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本研究の貢献と今後の課題

本研究では,自然光下の画像解析による視線入力システムを前提とした場合の,

入力決定法に関するいくつかの課題を解決した.そのほか,本研究で取り扱わな かった課題が残されている.表6.1に,これらの課題を示す.なお,表6.1には,

文献[28]を除き,自然光下の画像処理によって計測する手法の文献番号を示した.

先行研究における現状として,入力意図を示す随意性瞬目を自発性瞬目と識別 するため,被験者に一定以上の持続時間を指示している例が多かった[20, 30, 31]. これらの研究において,瞬目種類の識別のために設定する瞬目の持続時間のしき い値として,統計的または経験的に求めた固定値を用いており,個人差を考慮し ているものが見当たらなかった.そこで,本研究では,個人ごとに瞬目計測のキャ リブレーションを行なうことで実現した,個人差を考慮した瞬目種類識別法を採 用し,瞬目種類識別率の向上を図った.また,この瞬目計測のキャリブレーション の実用的な手順と要件が不明であるという課題があり,本論文では,比較的少数 の瞬目の取得によって完了する瞬目種類識別のためのキャリブレーション法の具 体的な方法を確立した.

そして,より効率的な瞬目による入力決定を実現するため,複数種類の随意性 瞬目の識別法の実現が課題であった.先行研究の現状では,通常の随意性瞬目に加 えて,長時間の瞬目[28],複数回の瞬目[23]およびウィンク(片眼の瞬目)[26, 88]

を用いる方法が提案されていた.本論文では,ユーザが主観的に実行できる随意 性瞬目として,「しっかり」と行なう瞬目と「しっかりとなるべく短く」行なう瞬

表 6.1: 視線入力の課題

本研究で解決した課題

課題 現状 本論文での解決策

瞬目による 持続時間を一定以上に指定し, 個人差を考慮した 入力決定法 個人差を考慮していない 随意性瞬目の識別による

[20, 30, 31] 精度の向上[38, 87]

瞬目計測の 入力システムに適した 瞬目種類識別のための

キャリブレー 手順と要件が不明であった[87] キャリブレーション法の確立[38]

ション法

複数種類の 長時間の瞬目[28]* 「しっかり」および「しっかりと 随意性瞬目 複数回の瞬目[23] なるべく短く」 行なう瞬目の

の識別 ウィンク[26, 88]を識別 2種を識別[41]

多くの被験者で検証した,視線 視線と瞬目を利用した入力 システム化 と瞬目による入力システムは システムを構築し,9名の 見当たらない(2名[17] 被験者での入力成功を確認 3名[20]の例にとどまっている) [43]

* 文献[28]は,赤外光を用いた計測装置を採用している.

本研究で取り扱わなかった課題

課題 本論文の状況

大きな頭部移動の 頭部移動が限定的であることを前提としており,

対処 上下左右に1cm程度を許容している.

入力効率および 単純なかな文字入力および標準的な漢字変換機能を利用し,

入力速度の向上 予測入力などの高効率化の工夫は含めていない.

効率的な訂正方法の 訂正のための機能(BackSpace)の機能を,制御用の機能の 確立 1つとして数回の選択入力によって呼び出す必要がある

目の2種類を採用し,自発性瞬目との識別法を開発した.

瞬目による入力決定のシステム化として,従来の自然光下の画像解析による視 線入力システムにおいては,多くの被験者によって動作を検証した例はみられな かった.そこで,本研究では,著者らの先行研究で開発した多指標選択型の視線 入力システムに瞬目計測および随意性瞬目(1種類)の識別処理を追加し,随意性 瞬目によって入力決定可能な日本語文字入力システム(提案システム)を開発し た.この提案システムの評価実験において,9名の被験者により漢字変換を含む文 字入力の実験を行なったところ,対象とした被験者全員が課題の入力を完了でき,

従来よりも多くの被験者が操作可能であることを確かめた.この提案システムの 利用者を対象にユーザビリティ評価を行ない,6.1節で述べた通り,著者らの先行 研究で開発した注視によって入力決定する視線入力システムよりも,随意性瞬目 による入力決定は操作時の負担が小さく,また,システムの全体的な使いやすさ はおおむね良いという結果を得た.これらの評価実験およびユーザビリティ評価 より,本研究によって,ユーザに比較的負担の少ない入力決定方式の視線文字入 力システムが開発できたといえる.

このほか,本論文で取り扱わなかったいくつかの課題がある.本研究で開発し た提案システムは,ALS患者などの重度肢体不自由者を対象とし,頭部移動が小 さいことを前提としている.著者らの従来法に含まれる目頭位置の追跡によって,

眼球の領域がビデオカメラの撮影範囲から外れない程度(上下左右1cm程度)の 頭部移動を許容している.提案システムを健常者が利用することを考えると,大 きな頭部移動に対処する必要がある.先行研究では,ヘッドマウント型のビデオ カメラを動画像入力に用いて,これを解決しているものもあるが,今後の研究で は,著者らが採用した視線入力環境の利点を考慮し,この環境に従った非接触の 条件を満足する頭部移動の対処方法を検討したい.

また,文字入力の方式や入力後の漢字変換の方式など,文字入力の高効率化お よび高速化についても課題が残されている.他の研究グループによる調査報告[78]

において,視線入力装置 の利用者を対象としたアンケートの結果,改善

点として「漢字変換をうまくできるようにしてほしい」という回答が挙げられて おり,単にかな文字が入力可能というだけではなく,漢字変換を行なう機能にも要 望があることがわかる.本研究では,1文字ずつ指定する通常のかな文字入力と,

Windows標準のIMEによる漢字変換機能による漢字変換の方法を採用している.

この入力操作において,システムがユーザの所望の単語や文節などを予測し,入 力候補を選択できるような予測入力の機能を利用できるようになれば,漢字変換 を含めてより高速かつ高効率な文字入力の実現が期待できる.今後はこのような,

予測入力が可能な入力方式の適用について検討したい.

そして,効率的な訂正方法についても課題が残されている.5章で行なった評価 実験において,文字を誤って入力した場合に訂正を行なうよう指示し,実際にそ のように操作を行なってもらった.6.1節に述べたユーザビリティ評価において,

この訂正の操作に関して「訂正の操作が短縮できるとよりよい」という意見を得 ている.したがって,訂正の操作を容易にできるような方法が確立できれば,こ うしたユーザの要望を満たすことができると考えられる.この具体的な実現方法 として,本論文の4章で述べた2種類の随意性瞬目の識別処理を提案システムに 適用し,2種類の随意性瞬目による入力意図のそれぞれに,通常の入力決定と訂正 の機能を割り当てるという方法が挙げられる.今後は,この2種類の随意性瞬目 を利用可能な視線入力システムを構築し,評価を行ないたい.

7 結論

本研究の目的は,ユーザの負担が少なく利用でき,主体的に操作できる視線入 力システムの開発である.視線入力にはさまざまな方式があり,高精度に視線計 測が可能なものも提案されている.その中で,著者らは市販のホームビデオカメ ラとパソコン上で動作するソフトウェアによって構成される,自然光下の画像解 析による視線入力システムをすでに開発していた.視線入力には,他に赤外光照 明を眼球に照射必要がある角膜反射法や強膜反射法,顔面に電極を装着する必要 があるEOG法などがあるが,これらの方法はユーザの身体的または心理的な負担 が懸念される.また,専用のセンサや計測のための専用のハードウェアが必要と なるため,導入する際に負担となる.著者らの開発していた,画像解析による視 線入力システムは,眼球近傍をビデオカメラによって撮影するだけで計測が可能 であり,視線計測のソフトウェア上においても画像処理のしきい値など複雑な設 定が不要であった.

この視線入力システムには,画面上に表示した指標を一定時間にわたって注視 する入力決定方式を採用していた.この注視判定に用いる停留時間のしきい値と して,経験的に決定したものを用いていた.この停留時間のしきい値は,大きく なると1選択あたりに要する時間の増大にともなって全体の入力時間が大きくな り,小さくすると1選択あたりに要する時間は短くなるが,入力意図のない視線の 到達によって誤選択を生じやすくなるというトレードオフの関係にある.この注 視による選択のために設定する持続時間のしきい値は,適切な唯一の値を設定す ることが難しい.これに代わる入力決定の方式として,意識的に行なう瞬目,つ まり随意性瞬目によって入力決定を行なう方式がある.随意性瞬目による入力が 実現すれば,入力決定の意図を動作によって示すため,入力決定の操作が主体的 に実行できる.

随意性瞬目による入力のためには,自然に生じる瞬目,すなわち自発性瞬目と の瞬目種類識別が必要となる.先行研究における画像解析を用いた瞬目種類の識