道のような大規模

な下水処理施設を建設するよりも、二次処理に限って言えば、合併浄化槽等の小規模の 下水施設を設置する方が望ましいと考えられる。しかし、各地域において合併浄化槽の 維持管理を適正におこなうことは必ずしも容易ではないし、現在の水域の汚濁問題は排 水の高度処理を要求しているので、この要求に合併浄化槽で対応するのは困難であろう。

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