第 3 章 環と体
3.4 環の加法群、乗法群 ( 単数群 )
例 62 (環の例(多項式環)) Rを可換環とし、xを変数とする。
R[x] :={a0+a1x+a2x2+· · ·+akxk+· · ·+anxn|ak ∈R, n∈N}. をR係数の(1変数)多項式環といいます。
R[x]も通常の和と積によって、可換環となります。
例 63 (環の例(行列環)) Rを可換環とします。
M2(R) :=
{( a11 a12
a21 a22
) a11, a12, a21, a22∈R }
をR係数の(2次)行列環といいます。
M2(R)は通常の和と積によって環となりますが、可換環ではありません。
実際、R=Zとし、
A=
( 1 0 0 0
) , B=
( 0 1 0 0
)
∈M2(Z) とすると、
AB=
( 1 0 0 0
) ( 0 1 0 0
)
=
( 0 1 0 0
) .
BA=
( 0 1 0 0
) ( 1 0 0 0
)
=
( 0 0 0 0
) . となり、
AB̸=BA.
例 64 (環の例(Z/NZ)) Z/NZは環になります。
N = 6のとき、2∈Z/6Zには逆元が存在しません。
3.4 環の加法群、乗法群 ( 単数群 )
環には、二つの演算「加法」と「乗法」がありました。
それぞれの演算について群をなすような環の部分集合を考えてみよう。
定義27 (単数、環の加法群、乗法群) Rを可換環とする。
R全体は、定義より加法群でした。
それをRの加法群といい、R+で表します。
乗法逆元を持つRの元を単数(単元)といいます。
単数全体は乗法に関して群をなします。これをRの乗法群、あるいはRの単 数群(単元群)といい、R×で表します。
(注意) 加法群R+は、集合としてはRと同じものですが、乗法を忘れて加 法群としての構造だけを考えています。このため、R+をRと書く場合もあ りますが、加法群であることを強調するときにはR+を使います。
本によっては、乗法群をR∗で表していることもあります。
例 65 (体の加法群と乗法群) Fを体とすると、集合としてはF+=F. F×は、Fの単数全体なので、
ax= 1.
がFに解を持つようなa∈F全体になります。
Fは体なので、この方程式はa̸= 0の時に必ずFに解を持ちます。
よって、
F×={a∈F|a̸= 0}. となります。
例 66 (整数環の乗法群) 整数環の乗法群Z×は、Zの単数全体なので、
ax= 1.
がZに解を持つようなa∈Z全体になります。
|a|>1ならば|a||x|= 1より0<|x|<1なので、x̸∈Zとなり、a=±1の ときにしかZに解を持ちません。
よって、
Z×={±1}. となります。
例 67 (Z/pZの乗法群) pを素数とします。
(Z/pZ)×は、
a x= 1.
がZ/pZに解を持つようなa∈Z/pZ全体になります。
これを合同式で書き直すと、
ax≡1 (modp).
さらに、不定方程式に直すと、
ax+py= 1.
となります。
これが解を持つための必要十分条件は、
(a, p) = 1.
3.4. 環の加法群、乗法群(単数群) 87 pが素数なので、この条件は次のように書き換えられる。
a̸= 0.
よって、
(Z/pZ)×={a∈Z/pZ|a̸= 0}={1,2,· · · , p−1}. (注意) これより、pを素数とすると、Z/pZは体になります。
問題82 (Z/6Z)×を求めてください。
この結果から、Z/6Zが体にならないこと示してください。
例 68 (Z/pZの乗法群(Z/pZ)×) Z/7Zの乗法群(Z/7Z)×={1,2,3,4,5,6} の元3は,3×1 = 3, 3×2 = 6, 3×3 = 2, 3×4 = 5, 3×5 = 1, 3×6 = 4 より,
( 1 2 3 4 5 6 3 6 2 5 1 4
)
というS6の元に対応します.これを共通の 数字を含まない巡回置換の積で表すと,
( 1 2 3 4 5 6 3 6 2 5 1 4
)
= ( 1 3 2 6 4 5 ) となるので,全ての数字を含む巡回置換になります.
よって,(Z/7Z)×は3で生成される巡回群であることがわかります.
(Z/7Z)×=⟨3⟩.
実は,pが素数ならば,ある元a∈(Z/pZ)× を用いて (Z/pZ)×=⟨a⟩.
となります.
この事実が,(Z/pZ)×の扱いがとても簡単になる理由になります.
解説 (有限群と対称群) Gを位数nの有限群とします.任意の元a∈Gに よる積はGのある置換を与えます.
たとえば,例68だと,3∈(Z/7Z)×による積は,
( 1 2 3 4 5 6 3 6 2 5 1 4
)
∈ S6 という置換を与えるのでした.つまり,位数6の有限群(Z/7Z)×は,6次 対称群S6の部分群と思うことができるわけです.
このことから,n次対称群Snの部分群の分類や性質を調べることはとて も重要だとわかります.なぜなら,それにより位数nの有限群が全てわかる からです.