第 3 章 環と体
3.20 対称式の基本対称式による表示アルゴリズム の解説
問題98 変数x,y,zに関する基本対称式σ1,σ2,σ3をx,y,zを用いて表し てください.
問題99 変数x,y, zに関する次の対称式を,基本対称式σ1, σ2,σ3を用い て表してください.
(i). x2+y2+z2
(ii). x2y+y2z+z2x+x2z+y2x+z2y (iii). (x−y)2+ (y−z)2+ (z−x)2
3.20 対称式の基本対称式による表示アルゴリズム
3.20. 対称式の基本対称式による表示アルゴリズムの解説 109
解説 3変数の対称式f(x, y, z) =x3+y3+z3を基本対称式
σ1=x+y+z σ2=xy+xz+yz σ3=xyz
の和と積で表す手順を解説します.f(x, y, z)は3次式なので,σ1,σ2,σ3の 3次式で表せます(命題3).
σ1,σ2,σ3は,それぞれ1次式,2次式,3次式なので,これらの積で作ら れる3次式は3の分割数だけあります.
具体的には
• 1 + 1 + 1に対応するσ13
• 1 + 2に対応するσ1σ2
• 3に対応するσ3
よって,ある定数a,b,cが存在して次の恒等式が成り立ちます.
f(x, y, z) =x3+y3+z3=aσ13+bσ1σ2+cσ3
[素朴で手間のかかる方法]
素直に計算するには,aσ31+bσ1σ2+cσ3 を展開してx,y,zについて整理し,
左辺の係数と比較すればa,b,cの連立方程式が得られ,a,b,cが求まります.
x3+y3+z3
=aσ13+bσ1σ2+cσ3
=a(x+y+z)3+b(x+y+z)(xy+xz+yz) +cxyz
=a(x3+y3+z3+ 3x2y+ 3x2z+ 3y2z+ 3xy2+ 3xz2+ 3yz2+ 6xyz) +b(x2y+x2z+y2z+xy2+xz2+yz2+ 3xyz)
+cxyz
=a(x3+y3+z3)
+ (3a+b)(x2y+x2z+y2z+xy2+xz2+yz2) + (6a+ 3b+c)xyz
よって係数を比較すると,
a= 1 3a+b= 0 6a+ 3b+c= 0 が得られます.
これを解くと,
a= 1 b=−3 c= 3 よって,
x3+y3+z3=σ13−3σ1σ2+ 3σ3
[計算の手間が少ない方法] 恒等式
x3+y3+z3=aσ13+bσ1σ2+cσ3
はx,y, z にどんな値を代入しても成り立つので,上手に値を選んでa,b, c の関係式を求めることができます.
このとき,σ1,σ2,σ3の値のいくつかが0になるx,y,zの値を選ぶとより 簡単です.
•(x, y, z) = (1,0,0). (σ2=σ3= 0になる)
σ1=x+y+z= 1 + 0 + 0 = 1
σ2=xy+xz+yz= 1×0 + 1×0 + 0×0 = 0 σ3=xyz= 1×0×0 = 0
f(1,0,0) = 13+ 03+ 03= 1
(aσ13+bσ1σ2+cσ3)(1,0,0) =a×13+b×0×0 +c×0 =a よって,a= 1
•(x, y, z) = (1,1,0). (σ3= 0になる)
σ1= 1 + 1 + 0 = 2
σ2= 1×1 + 1×0 + 0×0 = 1 σ3= 1×1×0 = 0
f(1,1,0) = 13+ 13+ 03= 2
a= 1は求まっているので,次が成り立つ.
(σ13+bσ1σ2+cσ3)(1,1,0) = 23+b×2×1 +c×0 = 8 + 2b よって,8 + 2b= 2なので,b=−3.
3.20. 対称式の基本対称式による表示アルゴリズムの解説 111
•(x, y, z) = (1,1,−1). (σ1, σ2, σ3が0でない小さい値になる)
σ1= 1 + 1−1 = 1
σ2= 1×1 + 1×(−1) + 1×(−1) =−1 σ3= 1×1×(−1) =−1
f(1,1,−1) = 13+ 13+ (−1)3= 1
a= 1, b=−3は求まっているので,次が成り立つ.
(σ31−3σ1σ2+cσ3)(1,1,−1) = 13−3×(−1)×1 +c×(−1) = 4−c よって,4−c= 1なので,c= 3.
よって,
x3+y3+z3=σ13−3σ1σ2+ 3σ3.
(注意) x,y,zの値は自由に選べますが,基本対称式σ1,σ2,σ3の値がより 多く0になったり,小さい値になるようにすると計算が楽になります.
2016.12.19,代数学序論(情報数理学科) 担当:志村真帆呂 http://www.ss.u-tokai.ac.jp/~mahoro/2016Autumn/alg_intro/
3.20.1 問題
問題100 σ1=x+y,σ2=xyとする.以下の対称式をσ1とσ2と定数の積 と和で表してください.
(i). x4+y4 (ii). x5+y5
3.20.2 2 次方程式が解ける理由
例 84 2次方程式が解ける理由は,対称式の理論からわかります.
まず,α,βを変数とする連立1次方程式 {α+β =A
α−β =B
の解は,次のようになります.
α= A+B 2 β =A−B
2 2次方程式
x2+bx+c= 0
の解をα,βとすると,α+β =−aですが,α−βの値がわかりません.ま た,α−βは対称式ではないので,a,bの多項式では表せません.
しかし,この式を2乗した式 (α−β)2
は,対称式なので
(α−β)2= (α+β)2−4αβ=b2−4c となります.
3.20. 対称式の基本対称式による表示アルゴリズムの解説 113 平方根は使ってよいので,この値から
α−β =±√ b2−4c となり,方程式が解けました.
α, β= −b±√ b2−4c 2
上手くいった理由は,αとβの1次結合で2乗したら対称式(α−β)2になる 式α−βが見つかったというものです.
3.20.3 交代式
これは,3次方程式の解が見つかる理由のところで使います.
交代式
定義33 (交代式) n変数の多項式f(x1, x2,· · ·, xn)が交代式であると は,任意のi̸=jに対して,次の等式が成り立つこと.
f(x1, x2,· · · ,
i
ˆ xj,· · ·,
j
ˆ
xi,· · · , xn) =−f(x1, x2,· · ·, xn).
例 85 (交代式の具体例) 2変数の交代式 x1−x2
3変数の交代式 (x1−x2)(x1−x3)(x2−x3) n変数の交代式 ∏
i<j
(xi−xj)
(注意) これらの式は,基本交代式と呼ばれている.
補題12 全ての交代式は,
(基本交代式)×(対称式) という形で表せる.
問題101 (ファンデルモンドの行列式) 以下の行列式が交代式であることを 示し,
(基本交代式)×(対称式) という形で表してください.
1 1 · · · 1 a1 a2 · · · an
a21 a22 · · · a2n ... ... ... ... an1−1 an2−1 · · · ann−1
問題102 ω2+ω+ 1 = 0のとき,
(x1+ωx2+ω2x3)3+ (x2+ωx1+ω2x3)3
が対称式であることを示し,基本対称式を用いて表してください.
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