第4章 参照対象
第 1 節 犠牲資産の参照
犠牲資産を参照する場合とは、すなわち、支払対価をもって資産を測定する場合である。
支払対価をもって資産を測定する考え方は、伝統的に「測定対価主義」とよばれており、
歴史的原価会計の主要な構造的特徴の1つ39であるとされている(新井 1978, 344)。
38 このことは、一般には、「取引ベースか事象ベースか」といった文言で表現される。
39 新井(1978)では、その他の主要な構造的特徴は、「原価配分原理」および「原価=実現主義」であるとさ れる(344)。
1. 過去入口価格または修正過去価格
犠牲資産の過去入口価格とは、「過去に犠牲資産を購入したときに支払った価格(実際 価格)」または「過去に犠牲資産を購入したならば支払わなければならなかったであろう 価格(擬制価格)40」である。犠牲資産の修正過去価格とは、「犠牲資産の過去価格の累積 もしくは融合、配分もしくは償却、または組合せによる金額」である41。現行基準におい ては、同種の資産の交換取引で、かつ投資の継続が認められる場合に限り、これらの測定 値が用いられている。また、この測定値を用いれば歴史的な原価の累積、すなわち価格総 計(price-aggregate)を表現できるため、この測定値の意義は、原価即事実説を採用した場 合の歴史的原価の意義そのものといえよう。
2. 過去出口価格
犠牲資産の過去出口価格とは、「過去に犠牲資産を売却したならば受取ったであろう価 格」である。この測定値が意味をもちうる場合には、たとえば、4. 現在出口価格と併せて 利用される場合が考えられる。情報の利用者は、現在出口価格と過去出口価格との比較を つうじて機会利得または損失を知ることができるため、当該犠牲資産の売却にかかる経営 の巧拙に関する情報を得られるかもしれない。
3. 現在入口価格
犠牲資産の現在入口価格とは、「現在、犠牲資産を購入するならば支払わなければなら ないであろう価格」である。その額は、すなわち、犠牲となった資産を現在購入する(ま たは、その用役能力を現在代替する)のに要するであろう額であるから、取得資産が犠牲 資産と同等の用役能力を有すると期待される場合には、この測定値が意味をもつことにな ろう。また、現在原価会計のもとで原価の累積を表現しようとする場合においては、この
40 擬制価格が用いられることはほとんどないと思われるが、犠牲資産を過去に取得した以後の期間において遡 及修正が行われた場合等を考えると、擬制価格が用いられるケースも想定しえないわけではない。
41 両者のうちどちらが用いられるかは、犠牲資産が償却性資産であるか否か、過去(または現在)に減損が生 じたか(または生じているか)否か、組立等の他の資産との集成によって変形が行われたか否か、等によって 決定されるだろう。
測定値が採用されることになるかもしれない42。なお、実際に、現在、犠牲資産を購入し たわけではないから、この場合における現在入口価格は、当然に、実際価格ではなく、擬 制価格である。
4. 現在出口価格または現在出口価格類似額
犠牲資産の現在出口価格とは、「現在、犠牲資産を売却するならば受取るであろう価格」
である。犠牲資産の現在出口価格を用いた場合、その測定値の表現するものは、すなわち、
取得資産の代わりに現金を受取っていたならば得られたであろう金額である43。また、多 くの歴史的原価の定義は、「対価の公正価値の額」に言及していることから、今日におけ る歴史的原価は、一般に、犠牲資産の現在出口価格を指しているといえよう。
犠牲資産の現在出口価格類似額とは、「信用リスクの変動を加味しない等、市場参加者 が考慮するであろう1またはそれ以上の要因を無視して算定された犠牲資産の現在出口価 格」である。その測定値の表現するものは、現在出口価格とおおむね同様であろう。
5. 使用価値、その他の一定の現在価値の算定数値または割引前将来キ ャッシュフロー
犠牲資産の使用価値とは、「確率で加重平均され、現在へ割引かれた、犠牲資産を引渡 していなければその使用によって生成されたであろう将来キャッシュフロー」である。そ の測定値の表現するものは、犠牲資産を手放したことによる、予想される企業の将来の現 金生成能力の減少分の現在価値であろう。この測定値が意味をもちうる場合には、たとえ ば、2節の5. 取得資産の使用価値と併せて利用される場合が考えられる。犠牲資産の使用 価値と取得資産の使用価値との比較をつうじて、情報の利用者は、犠牲資産の使用ではな く取得資産との交換を選択した企業の行動の合理性に関する評価を行うことができるだ ろう。
42 ただし、その場合には、Edwards and Bell(1961)Chapter IIIにおいて主張されているように、犠牲資産を現 在購入したならば支払わなければならないであろう価格ではなく、犠牲資産を構成する個別のインプットの現 在入口価格の総計が妥当するだろう。
43 この考え方は、一般に、投資の清算とよばれているものである。また、Paton and Littleton(1940)において この考え方が採用されていたのは、前述のとおりである。
犠牲資産のその他の一定の現在価値の算定数値とは、「確率で加重平均された、または 最も生起しやすい、特定の利子率で割引かれた、犠牲資産を引渡していなければ生じたで あろう将来キャッシュフロー」であり、犠牲資産の割引前将来キャッシュフローとは、「確 率で加重平均された、または最も生起しやすい、現在へ割引かれていない、犠牲資産を引 渡していなければ生じたであろう将来キャッシュフロー」である。これらの測定値が表現 するものおよび意味をもちうる場合は、使用価値とおおむね同様であろう。
6. 将来入口価格
犠牲資産の将来入口価格とは、「将来、犠牲資産を購入するならば支払わなければなら ないであろう価格」である。この額は、すなわち、犠牲となった資産の用役能力を将来代 替するのに要する額であるから、犠牲資産の将来入口価格は、企業が同一の資産(または 同等の用役能力を有する資産)を将来購入することが予想される場合に意味をもちうる。
かかる状況は想定し難いものではあるが、たとえば、将来において価格の急騰する商品を 扱う小売業を想定すれば、当該商品の将来入口価格によって、将来に、現在と同等の活動 レベルを保つために必要となる現金の額を表現できるだろう44。また、資金調達難から本 社建物を売却したが将来において同等の建物を再購入することが予想される場合等にも、
この測定値が利用者にとって意味のあるものとなるかもしれない。
7. 将来出口価格または修正将来価格
犠牲資産の将来出口価格とは、「将来、犠牲資産を売却するならば受取るであろう価格」
である。この測定値が意味をもちうる場合には、たとえば、4. 現在出口価格と併せて利用 される場合が考えられる。情報の利用者は、現在出口価格と将来出口価格との比較をつう じて機会利得または損失を知ることができるため、当該犠牲資産の売却にかかる経営の巧 拙に関する情報を得られるかもしれない。
犠牲資産の将来修正価格とは、「犠牲資産の将来価格から見積追加製造費用および見積 追加販売費用を控除した額」である。この測定値が意味をもちうる場合は、将来出口価格
44 通常は現在入口価格で足りるものと思われるが、季節性の商品または天候によって価格が大きく変動する農 産物を取扱う業種等においては、この測定値が利用者にとって意味のあるものとなる状況も想定されうる。
とおおむね同様であろう。