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瞬目種類識別のキャリブレーション法の検討

3.4.2項で述べた検証における識別処理は,すべての瞬目データを撮影し終えた

のちにオフラインで行なっている.しかしながら,実際のインタフェースへの適 用を考えると,コマンド入力などのアプリケーション操作を行なう時点で識別が 可能でなくてはならない.本節では,3.4.2項の式3.6により,複数の条件で代表 値を求めた場合における瞬目種類識別のキャリブレーション法を検討する[38].

3.5.1 瞬目種類識別のキャリブレーションの必要性

従来にも,瞬目の持続時間にしきい値を設けて随意性瞬目を識別する手法は提 案されていた[30, 31, 37, 70, 72].EOG法では,角膜網膜電位の波形から得た振 幅の情報を用いると,随意性瞬目と自発性瞬目との間に有意な差がみられ,あら かじめ個人ごとの随意性瞬目の振幅値についてキャリブレーションを行なうこと で,角膜網膜電位波形の振幅のしきい値により瞬目種類の識別が可能である[73].

しかし,画像解析による瞬目計測において,振幅のパラメータのみで瞬目種類の 識別を行なっている研究は見当たらない.また,著者らが採用している画像処理 による瞬目計測において,持続時間の長短による瞬目種類識別を行なう際に,先 行研究では持続時間のしきい値として統計的あるいは経験的に得た固定値を用い

ており[30, 31, 70, 72],この持続時間のパラメータについて個人差を考慮したし

きい値の決定法については議論されていない.瞬目の持続時間には個人差があり,

このパラメータによって瞬目種類の識別を行なう場合には,識別に用いるしきい 値を個人ごとに設定することでよい結果が得られる[87].

本研究では,3.4.2項で述べた通り,瞬目の持続時間のパラメータによって随意 性瞬目と自発性瞬目を識別する方法を採用する.このとき,システムとして随意 性瞬目を抽出し入力インタフェースに用いるためには,2種類の瞬目の持続時間を 識別するしきい値を,システムの使用に際して個人ごとに定める瞬目種類識別の キャリブレーション処理が必要である.本節ではこの瞬目種類識別のキャリブレー ションを行なう方法について検討し,実験によって得られた知見から,比較的少 数の瞬目(1〜5回程度)の取得により完了する高精度な方法を提案する.

3.5.2 瞬目種類識別のキャリブレーション法の検討のための

予備実験

キャリブレーション法の検討のため,被験者8名(30代男性2名,20代男性6 名)の随意性および自発性瞬目を動画像で撮影し,瞬目抽出および瞬目種類の識 別を行なった[38].被験者に計測開始直後から3秒間の開眼を続けてもらい,開眼 時の情報を取得する.その後に,瞬目計測の期間として180秒を設ける.この期 間中には,自発性瞬目を記録するとともに,ビープ音を5〜7秒間隔でランダムに 発生させて,随意性瞬目を促す.一般に自発性瞬目の発生頻度は15[47]〜20[58]回

/分(平均で約3〜4秒間隔)といわれ,随意性瞬目の合間に自発性瞬目が取得で きるよう,ビープ音の発生間隔は自発性瞬目の平均間隔より少し長めに設定した.

被験者には,このビープ音を聞いたときに随意性瞬目を「しっかり」と行なうよ う,事前に指示した.

3.5.3 瞬目自動抽出の結果

3.5.2項の実験から得た瞬目の動画像データから,瞬目時波形の自動抽出を行なっ

た結果を本項で述べる.自動抽出結果の評価のため,瞬目の検出率および抽出成 功率を求める.検出率Drおよび抽出成功率Crは,先行研究[89]を参考に次式よ り求める[38, 87].

Dr[%] = Ic(Pd+Fd) Ic

×100 (3.7)

Cr[%] = Ic−De

Ic ×100 (3.8)

式3.7および式3.8において,手動検出回数をIc,自動検出時の見落とし回数を Pd,誤検出回数をFd,手動と自動抽出で得られた瞬目時波形が不一致である回数 をDeとしている.ここで不一致である回数Deは,手動と自動抽出に12サンプル 以上の時間差があった瞬目回数であり,これには見落としの回数Pdおよび誤検出 の回数Fdが含まれている.なお,手動抽出の作業は実施者1名で行なった.この とき,瞬目の読み飛ばしなどの実施者によるヒューマンエラーを抑えるため,通 常の再生に加えてコマ送り再生を用いて各データにつき3回ずつの観察を行なっ た.その3回で観察結果がことなった場合には,該当する箇所を再度確認するこ とで正確性に配慮している.

式3.7および式3.8によって,検出率および抽出成功率を求めたところ,被験者 8名の平均でそれぞれ97.3%および94.8%であった.ここで抽出に成功した瞬目

のみを,3.5.4項の識別に用いる.

3.5.4 瞬目種類識別の結果

本項では,計測の初期に得た瞬目を用いて識別した結果を比較し,3.4.2項の式 3.6における代表値の決定に必要な瞬目の個数を決定する.各種類の瞬目について 持続時間の代表値を決定する方法として,(1)出現順に1〜5個の随意性および自 発性瞬目から求めた平均値を用いる方法,および(2)出現順に1〜5個の随意性

および自発性瞬目から求めた中央値を用いる方法により,それぞれのしきい値を 算出した.また,すべての場合について瞬目の開始から30秒間に得た瞬目を瞬目 種類識別のキャリブレーションの対象とし,残りの150秒間に生じた瞬目を識別 の対象とした.したがって,以下に述べる複数の結果は同一の瞬目データを処理 したものである.

92.5%

97.2%

98.0%

98.6% 98.6%

92.5%

97.2%

99.1% 98.6% 99.4%

90.0%

91.0%

92.0%

93.0%

94.0%

95.0%

96.0%

97.0%

98.0%

99.0%

100.0%

1 2 3 4 5

瞬目種類識別率

しきい値決定のための各瞬目データ数

(1)平均値 (2)中央値

M

図 3.11: 瞬目種類識別率の比較[38]

各キャリブレーションの方法に対する識別の結果を図3.11に示す.図3.11にお いて,横軸はしきい値の決定に用いた各種類の瞬目個数,縦軸は随意性瞬目と自発 性瞬目をあわせた識別率Ctである.本研究は随意性瞬目を識別して抽出すること を主目的とするが,自発性瞬目を誤って随意性瞬目として検出したときはエラー 処理が必要など,評価は自発性瞬目についても必要であり,随意性瞬目と自発性 瞬目をあわせた識別率を使用している.識別率Ctを求めるため,著者らは次式を 採用している[87].

Ct[%] = (Vc+Ivc)(Ev+Eiv)

(Vc+Ivc) ×100 (3.9)

式3.9において,随意性および自発性瞬目の回数をVcIvc,またそれぞれの識

瞬目種類識別のキャリブレーションに用いる瞬目の数が増加すると,識別率が向 上する傾向があることがわかる.ここで瞬目データを詳細に分析したところ,エ ラーの多い被験者では第1番目の随意性瞬目が短かい傾向にあった.本実験では,

3秒間の開眼期間の終了と同時に第1番目の随意性瞬目を求めているが,被験者が 開眼の指示のみを意識し,「しっかり」という指示の効果が十分に得られなかった ことが考えられる.平均値と比べ,中央値を代表値とした場合には,この種の異 常値を比較的少数のサンプル数で除去できるため,本実験データでは高い識別率 を得ていると考えられる.

図3.11から,各種類の瞬目について3個ずつの平均値または中央値を代表値と して求めた値で,識別率がほぼ飽和することが読みとれる.これらの条件のうち,

中央値を用いる方法を図3.11中に条件Mとして示した.この結果から,取得する 瞬目個数をあらかじめ定める場合には,個数を3個に設定することで,少数かつ 高精度な識別が可能になる.条件Mの識別結果の詳細を,表3.1に示す.

表 3.1: 検討データによる瞬目種類自動識別率(条件M)[38]

被験者 随意性瞬目(Cv)[] 自発性瞬目(Civ)[] 全体(Ct)[]

A 100 100 100

B 100 100 100

C 100 100 100

D 95.7 96.7 96.2

E 100 98.3 98.8

F 100 94.4 97.6

G 100 100 100

H 100 100 100

平均 99.5 98.7 99.1

表3.1において,随意性瞬目および自発性瞬目の識別率CvCivの算出に次式を

それぞれ用い,それらをあわせた識別率Ctの算出には前述の式3.9を用いた[87]. Cv[%] = Vc−Ev

Vc ×100 (3.10)

Civ[%] = Ivc−Eiv

Ivc

×100 (3.11)

式3.10および式3.11において,各変数は式3.9と同じである.随意性瞬目および 自発性瞬目の識別率はそれぞれ99.5%および98.7%であり,全体の識別率は99.1

%であった.

また,図3.11において,それぞれ3個ずつの瞬目を用いたときの平均値と中央 値とで識別率の差がもっとも大きく,本実験のデータでは中央値を用いたほうが8 名全体でよい識別率を得ている.そこで,3個ずつの瞬目を用いた場合に「平均値 よりも中央値のほうがよい」と仮説をたて,片側検定を行なった.その結果,平 均値と中央値を用いた場合の有意な差はみられなかった(P = 0.09> α= 0.05).

本実験では,対象の瞬目データに含まれる大きな異常値を取り除くことを期待し,

中央値を採用した.中央値の採用について,識別率の平均に差がみられるように 一定の効果はある.しかし,大きな異常値を生じた被験者は少数であり,全体と しては代表値の決定方法の違いによる識別率の差は大きいとは言えなかった.

本項の結果から明らかなように,随意性瞬目および自発性瞬目の代表値として,

平均値または中央値のいずれを用いた場合でも2種類の瞬目を適切に識別できる.

このとき,代表値の算出に用いる瞬目データの個数は,それぞれ3個ずつとすれ ばよい識別率を得られる[38].以上のことから,瞬目種類識別に用いる瞬目特徴パ ラメータについてキャリブレーションを行なう場合には,それぞれの瞬目データ の個数を3個ずつとすることを提案する.