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なぜ,カルダノの解法がうまくいったのか

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第 4 章 3 次方程式の解法

4.10 なぜ,カルダノの解法がうまくいったのか

x3+px+q= 0.

4.10. なぜ,カルダノの解法がうまくいったのか 127 の根をx1,x2,x3 とします.

解と係数の関係から,次の等式が得られます.



x1+x2+x3= 0, x1x2+x2x3+x1x3=p, x1x2x3=−q.

左辺は基本対称式であることに注意しましょう.

次に,

x1+ωx2+ω2x3

という値を考えます.ただし,ω3= 1, ω̸= 1. つまり,ω2+ω+ 1 = 0.

解説 任意のσ∈Snについて

fσ(x1, x2,· · ·, xn) =f(x1, x2,· · ·, xn)

が成り立つとき,f(x1, x2,· · ·, xn)は対称式になります.

また,この式が成立するかどうかを調べるには全てのSnの元について計 算する必要はなく,Snの生成元について調べれば十分です.

たとえば,S3=(1 2), (1 2 3)なので,

{f(1 2)(x1, x2, x3) =f(x2, x1, x3) =f(x1, x2, x3), f(1 2 3)(x1, x2, x3) =f(x2, x3, x1) =f(x1, x2, x3).

の二つが成り立てばf(x1, x2, x3)は対称式となります.

(1 2)(x1+ωx2+ω2x3) =x2+ωx1+ω2x3 なので,この式は対称式ではありません.

(1 2 3)(x1+ωx2+ω2x3) =x2+ωx3+ω2x1=ω2(x1+ωx2+ω2x3) なので,これからも対称式ではないことがわかりますが,(1 2 3)がω2倍に なるのが面白いところです.

このことを踏まえると,ω3= 1であることから

(1 2 3)(x1+ωx2+ω2x3)3=ω6(x1+ωx22x3)3= (x1+ωx22x3)3 となります.

よって,

(x1+ωx2+ω2x3)3+ (x2+ωx1+ω2x3)3

と,

(x1+ωx2+ω2x3)3(x2+ωx1+ω2x3)3

は,対称式になります.(1 2 3)で式が変らない(不変といいます)ことは既に 示した通り.(1 2)で不変なのは,(x1+ωx2+ω2x3)3と(x2+ωx1+ω2x3)3 交換されるだけなので全体として変わらないからです.

対称式は基本対称式を用いて表せるので,この二つの式は元の方程式の係 数を用いて表せます.

よって,

(x1+ωx2+ω2x3)3, (x2+ωx1+ω2x3)3 を二つの解とする2次方程式

T2+kT+l= 0.

が得られます.係数 のk,llは元の3次方程式の係数を用いて得られます.

これを解くと,次の値が求まります.

x1+ωx2+ω2x3, x2+ωx1+ω2x3. この値が求まると,

1 3

((x1+x2+x3) + (x1+ωx2+ω2x3) +ω2(x2+ωx1+ω2x3))

=x1+1

3(1 +ω+ω2)(x2+x3)

=x1. 1 3

((x1+x2+x3) +ω2(x1+ωx2+ω2x3) +ω(x2+ωx1+ω2x3))

=x2+1

3(1 +ω+ω2)(x1+x3)

=x2. 1 3

((x1+x2+x3) +ω(x1+ωx2+ω2x3) +ω(x2+ωx1+ω2x3))

=x3+1

3(1 +ω+ω2)(x1+x2)

=x3.

となり,元の3次方程式の根が全て得られました.

解説 つまり,

(x1+ωx2+ω2x3)3

4.11. まとめ 129 がS3の作用で二つの値しか取らなかったので,その値を求めるのに2次方 程式を解けば済んだのが成功の理由です.

また,その二つの値の和と積が対称式になっていることからその2次方程 式の係数が元の3次方程式の係数で表せるのもポイントです.

解説 5次方程式の中に加減乗除とベキ根だけでは解けないものがあるのは 次のように説明できます.ここでζ5= 1,ζ̸= 1とします.

5次方程式の根をx1,x2,x3,x4,x5 とすると,

(x1+ζx2+ζ2x3+ζ3x4+ζ4x5)5S5の作用で24個の値を取ります.

つまり,補助方程式が24次方程式になってしまいます.このため, この 方法では5次方程式は解けません.他の式を調べても,6次の補助方程式ま でにはなりますが5次より小さいものは見つかりません.

ここで行っていることは,Snの作用でなるべく値が変らない式を求めると いう作業です.つまり多項式のSnによる対称性を調べているというわけで す.こんなところにも,対称性を群を用いて調べるというアイデアが出てき ます.

残念ながら,他のどんな方法でも加減乗除とベキ根だけでは解けないこと がわかりますが,それにはS5の部分群A5が可解群でないという群論の事実 を用います.

それがガロア理論と呼ばれる現代数学の基礎となる理論です.ガロア理論 を用いると,与えられたn次方程式が加減乗除とベキ根だけで解けるかどう かまで判定できます.

4.11 まとめ

3次方程式

x3+ax2+bx+c= 0

の解をx=x1,x2,x3とすると,基本対称式の値がa,b,cを用いて与えられ ていることになる.

3次方程式を解くとは,基本対称式の値だけから加減乗除とベキ乗根を 用いてx1,x2,x3の値を求めること.

基本対称式を加減乗除で組み合わせても,対称式にしかならない.

1次の基本対称式以外で,いくつか値がわかるx1,x2,x3の1次結合が あれば連立1次方程式を解くことでx1,x2,x3を求められる.

ベキ乗で,S3の作用によって2つの値しか取らないものがあれば,そ れを根とする2次方程式の係数は対称式で表せる.それが次の式

(x1+ωx2+ω2x3)3

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