第2章 資産の測定基礎の種類とその定義
第 5 節 使用価値
使用価値は、多くの場合、企業固有の価値として位置付けられるものであり、しばしば、
現在価値と混同されることもある。「現在価値の測定技法は、貨幣および付随するリスク の時間価値を考慮し期待将来キャッシュフローを評価する数理的体系(mathematical
structure)を提供するため、非常に重要である」ものの、現在価値は、それ自身で測定基
礎になるものではなく、「測定基礎のいくつかを見積る際に適用しうる測定技法である」
(IASB 2005, paragraph 71)。そのため、本論文では、現在価値を、使用価値と同視はせず、
また、独立した測定基礎としてもみなさない。
1. 主要文献における使用価値の定義
(1) SFAC 7
SFAC 7 で は 、使 用 価 値 (value-in-use)お よ び企業固有 の測定値 (entity-specific
measurements)について、つぎのような記述がある。
「使用価値および企業固有の測定値は、資産または負債の価値を特定の実体ごとに把 握しようとするものである。」(paragraph 24.b)
さらに、企業固有の測定は、以下の 5 つの要素すべてを把握すれば可能であるという。
(paragraphs 23, 24.b)
1. 将来キャッシュフローの見積り、またはより複雑なケースでは、異なる時点におけ る一連の将来キャッシュフローの見積り
2. 将来キャッシュフローの金額または時期の予想される変動に関する予測 3. リスクフリーレートによって表される貨幣の時間価値
4. 資産または負債に固有の不確実性に対処するための対価
5. その他、非流動性(illiquidity)および市場の不完全性をはじめとする識別不可能な こともある要素
(2) IASB(2005)
IASB(2005)では、使用価値がつぎのように定義されている。
(資産の)使用価値とは、「資産の継続的使用および耐用年数経過時点での処分から 生じることが期待される見積り将来キャッシュフローの現在価値」である。(paragraph 86)
さらに、IASB(2005)では、以下のような指摘がある。
「この定義は、誰の期待が使用価値を決定するための基礎であるべきかについて言及 していない。基準および実務での使用法に基づけば、その目的は報告実体の経営者に よる将来キャッシュフローの最善の見積りを反映することであると一般に考えられ ているようにみえる。しかし、使用価値の測定基礎は、しばしば、貨幣の時間価値お よび資産に相応のリスクに関する現在の市場の評価を反映した利子率でかかる経営 者の見積りを割引くという解釈がなされているようにみえる。」(paragraph 87)
(3) ICAEW(2006)
ICAEW(2006)では、使用価値がつぎのように定義されている。
「資産または負債の使用価値は、それに帰属する将来キャッシュフローの割引価値で ある。しかし、キャッシュフローは個々の資産によってではなく事業または事業のな かの単位によって生成されるため、使用価値は、独立した資産および負債ではなく事 業または事業の単位へ適用可能な評価の基礎である。」(34)
(4) ASBJ(2006)
ASBJ(2006)では、将来キャッシュフローを継続的に見積り直すとともに、割引率も改
訂する場合の測定値として、利用価値(使用価値)がつぎのように定義されている。
「利用価値は、使用価値とも呼ばれ、資産の利用から得られる将来キャッシュフロー を測定時点で見積り、その期待キャッシュフローをその時点の割引率で割り引いた測 定値をいう。」(4章20項)
さらに、ASBJ(2006)では、「利用価値は、報告主体の主観的な期待価値」であるとさ れる(4章21項)。
2. 使用価値の定義と分類に関する論点 会計処理単位
ほとんどの事業用資産は、単独ではなく、他の資産と組合されることによってキャッシ ュを生成する。そのため、ICAEW(2006)の指摘にもあるように、使用価値は、他の測定 基礎とは異なり、通常、単独の資産の測定基礎としては用いられていない。理論的には、
他の資産との組合せによって生じるシナジーも、資産性を有するため、独立の資産として 識別されうるが、実践的には、使用価値が事業の単位等、相当程度グルーピングされた資 産にしか用いえない以上、資産のグルーピングの大きさである会計処理単位22の選択の自 由度は、測定基礎に使用価値を用いることによって、大幅に制限されることになる。
かかる使用価値に固有の特徴から、使用価値を他の測定基礎と同一次元で分類すること には懸念が生じるかもしれない。しかし、概念上は他の測定基礎と同一次元の測定基礎で あるようにみえ、むしろ、実践的ではないからという理由で、理論上は同一次元において 分類すべきである概念を例外として取扱ってしまうと、概念上あるべき分類が阻害されて しまうかもしれない。したがって、本論文では、使用価値を、独立した1個の測定基礎と みなすことにする。
22 会計処理単位に関する諸論点については、第5章における検討を参照されたい。