• 検索結果がありません。

波浪推算によるうねりの発生源解析

ドキュメント内 太平洋沿岸におけるうねりに関する研究 (ページ 54-65)

減衰距離が短いうねりは,その発生源が近く現象の発現期間が短いため,距離的にも時 間的にも追跡しやすい.このため,天気図を確認する等で発生源を特定することが容易で ある.一方,減衰距離が長いうねりは,アリューシャン低気圧や台風等の発生源が比較的 近いものの推定は容易であるが,南太平洋や北米西岸等遠方を発生源とするものは追跡が 難しく,発生源を特定しにくい.そこで,減衰距離が長いうねりに着目して詳細に解析し た.

図 3-2は,東北沖のJ6地点(図 2-23)について,partitioningにより方向スペクトルを 分離して算定した各時刻の成分波浪の波高が1位と2位のうねりであり,かつ方向分散角 が 10 度以下の諸元をプロットしたものである.天気図や台風経路図から容易に発生要因 が推定できる期間については発生要因を図の上部に示した.春と冬はアリューシャン近海 や日本東方の低気圧によると想定される北東寄りの波高 1 m を超えるうねりが多く出現 し,夏から秋にかけては,遠方に位置する台風からと思われる2~3 mの高いうねりがみ られる.

一方で,5月20日頃に波高は低いが周期が長い南東からのうねりも出現しており(緑破 線枠内),天気図等では発生要因が推定できないうねりもみられた.

発生源の推定が難しいうねりの到達事例について,WW3に実装されているWave system

trackingを用い,発生源を解析した.ここで,Wave systemとは,発生源を同じとする波の

グループ(格子の集合)を意味する.この方法は,partitioningで得られた諸元(周期,波 向,波高)を使用して対象格子と隣接格子の諸元の差を定量化したGoF(Goodness of Fit)を 計算し,GoFが最小となるWave systemを対象格子に割り当て時空間的に追跡するもので ある.追跡は,図 3-3に示すように,ユーザーが設定した中心からスパイラルで行われる.

GoFは式(3-1)で求められる.

GoF𝑖𝑖 =�𝑇𝑇𝑝𝑝− 𝑇𝑇�𝑝𝑝,𝑖𝑖𝑙𝑙

∆𝑇𝑇𝑙𝑙

2

+�𝜕𝜕𝑚𝑚− 𝜕𝜕�𝑚𝑚,𝑖𝑖𝑙𝑙

∆𝜕𝜕𝑙𝑙

2

+�𝐻𝐻𝑚𝑚𝑏𝑏− 𝐻𝐻�𝑚𝑚𝑏𝑏,𝑖𝑖𝑙𝑙

∆𝐻𝐻𝑙𝑙

2

(3-1)

ここで,𝑇𝑇𝑝𝑝はピーク周期,𝜕𝜕𝑚𝑚は平均波向,𝐻𝐻𝑚𝑚𝑏𝑏は波高である.∆𝑇𝑇𝑙𝑙,∆𝜕𝜕𝑙𝑙,∆𝐻𝐻𝑙𝑙はそれぞ れの要素の結合基準(combining criteria)であり,この値が大きいほど,Wave systemは同じ システムとして判断されやすくなる.ユーザーは,∆𝑇𝑇𝑙𝑙,∆𝜕𝜕𝑙𝑙を決定するパラメータを外部 ファイルで設定でき,Wave system の結合しやすさをコントロールできる. 𝑇𝑇�𝑝𝑝,𝑖𝑖𝑙𝑙,𝜕𝜕�𝑚𝑚,𝑖𝑖𝑙𝑙

𝐻𝐻�𝑚𝑚𝑏𝑏,𝑖𝑖𝑙𝑙 はWave system iの隣格子の各要素の空間平均値である.例えば,図 3-3の15番格子

の場合,既に3,4,5,14番の格子のWave systemが解析されているため,それらの格子

のWave system i の各要素の平均値となる.

図 3-2 減衰距離が長いうねりの時系列図

*波高30 cm以上,赤色:1位,青色:2位

低気圧

3号 5,11号 12号 15号 21,22号 低気圧

図 3-3 追跡スパイラルの例

(黒丸:海格子,白丸:陸格子)

(出典:The WAVEWATCH III Development Group(2019):

User manual and system documentation of WAVEWATCH III version 6.071)

まず,顕著なうねり発生事例でWave system trackingを行い,発生源の解析における有用 性を確認した.ここでは,有義波で波高4.78m,周期12.2秒,波形勾配0.021の南南東か らのうねりと解析されている2017年4月12日14時を対象とした.

表 3-1は,J6地点における解析事例の有義波及び成分波浪の諸元一覧である.成分波浪

は,波高2.57m,周期6.3秒の風波,波高3.77m,周期12.1秒の南南東からのうねり1,波

高1.46m,周期13.9秒の北東からのうねり2が解析されている.うねり1は,波向が南南 東で,方向分散角が10 度を超えていることから2.2.5項で分類した「減衰距離の短い波」

に相当し,日本近海の低気圧から伝搬してきたものと推定できる.うねり2は方向分散角 が10度以下であり「減衰距離の長い波」に相当し,波向が北東であることからアリューシ ャン近海から伝搬してきたものと推定できる.表 3-2にうねり発生海域から日本到達まで にかかる時間を周期別に示している.周期約14秒のうねり 2 がアリューシャン近海から 伝搬してきたとすると,発生海域から日本到達までに3日程度かかることになる.そこで,

図 3-4に対象時刻4日前からの天気図を示した.推定した通り,本州南岸から東方沖に進 む低気圧と発達したアリューシャン低気圧が天気図に解析されている.

対象時刻のデータをWave system tracking により解析した結果を図 3-5に示した.上記 で推定した通り,うねり1は本州南岸から東方沖に進んだ低気圧を起源,うねり2はアリ ューシャン近海の低気圧を起源とし,東北沖で両者が重合している状況が解析されている.

以上のことから,Wave system trackingを用いることにより,うねりの発生源とその伝搬 過程の解析が可能であることがわかった.

表 3-1 東北沖J6地点の各諸元(2017/4/12 14時)

波浪の種別 波高 (m)

周期

(s) 波向 方向分散角

(度)

有義波 4.78 12.2 SSE 61.0

成分波浪

風波 2.57 6.3 W 42.4

うねり1 3.77 12.1 SSE 31.1

うねり2 1.46 13.9 NE 7.7

図 3-4 2017/4/8~4/12までの天気図(15時JST) 表 3-2日本との距離とうねり伝搬時間(単位:日)

うねり2の発生源

うねり1の発生源

8日15時 9日15時

10日15時 11日15時

12日15時

図 3-5 波浪追跡図(2017/4/12 14時)

発生源が推定できなかった 月 日頃の事例について, を行い,

周期 波速 波速 群速度 1000 3000 5000 7000 9000 12000 14000 16000 s (m/s) (km/h) (km/h) (km) (km) (km) (km) (km) (km) (km) (km)

10 15.6 56.2 28.1 1.5 4.5 7.4 10.4 13.4 17.8 20.8 23.7

11 17.2 61.8 30.9 1.3 4.0 6.7 9.4 12.1 16.2 18.9 21.6

12 18.7 67.4 33.7 1.2 3.7 6.2 8.7 11.1 14.8 17.3 19.8

13 20.3 73.0 36.5 1.1 3.4 5.7 8.0 10.3 13.7 16.0 18.3

14 21.8 78.6 39.3 1.1 3.2 5.3 7.4 9.5 12.7 14.8 17.0

15 23.4 84.2 42.1 1.0 3.0 4.9 6.9 8.9 11.9 13.8 15.8

16 25.0 89.9 44.9 0.9 2.8 4.6 6.5 8.3 11.1 13.0 14.8

17 26.5 95.5 47.7 0.9 2.6 4.4 6.1 7.9 10.5 12.2 14.0

18 28.1 101.1 50.5 0.8 2.5 4.1 5.8 7.4 9.9 11.5 13.2

千島 アリュー

シャン 北米西海岸ニュージー

ランド 南極大陸 南米西海岸

日本との距離

距離相当の海域

J6

(m)

うねり1

うねり2

J6

その発生源を調べた.

対象事例のJ6 地点におけるうねりの時系列図を図 3-6 に示す.異なる特性を持った 2 種類のうねりが重合している.うねり1(赤線)は,最初に周期約17秒の波が到達し,周 期は少しずつ短くなり波高は微増している.うねり2(青線)は,最初に約12秒の波が到 達し,周期は少しずつ短くなり,波高は2倍程度に高くなっている.

この事例の21日22時のうねり1,うねり2の波浪追跡図を図 3-7及び図 3-8に示す.

a),b)及び c),d)はそれぞれ同じWave systemとして解析された波高と周期である.a), b)では,オーストラリアの北東の海域からうねりが伝搬している様子が解析されている.

南東から16秒以上の長い周期のうねりが日本付近に達しており,これが図 3-6のうねり 1 に相当する.南米西岸から伝搬しているうねりは,本来はオーストラリア北東部のうね りとは別のWave systemであると推定されるが性質が似ているために同じWave systemと して解析されたものと考えられる.一方,c),d)は,北米西岸からつながる貿易風帯からう ねりが伝搬する様子が解析されており,これはうねり2に相当する.

図 3-9,図 3-10にこの時刻の10日前から5日前の気圧分布図と風の分布図を示す.図

3-9,図 3-10により,南太平洋高気圧の北部縁辺から吹き出す南東系の風が11日から継

続していることがわかる(図3-9及び図 3-10の白丸内).このことから,図 3-7において オーストラリア北東部から伝搬しているように見える「うねり 1」の発生源は,南太平洋 高気圧の縁辺部の南東風であるといえる.

また,北太平洋高気圧の南西部の縁辺でも,南東系の風が継続して吹いており(図 3-9 及び図 3-10の赤丸内),この海域が「うねり2」の発生源であるといえる.

以上のように,波高は高くないものの周期が長いうねりが貿易風帯や南太平洋から伝搬 している様子が解析された.

図 3-6 2017年5月21~24日のうねりの時系列図(J6地点)

赤線:うねり1,青線:うねり2

図 3-7 波浪追跡図(2017/5/21 22時,うねり1)

a)波高

b)周期

波高(m) 周期(s)

図 3-8 波浪追跡図(2017/5/21 22時,うねり2) c)波高

d)周期

波高(m) 周期(s)

【11日9時】

【12日9時】

【13日9時】

図 3-9 気圧と風の分布図(11日~13日,気圧:左図,風:右図)

L

H

風速(m/s)

◎Japan

9,000km

Japan

5,000km

H

【14日9時】

【15日9時】

【16日9時】

図 3-10 気圧と風の分布図(14~16日,気圧:左図,風:右図)

風速(m/s)

L H

◎Japan

ドキュメント内 太平洋沿岸におけるうねりに関する研究 (ページ 54-65)

関連したドキュメント