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本章では,本研究の主な内容と今後の展望についてまとめた.

6.1 各章の要旨

第1章では,本研究の背景を概説し,研究方針と論文の構成を示した.

第2章では,観測データと波浪推算結果の両面から,太平洋沿岸のうねりの出現特性の 把握を試みた.従来,波浪の統計解析に用いられている有義波等の代表波では多峰性を持 つ波浪の特性を十分に表現できない.そこで本研究では,観測値及び推算値の方向スペク

トルをpartitioningにより特性が異なる複数の波浪に分割し,個々の波浪諸元(以下,成分

波浪と呼ぶ)を算出して波浪特性の解析に用いた.partitioningは,Watershedアルゴリズム

を用いたTracy et al.(2007) 1 の方法を採用した.

2017年1年間のNOWPHAS観測値解析の結果,東北から北関東にかけての太平洋側で

は多峰性の波浪が出現しやすく,北東~南東の波向の多様な性質のうねりが到達している ことが確認された.同期間の波浪推算結果からは,減衰距離が短いうねりは東~南東の波 向の発生頻度が高く,減衰距離が長いうねりは東北東~北東の波向の波が卓越しているこ とがわかった.これは,減衰距離が短いうねりは,日本の南方から東方に位置する台風か らのうねりや南岸低気圧の通過に伴い発生するうねりが多く,長いうねりはアリューシャ ン近海等北太平洋の北部で発達した低気圧によるものが多いことによるものと考えられ る.

第3章では,発生源の推定が難しい遠方からのうねりに着目し,Wave system trackingを 用いて発生源を解析し本手法の有用性を示した.この方法は成分波浪を入力として対象格 子と隣接格子の諸元の差を定量化したGoF(Goodness of Fit)を計算し,GoFが最小となる

Wave system(発生源を同じとする波のグループ)を対象格子に割り当てて時空間的に追跡

するものである.

解析の結果,貿易風帯や南太平洋から波高は低いものの周期が長いうねりが伝搬してい る様子が確認された.このようなWave system trackingを用いたうねりの発生域の特定や伝 搬過程の解析は,①波浪推算の効率的で適切な領域設定,②特定された発生域や伝搬ルー トを監視することによるうねり到達の予測,③発生・伝搬の各過程の解析による推算精度 向上のための検討等に有用であると考えられ,今後の活用が期待される.

第4章では,うねりの波浪推算における課題について整理し推算精度向上に向けた検討 を行った.鹿島港特有の周期の長いうねりは,犬吠埼沖の浅瀬の影響によるものであるこ とが波浪推算により示され,うねりの推算における波浪変形の重要性が再認識された.ま

た,波浪推算の条件のうち,非線形相互作用の項と方向分割数を変えて波浪推算を行い,

観測値と推算値の成分波浪を用いて比較検証した.その結果,非線形相互作用を高度化す ると若干ではあるがうねりの過大評価が改善されることがわかった.方向分割数を増やし 解像度を高くした場合は,推算精度は改善されなかったが,浅海域での屈折率が変わるこ とにより収束域の位置や収束の強さが変わること,それは波浪推算の空間解像度にも依存 することがわかった.

第5章では,港湾管理におけるうねりの考慮として,設計波算定と波浪予測をテーマに 現状と課題を整理し解決に向けた考察を行った.

設計波算定については,うねり設計波の算定手順を整理し,設定上の留意点を取りまと めた.鹿島港の設定例を参考に,①年最大のうねりを発生させる対象擾乱の適切な選定,

②うねりの波浪推算に適した波浪推算モデルと計算条件の設定や補正方法,③周期の評価 方法,④算定したうねり設計波の適用,⑤うねりと風波を区別する波形勾配の閾値の影響 について留意点を論じた.さらに,より安全側の設定をするために方向スペクトルや成分 波浪を活用する改善案を示した.

うねりの予測に関しては,既存のうねり予測システムを紹介し,港湾管理者向けのうね り予測情報の在り方について論じ,今後の方向性について言及した.

以上のように,本研究では,太平洋沿岸に到達するうねりの特性把握や推算精度向上に 資する幾つかの知見を示した.また,Wave system trackingやpartitioningを活用した検討等,

今後の港湾におけるうねりの適切な情報に向けた検討の一つの方向性を示すことができ たと考える.

6.2 今後の展望

6.2.1うねりの出現特性について

将来的には,地球温暖化による台風経路の変化や台風強大化,グローバルなレベルでの 気候変動の可能性が指摘されている.それに伴いうねりの発生状況も変化する可能性があ る.本研究では2017 年1 年間を対象に解析を行ったのみで統計期間が短く,随時解析を 追加して信頼性を向上させるとともに,うねりの出現特性の変化にも留意するべきである と考える.

また,本研究では,partitioning の方法として Watershed アルゴリズムを用いた Tracy et

al.(2007) 1) の方法を採用したが,この方法は図 2-8の左図で示したように適切に分離でき

ない場合がある.藤木ら(2018) 2)は,混合分布モデルを用いたpartitioningの方法を提案して

おり,Watershedアルゴリズムと同等以上の精度が得られたと報告している.また,方向ス

ペクトルのデータマイニングの方法としては,ニューラルネットワークのひとつである SOM(自 己 組 織 化 マ ッ プ,Self-Organizing Map)を 利 用 し た 方 法 も 提 案 さ れ て い る (Jesús Portilla-Yandún et al.(2019)3). より正確で利便性の高い指標の検討が今後の課題の一つ である.

6.2.2 うねりの発生源解析について

Wave system trackingを用いたうねりの発生域の特定や伝搬過程の解析は,①波浪推算の

効率的で適切な領域設定,②特定された発生域や伝搬ルートを監視することによるうねり 到達の予測,③発生・伝搬の各過程の解析による推算精度向上のための検討等に有用であ ると考えられ,今後の活用が期待される.

また,本研究においては2事例の解析に留まったが,さらに多様な事例を解析することで 新たな知見が得られる可能性がある.

6.2.3うねりの推算精度向上について

現状ではうねりの推算精度は十分とはいえず,うねりが海洋構造物の設計や海洋での活 動に与える影響の重要性を勘案すると,さらなる精度の向上が求められる.波浪推算モデ ルの改良や適切な計算条件の検討による高精度化を進めるとともに,成分波浪レベルでの 客観解析による補正を検討することも推算の精度向上に有効であると考える.

6.2.4 港湾におけるうねりの情報利活用について

2019年9月に東京湾を縦断した台風1915号は,関東地方に甚大な被害をもたらした.東京 湾沿岸,特に横浜港では,浸水やパラペット損壊などの大きな被災があり,その原因は風 波の2方向性波浪である可能性が指摘されている(高橋ら(2020)4).有義波等の従来の指標 では,このような複数の波浪が重合する場合の波浪変形による波浪の増大・減衰が正確に 計算できず,それゆえ港湾構造物にかかる波力も正確に見積もれない可能性がある.した がって,既往最大に対する安全性を担保すべき重要な構造物の設計や沿岸防災にかかわる 波浪予測においては,従来の指標に加え,成分波浪を用いた検討や予測計算も行う必要が ある.

参考文献

1)Tracy, B.,Devaliere,E.,Hanson,J.,Nicolini,T.and,Tolman,H. (2007):Wind Sea and Swell Delineation for Numerical Wave Modeling.,10th international workshop on wave hindcasting,forecasting and coastal hazards symposium.,15pp.

2)藤木峻,森信人,川口浩二,末廣文一(2018):混合分布モデルを用いた波浪方向スペクトル Partitioning に関する研究,土木学会論文集 B2(海岸工学),Vol.74,No.2,pp.I_103-I.108. 3)Jesús Portilla-Yandún,Francesco Barbariol,Alvise Benetazzo,Luigi Cavaleri(2019):On the statistical analysis

of ocean wave directional spectra, Ocean Engineering,Vol.189 .

4)高橋康弘,高山知司,遠藤敏雄,鈴木善光,浜口正志,松藤絵理子,石本健治,原信彦(2020):

東京湾における台風1915号による波浪スペクトル特性と対策施設整備の留意点,土木学会

論文集B2(海岸工学),vol.76,No.2(投稿中).

ドキュメント内 太平洋沿岸におけるうねりに関する研究 (ページ 103-107)

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