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うねりの推算における課題

ドキュメント内 太平洋沿岸におけるうねりに関する研究 (ページ 67-71)

うねりは風波と比較して,長い時間,広い空間の物理現象が積分された結果であり,そ の推算精度は,発生海域での風波の発達や減衰に加え,伝搬過程の推算精度にも依存する.

高精度なうねりの推算のためには,長期間での広域の気象場の推算精度も要求される.こ のため,うねりの推算は風波と比較して難しく,波浪予測や追算等によるうねりの情報を 必要とする現場においては,うねりの推算精度の向上は大きな課題となっている.

さらに,推算精度向上検討の過程で必要となる精度検証や課題抽出の面でも困難を伴う.

複数の風域から異なる特性のうねりが伝搬してくる事例もあり,厳密に解析するためには,

観測値と推算値の時空間的なうねりの追跡とスペクトルレベルでの相互比較が必要とな る.しかし,沖合の波浪観測地点は限られており,空間的な検討は困難である.

そこで,利用可能な限られたデータで各過程での推算精度を把握するために,発生源別 に比較検討することが重要となる.スペクトルレベルで波浪推算の精度を評価することは,

既往の研究でも行われてきたが,スペクトルは成分波毎のエネルギー値であり膨大な量の データであることから,既往の研究ではスペクトル図による視覚的な比較を行う程度に留 まっていた.本研究では,スペクトルのデータマイニングの方法として第 2 章で用いた

partitioningを使用し,観測値と推算値の成分波浪を比較することにより,発生源別に成分

波浪の各要素(波高,周期,波向)について定量的な検証を試みる.

うねりの波浪推算精度にかかわる物理過程における課題は,既往研究等を参考とすると,

以下が考えられる.

① 非線形相互作用

非線形相互作用は,波浪の非線形性によって各成分波間でエネルギーの輸送が行われる 現象である.非線形相互作用のみに着目すると,各成分波のエネルギーは時間が経つとと もに変化するが,成分波の間でエネルギーの授受が行われるだけで,全エネルギーは変化 しない.しかし,成分波間のエネルギー輸送によりスペクトル形が変化するため,風から 波への輸送項や砕波によるエネルギー消散項,波浪変形等の他のソース項に影響し,結果 的には時間とともに全エネルギーも変化する.

非線形相互作用によるエネルギー輸送項𝑆𝑆𝑙𝑙𝑙𝑙は式(4-1)で与えられる.

𝑆𝑆𝑙𝑙𝑙𝑙(𝒌𝒌4) =� 𝜔𝜔4𝑄𝑄(𝒌𝒌1,𝒌𝒌𝟐𝟐,𝒌𝒌𝟑𝟑,𝒌𝒌4)

×𝛿𝛿(𝒌𝒌1+𝒌𝒌2− 𝒌𝒌3− 𝒌𝒌4)・𝛿𝛿(𝜔𝜔1+𝜔𝜔2− 𝜔𝜔3− 𝜔𝜔4)

× {𝑛𝑛1𝑛𝑛2(𝑛𝑛3+𝑛𝑛4)− 𝑛𝑛3𝑛𝑛4(𝑛𝑛1+𝑛𝑛2)}𝜕𝜕𝒌𝒌1𝜕𝜕𝒌𝒌2𝜕𝜕𝒌𝒌3

(4-1)

ここで, 𝒌𝒌 は波数ベクトル,

ω

は角周波数、下付き数字は4つの成分波を示す.𝑛𝑛𝑖𝑖 = 𝐸𝐸(𝒌𝒌𝒊𝒊)/𝜔𝜔𝑖𝑖は波の作用密度,Q(𝒌𝒌1,𝒌𝒌𝟐𝟐,𝒌𝒌𝟑𝟑,𝒌𝒌4)は成分波間の結合係数,δはデルタ関数で共鳴 条件を表す.以下の関係を満足する4つの成分波間で共鳴が生じる.

𝒌𝒌𝟏𝟏+𝒌𝒌𝟐𝟐=𝒌𝒌𝒂𝒂 =𝒌𝒌𝟑𝟑+𝒌𝒌𝟒𝟒, 𝜔𝜔1+𝜔𝜔2=𝜔𝜔𝑎𝑎 =𝜔𝜔3+𝜔𝜔4

(4-2)

図 4-1は以下の式で表されるγの等値線を示したもので,4つの波数成分で共鳴が生じ ることを示している.

�𝒌𝒌𝟏𝟏+�𝒌𝒌𝟐𝟐=�𝒌𝒌𝟑𝟑+�𝒌𝒌𝟒𝟒 ≡ 𝜎𝜎

(4-3) 共鳴条件が生じる4波の組み合わせの例を赤線のベクトルで示した.このような組み合 わせは無数に存在するが,それらを全て波浪推算モデルに組み込みことは,実用上困難で ある.

第三世代波浪推算モデルで一般に良く用いられる離散相互作用近似(Discrete Interaction

Approximation,以下DIA)は,Hasselmann(1985)1)が開発したものであり,4波共鳴する成分

波の無数の組み合わせを1組のパラメータで近似するものである.採用した4波の組合せ は、パラメータλを用いて次式で表される.また,この4波を図 4-1に青線のベクトルで示 している.

𝜔𝜔1=𝜔𝜔2=𝜔𝜔,

𝜔𝜔3 =𝜔𝜔(1 +𝜆𝜆) =𝜔𝜔+, 𝜔𝜔4=𝜔𝜔(1− 𝜆𝜆) =𝜔𝜔

𝜕𝜕1=𝜕𝜕2=𝜕𝜕= 0,

𝜕𝜕3− 𝜕𝜕= ±11. 5

𝜕𝜕4− 𝜕𝜕=∓33. 6, 𝜆𝜆= 0.25

(4-4)

この組合せを用いれば,式(4-1)は以下の式となり非線形エネルギーの輸送が計算できる.

�𝛿𝛿𝑆𝑆𝑙𝑙𝑙𝑙

𝛿𝛿𝑆𝑆𝑙𝑙𝑙𝑙+

𝛿𝛿𝑆𝑆𝑙𝑙𝑙𝑙�= � −2(𝛥𝛥𝜔𝜔𝛥𝛥𝜕𝜕)/(𝛥𝛥𝜔𝜔𝛥𝛥𝜕𝜕) (1 +𝜆𝜆)(𝛥𝛥𝜔𝜔𝛥𝛥𝜕𝜕)/(𝛥𝛥𝜔𝜔+𝛥𝛥𝜕𝜕) (1− 𝜆𝜆)(𝛥𝛥𝜔𝜔𝛥𝛥𝜕𝜕)/(𝛥𝛥𝜔𝜔𝛥𝛥𝜕𝜕)� ×𝐶𝐶𝜔𝜔11𝑔𝑔−4�𝐸𝐸2� 𝐸𝐸+

(1 +𝜆𝜆)4 + 𝐸𝐸

(1− 𝜆𝜆)4� −2 𝐸𝐸𝐸𝐸+𝐸𝐸 (1− 𝜆𝜆2)4

(4-5) ここで,𝛥𝛥𝜔𝜔,𝛥𝛥𝜔𝜔+,𝛥𝛥𝜔𝜔は角周波数𝜔𝜔,𝜔𝜔+,𝜔𝜔の角周波数格子幅,𝛿𝛿𝑆𝑆𝑙𝑙𝑙𝑙,𝛿𝛿𝑆𝑆𝑙𝑙𝑙𝑙+,𝛿𝛿𝑆𝑆𝑙𝑙𝑙𝑙は 方向スペクトルEE+Eにおける非線形エネルギー輸送の単位時間あたりの変化量,

𝛥𝛥𝜕𝜕は波向の格子幅,Cは上記の近似法による結果が厳密計算値に合うように調節した無次 元定数である.

JONSWAPスペクトルのenhancement factorγが1.0程度であるPM(Pierson-Moskowitz)ス ペクトルのようにエネルギーの帯域幅が広いスペクトルに対しては,DIAの近似解と厳密 解は比較的よく対応するが,γが大きくなりスペクトルのピークが鋭くなるに従い,近似 の精度は悪くなる(磯崎ら(1999)2).すなわち,DIAは風波のようにスペクトル幅が広い 場合にはある程度の精度を有しているが,うねりのように集中度が高くスペクトル幅が狭

図 4-1 非線型相互作用における波数ベクトルの関係

γ=1.7 γ=1.6 γ=1.5 γ=1.45

1.3 1.4

k4 k3

k2 k4 k3

k1 k2

k1

γ=1.8

い場合には精度が不足すると考えられる.橋本ら(2009)3)は,非線形相互作用の高精度化が 波浪推算に及ぼす影響を調べ,モデル海域を対象とした検討から,非線形相互作用の高精 度化がうねり性波浪の推算精度向上に有効であることを示した.また,Liu et al.(2019) 4)は,

複数組のパラメータを用いて近似するGMD(Generalized Multiple Discrete)を用いることにより周 期16.6秒以上のうねりの過大評価が改善したと報告している.

他に,非線形相互作用の計算方法として 20 組の組み合わせで近似する SRIAM(小松 (1996) 5),Simplified Research Institute for Applied Mechanics),厳密計算を行うExact interaction approximation(Hasselmann (1962, 1963) 6) 7) 8)),two-scale approximation(Resio and Perrie (2008)

9))等の方法が波浪推算モデルに実装されているが,いずれも現時点においては予測等で使 用するには計算負荷が大きすぎる.

以上のことから,許容可能な計算負荷と計算精度の両面から,適切な非線形相互作用の 方法を選択することが重要となる.

② 伝搬

橋本ら(1999) 10)は,第三世代波浪推算モデルWAMと第一世代波浪推算モデルMRIについ て,観測値と推算値の比較を風波成分とうねり成分に分けて行い,WAMの優位性を示すと ともに,WAMのうねりが過小評価であることを指摘している.うねりの過小評価の原因の ひとつとして,WAMはエネルギーの伝搬計算に風上一次差分を用いているために数値分 散が大きいことを挙げている.

Suzuki(1994,1995) 11) 12)も同様の指摘をしており,このような問題を改善するために,

Suzuki et al.(1994) 11)が開発した波浪推算モデルJWA3Gでは,伝搬計算にハイブリッド上流

差分を用いている.しかし,JWA3Gは,うねりの減衰過程が不十分でありうねりを過大評 価することから,うねりの減衰に関する物理過程の導入を課題として挙げている.

その後,波浪の伝搬の計算については,SWANでは2次精度の風上差分,WW3は3次 精度の差分(QUICKEST)が導入され,精度の向上が図られてきた.さらにWW3では,Sds にうねりの減衰計算を追加し(ST4,ST6のみ),うねりの過大評価を抑制する機能を設けて いる.しかし,この減衰計算も発展途上でありうねりの過大傾向は未解決の状況である.

さらに,差分の精度を上げて数値分散を小さくした結果,GSE(Garden Sprinkler Effects) がより顕在化するなど,伝搬過程での課題はまだ残されている.

③ 方向分割数

小松(1996)5)は,方向の分解能の違いによる非線形エネルギー伝達の効果を比較し,実用

上許容できる精度が得られる分解能として,方向分割数36(⊿θ=10°)を提案している.橋本 ら 10)は,高精度な非線形相互作用の計算が組み込まれた波浪推算モデルにおいて,

スペクトルの推算精度が得られる最低限必要な方向分割数について検討を行い,良好なス ペクトルの推算精度を得るためには,32(⊿θ=11.25°)以上の方向分解能が必要であることを 示した.一方,SWANのユーザーマニュアルでは,沿岸海域においてうねりを対象として 推算する場合には解像度は⊿θ=2~5度を推奨するとされており,適切な方向分割数の設定 が課題となる.

④ 海底地形の影響

うねりは周期が長く海底地形の影響を受けやすいことから,波浪変形の考慮が重要とな る.WW3は,海底摩擦,屈折,地形性砕波,三波共鳴を考慮することが可能である.波浪 変形を考慮する際は,対象海域の特性に応じた空間解像度の設定と波浪推算モデルの選択 が必要となる.

ドキュメント内 太平洋沿岸におけるうねりに関する研究 (ページ 67-71)

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