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現状と課題

ドキュメント内 太平洋沿岸におけるうねりに関する研究 (ページ 89-99)

5.1 うねりを考慮した設計波算定

5.1.1 現状と課題

第1章で述べたように,2010年代の前半までは,港湾構造物の設計にうねりは実質的に 考慮されてこなかった.近年,うねりによる港湾施設の被災が相次ぎ,うねりの考慮の必 要性が高まったため,2015年に国内で初めてうねりを考慮した設計波が鹿島港・茨城港で 設定された(高嶋ら(2015)1).しかし,うねりを考慮した設計波の設定実績は少なく,そ の手法の課題や留意点が明らかになっていない.そこで,うねり設計波の設定法の手順を 整理し,うねりの出現頻度が高い鹿島港を例に設計波の試設定を行って,うねり設計波の 設定における留意点をまとめた.

ここで,平山ら(2015) 2の提案に従い,うねりは「波形勾配が0.025未満かつ周期が8秒以 上」とし,それ以外の波を風波とした.年最大波高を発生させる擾乱を抽出し,極値統計 解析を行い算定する設計波については,うねりと風波を分離せずに算定する従来の設計波 を従来設計波,うねりのみから算出したものをうねり設計波,風波のみから算出したもの を風波設計波と定義した.

(1) 算定方法の手順の整理

予め,我が国沿岸のうねりの発生状況を調査し,うねりの設計波が必要と考えられる海 域を整理した.

図 5-1は,全国港湾(観測期間が30年以上のNOWPHAS地点)におけるうねりの出現頻 度を整理した結果である.ここで,うねりの出現頻度は,NOWPHAS年報における高波抽 出基準上限値以上の波高を観測した時間(偶数時)を対象として,平山ら(2015)の提案に 従いうねりと判断されたデータの占有率 (%) として算出した.太平洋側の港湾では,高波 高時のうねりの出現頻度は概ね30%以上であり,日本海側に比べてうねりの出現頻度が高 いことがわかる.特に,東北から北関東までの太平洋側沿岸の地点及び志布志港ではうね りの出現頻度が60%を超えている.この結果から,太平洋側の港湾では,うねりを考慮し た設計波検討の必要性が高いと言える.

図 5-2は,太平洋側の鹿島港と日本海側の酒田港の波高と周期の関係図である.水色破

線の内側がうねりと定義されるデータである.鹿島港は,酒田港と比較して高波浪のうね

りの発生回数が非常に多いことがこの図からも良くわかる.

図 5-1 高波高時(高波抽出基準以上)のうねりの出現頻度

(棒グラフ:出現頻度(%),折れ線グラフ:出現回数)

(a) 鹿島港(1972~2015年) (b)酒田港(1970~2015年)

図 5-2 波高と周期の関係(波浪観測値)

図 5-3に,うねりと風波を区別した設計波の設定の流れを示す.ここでは,設計波を算 定する際に用いる極大値資料は観測値を用いて作成することを基本とし,機器故障や高波 時の砕波により欠測である場合は波浪推算値で補完する方法を採用しているが,図中の緑 破線枠内の処理を除外すれば,波浪推算値のみで極大値資料を作成する方法にも適用でき る.

以下,設定の流れの中の処理について詳述する.

① 対象擾乱の選定

まず,対象擾乱を選定する.従来設計波の設定では,単に波高の大きい極大値のみに着 目すればよいが,うねりを考慮した設計波の設定の場合には,うねり波高が最大となる擾 乱を選定する必要がある.

②沿岸係数の作成

次に,波浪観測地点の観測値(波高,周期,波向)を沖波位置に換算して観測値による 沖波極大値を得るために沖波と波浪観測地点とを関係づけるための沿岸係数を算定する 必要がある.この沿岸係数は,波浪推算から得られた沖波推算値を波浪観測地点に換算し て波浪推算から得られた波高と周期を観測値で補正するためにも使用する.沿岸係数は,

エネルギー平衡方程式を用いた波浪変形計算の結果を用いるが,うねりを考慮した幅広い 周期帯に対して評価する必要がある.

③ 波浪推算

観測値が得られていない場合は,波浪推算を行う.推算にあたっては,うねりを精度良 く推算できるように適切な海上風や波浪推算モデルの選定と計算条件の設定を行う必要 がある.海上風は,近年,高精度・高解像度の風のGPVデータが公開されていることから,

従来波浪推算で用いられてきた傾度風モデルや台風モデルに加え,GPVデータの利用につ いても検討することが望ましい.

④ 極大値資料の作成

沖波位置における極大値資料は,沖出しした観測データと補正済みの波浪推算データ

(沖波)の時系列データを用いて作成する.その際,波形勾配と周期によりうねりと風波 に分類し,「うねり」,「風波」,両者を区別しない「従来」の極大値資料をそれぞれ作成す る.例えば,図 5-4の事例の場合,対象期間の時系列のデータのうち,「風波」の極大値は 風波に定義されるデータの最大値(オレンジの丸印の時刻の波高),「うねり」の極大値は うねりに定義されるデータの最大値(緑の丸印の時刻の波高),「従来」の極大値は全デー

タの最大値(緑の丸印の時刻の波高)となる.最後に,極大値資料から波高と周期の関係 を評価し,再現期間に対応した確率波高に対する周期を算定する.算定方法は,(2) うね りを考慮した設計波の設定上の留意点の③で詳述する.

図 5-3 設計波算定の流れ 事例別波向別

最大値の抽出

波浪観測データ

(時系列データ)

H0/L0 < 0.025 かつ T ≧ 8s

NO YES

風波 うねり性波浪

風波の 波向別極大値資料

うねり性波浪の 波向別極大値資料

事例別波向別 最大値の抽出 沿岸係数の

作成 沿岸係数

観測値を 沖での値に換算

事例別波向別 最大値の抽出 沖出しした観測データ

従来の 波向別極大値資料 極値統計

(うねり性波浪)

極値統計

(風波)

極値統計

(従来)

波浪推算データを観測地点相当 に換算

波浪推算データ

(沖波)

波浪推算データの検証・補正

(風波・うねり性波浪別)

波浪推算データ

(観測地点)

補正済み 波浪推算データ

各対象事例時系列データ (沖波)

各対象事例

最大値

波浪推算

風波の設計波

うねり性波浪の

設計波 従来の設計波 対象擾乱選定

海上風データ作成

海上風データ

① ③波浪推算

④極大値資料の作成

図 5-4 うねりと風波を区別した極大値の抽出例

*うねりの極大値は,風波の極大値は,従来の極大値はの時刻の波高

(2) うねりを考慮した設計波の設定上の留意点

① うねりをもたらす気象擾乱の選定

設計波の算定に用いる極大値資料の作成において,観測値が欠測である場合は,天気図 や台風経路図を参考に主要な擾乱を選定する.このとき,対象港湾の周辺で気象場が静穏 であっても,遠方で発生したうねりが伝搬して来ることがあり,擾乱の選定においては注 意を要する.うねり設計波の設定に際しては,うねりの波高が年最大となる擾乱を適切に 選定することが重要である.

鹿島港の場合,1986年~2015年の30年間で,年最大のうねりをもたらした27事例(3年分 は欠測のため抽出なし)のうち,台風は10事例,低気圧は17事例であった.図 5-5は抽出 された全擾乱のうち台風である場合の台風経路図(全23擾乱)である.図中の赤線は,年 最大のうねりをもたらした台風経路であり,黒線はそれ以外の台風事例の経路である.鹿 島港の場合,図 5-5の水色破線で囲んだ海域を中心気圧が970 hPa以下で通過する台風や,

図 5-6のように東方海上に低気圧があって鹿島港に向かう風が吹き続ける気圧配置の事 例を,対象擾乱として追加する必要がある.

以上は鹿島港の例であるが,うねりをもたらす気象状況は海域や港湾の位置により異な ることから,各港湾においてうねりが発生する気象状況を把握し,顕著なうねりの事例を 確実に選定できるように留意すべきである.

② 波浪推算によるうねりの再現性 a) 波浪推算モデル

極大値資料の作成にあたって波浪推算の結果を用いる場合は,うねりに着目した精度の 確認が必要である.うねりは遠方から伝搬してくるため,うねりの発生から対象港に到達 するまでの広範囲かつ長期間の計算を行う必要があることを考慮し計算を設定しなけれ ばならない.また,我が国においては,設計波算定のための波浪推算は沖波を求めること

図 5-5 鹿島港に顕著なうねりをもたらした台風の経路

(赤線:年最大のうねり, 黒線:左記以外の高波浪事例)

図 5-6 鹿島港に顕著なうねりをもたらす気圧配置

●:うねりピーク時

◆ :うねり観測開始時

鹿島港

風が吹く方向

鹿島港

を目的とするため,外洋に面した港湾を対象とする場合は深海条件で計算されることが多

いが,4.2.2項の鹿島港の例のように,うねりの推算には海底地形による波浪変形の考慮が

特に重要となる.このため,沖波を推算目的とする場合であっても,うねりの到達までに 海底地形の影響を受けるときは,水深を考慮した浅海条件で波浪推算を実施すべきである.

b) 観測値による推算値の補正

うねりと風波の推算精度が異なることがあるため,補正式はうねりと風波とに分けて評 価することが必要である.また,設計波を算定するための極値統計期間は長期間にわたる ため,事例によって特性の異なる入力風を使用せざるを得ない場合がある.入力風が事例 によって異なりその推算傾向に差異が認められる場合は,入力風別に補正式を作成した方 が良い.

③ うねり設計波に対する周期の評価

極大値資料を用いて設定した沖波確率波高に対応する周期の評価は,一般に,波向別に 整理した極大値資料の波高と周期の関係を用いて行う.この際,うねりについては,うね りのみを分離した極大値資料に基づき周期を評価する.

図 5-7に,ENE方向の波向を対象とした周期と波高の関係を,「従来」,「うねり」,「風 波」に分けて,波形勾配(=H/1.56T2)の関係から評価した例を示す.図中の赤線は周期の 2 乗は波高に比例すると仮定した場合の近似線である.波形勾配は,従来設計波では約

0.028であり,定義に照らし合わせると風波(波形勾配0.025以上)に近い波形勾配である.

風波設計波では約0.037,うねり設計波では約0.020である.例えば,うねりの沖波確率波 高が10mである場合,従来設計波の波形勾配0.028を用いると周期は15.1秒,うねり設計 波の波形勾配0.020を用いると17.9秒となり,従来設計波の波形勾配を用いるとうねり設 計波の周期を過小評価することになる.このように,周期についても「従来」,「うねり」,

「風波」に分けて評価することで,うねり設計波の周期を適切に評価できる.

④ うねりと風波を区別した設計波の適用

(1)の方法に基づき算定したうねりと風波を区別した設計波の算定結果を図 5-8に示す.

例えば波向Eにおいて従来設計波の代わりに風波設計波やうねり設計波を用いると,風波 設計波では波高はあまり変わらないものの周期が約1秒短くなる.うねり設計波では波高 が従来設計波に比べて約3 m低くなり,周期は約0.5秒程度長くなる.波向Eの場合は,

従来の方法から風波設計波とうねり設計波に分けた方法に変更した場合,防波堤の波力や 防潮堤の越波流量を従来設計波より小さく評価してしまう可能性がある.

一方,波向ESEでは,従来設計波とうねり設計波で,波高はほぼ同じであるが,周期は うねり設計波の方が約2秒長くなる.この場合,従来設計波を用いると,防波堤に設計以上

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