第 3 章 環と体
3.14 ラグランジュの定理
定義28 Gを有限群,H をGの部分群とします.
a,b∈GがH を法として同値とは,
∃h∈H s.t. b=ah.
を満たすことをいう.
H を法としてaと同値な元の全体をaHで表す.
aH :={x∈G|x=ah(∃h∈H)}. aHを(Hを法とした)aの類という.
問題90 3次対称群S3と,その部分群H ={13,(1 2 3),(1 3 2)} について,
Hを法とした類を全て求めて下さい.
補題10 Gを有限群,HをGの部分群とします.
a,b∈Gに対し,次のいずれかが成り立つ.
{aH =bH aH∩bH =∅. 証明
x∈bHが,x∈aHとなっていたとすると,bHの定義より,あるh∈Hが 存在してx=bhかつaHの定義より,あるh′∈Hが存在してx=ah′ とな ります.
よって,
bh=ah′.
Hは群なので,hの逆元h−1が存在する.これを両辺の右から掛けると,
bhh−1=b=ah′h−1
となります.H は群なので,h′h−1∈Hとなり,b∈aHとなるので,
bH=aHH=aH.
つまり,bHの元が一つでもaH に属すると,aH =bHとなるわけです.
逆に,aH ̸=bHとすると共通の元は一つもないことになり,aH∩bH =∅
がいえます. 2
補題11 Gを有限群,HをGの部分群とします.
任意のa∈GのHを法とした類aHの元の個数は,部分群Hの位数|H|と 一致する.
証明 写像
f : H −→aH h7−→ah
を考える.
h, h′∈Hとし,
ah=ah′ とする.
両辺の左からa−1を掛けると,
h=a−1ah=a−1ah′ =h′
3.14. ラグランジュの定理 97 となるので,f は単射になります.
また,任意のaHの元はahという形をしているので,
f(h) =ah
となり,fは全射になります.
よって,f は有限集合H,aHの全単射になるのでHとaHの元の個数は
一致する. 2
解説 有限集合を類別すればいつでも類の元の個数はいつでも一致するよう に思えますが,それは正しくありません.
この補題は,部分群で類別しているから言えるとても特殊な性質です.
定理6 (ラグランジュの定理) Gを有限群,H をGの部分群とします.
(G:H)をGをHで類別したときの異なる類の総数とすると,次の等式が成 り立ちます.
|G|=|H|(G:H).
証明
a1H, a2H,· · · , a(g:H)H
を異なる全ての類とします.すると,任意のGの元はどこかの類に必ず属し ます.さらに,どの二つも共通部分がありません.よって,aiH∩ajH =∅, (i̸=j),
G=a1H∪a2H∪ · · · ∪a(g:H)H.
となることと,任意のaiHの元の個数が|H|であることより,
|G|=|H|(G:H).
がいえます. 2
系 1 Gを有限群,H をGの部分群とします.
このとき,Hの位数|H|は,Gの位数|G|を割り切る.
証明
定理の等式より,|H|は|G|の約数になっている. 2 問題91 Gを有限群,任意のa∈Gについてaの位数をfとしたとき次の 等式が成り立つことを示してください.ただし,eはGの単位元
af =e.
命題1 Gを有限群とする.任意のa∈Gについて,次の等式が成り立つ.
a|G|=e.
証明
Gを有限群,任意のa∈Gで生成される部分群⟨a⟩を考えると,系から|⟨a⟩|
は|G|の約数となるので,aの位数は,|G|の約数.
よって,ある自然数が存在して,
|G|=k|⟨a⟩|. よって,
a|G|=ak|⟨a⟩| = (
a|⟨a⟩|
)k
=ek=e.
となる. 2
定理2 (フェルマーの小定理) pを素数とする.G= (Z/pZ)×とすれば,任 意のa∈Gについて,
ap−1= 1.
証明
(Z/pZ)×の位数はp−1なので命題より明らか.