第3章 パワーデバイス用化合物半導体
3.2 炭化ケイ素( SiC )の特徴と現状
前述の理由もあり、SiCの市場予想も今後さらなる飛躍が予想されている。yole社 による今後のSiCの市場予想であるが、2022年には現在の倍の市場規模になると予想 している。[3]
SiCは構成原子であるSiとCの結合が強く、機械的・化学的安定性は極めて高いが、
そのことがそのまま単結晶成長の困難さにつながっている。SiやGaAsのような融液 中からの引き上げによる大口径・長尺インゴットの成長は事実上不可能であり、昇華 法によって成長される。この方法でも2000℃を越える非常に高いプロセス温度が必要 であり、このことが結晶成長過程の制御、欠陥密度の低減、大口径化を難しくしてい る。SiCは2545℃付近でSi 融液と黒鉛に分解される[4]。Si融液中の炭素溶解度が小 さく単結晶引き上げは困難とされている。そのため図 3.2.1 のような昇華法が用いら れる。黒鉛の坩堝内に原料となる SiC 粉末及びそれと対抗して種結晶を配置して
2200~2300℃の超高温で過熱することにより成長する。種結晶は通常 SiC 結晶の c 面
を用いるので、成長結晶はそれにそって成長する。非常に精密な温度制御を行うため、
原料追加が行えない。そのため長尺化ができないため基板コストが非常に高い。
図3.2.1 昇華法による結晶成長
また、SiCは結晶多形(ポリタイプ)が200種類以上あることが知られており、ポ リタイプによって物性値が異なっている。SiC結晶はポリタイプが混在しやすく、境 界に結晶欠陥が発生することから、単一ポリタイプ結晶の成長が重要な課題であった が、成長技術進展によって、現在では4インチの単一ポリタイプ単結晶基板が供給さ れるようになっている。特に電子デバイスでは主に六方晶系の 4H が用いられる。
3C-SiCはMOSFETに重要なチャネル移動度が、2H-SiCはバンドギャップが一番大き
いという特徴があるが、未だ良質な結晶を得られていないため、電子デバイスではあ まり用いられていない。図3.2.2にはSiCの模式的な積層構造、図3.2.3にはSiCの代 表的なポリタイプである3C、4H、6H-SiCを示す。
図3.2.2 SiCの積層構造
(a) (b) (c) 図3.2.3 (a)3C-SiC、(b)4H-SiC、(c)6H-SiCの積層構造
また、マイクロパイプと呼ばれるSiC特有のumオーダー中空貫通欠陥があり、SiC パワーデバイス実現の最大の課題と言われていた[5]。高耐圧・大電力デバイスにとっ ては致命的な欠陥であったが、徐々にその発生原因・メカニズムの解明が進み、現在 ではマイクロパイプ欠陥密度が 1cm-2以下の高品質単結晶基板が供給されるようにな ってきており、リーク電流や信頼性の低下につながるミクロな結晶欠陥の低減に研究 の中心が移りつつある。表 3.1.1 で示したように、4H-SiC の場合、バリガ指数は Si を1としたときに300以上と高い値を示す。また、熱伝導率は金属並みに高く、基板 自体がヒートスプレッダとなりうる。さらに、ワイドバンドギャップであることに由 来する高温動作など、パワーデバイス用半導体としてのポテンシャルは極めて高い。
すでにショットキーダイオードは実用化されており、MOSFETといったスイッチング デバイスの開発に注目が集まっている。
しかしながら、現状の SiC-MOSFET は SiC の物性値から期待されている高い特性 は得られていない。その最大の要因はMOS 界面におけるチャネル移動度が小さいた めチャネル部分での抵抗が大きくなり、SiC本来の物性から期待されるような低いオ ン抵抗のデバイスが実現できていないためである。これは絶縁膜/SiCの界面特性が悪 く、界面準位と呼ばれる欠陥がSiに比べ1桁以上多く存在するためである。SiCのバ ンドギャップ中には起源の異なる数種類のトラップがあり、SiCの価電子帯側にはド ナー型界面準位、伝導帯側には高密度のアクセプタ型界面準位が存在すると考えられ
ている。界面準位の実態は未だ明らかでないが、カーボンクラスターモデルが有力な 説である。高密度に存在する絶縁膜/SiC界面準位の主な要因がSi-やC-のダングリン グボンドでなく、界面に残留した過剰カーボンの蓄積によるものと示した。これらの カーボンはグラファイトライクカーボンと sp2結合したカーボンクラスターを形成し ており、グラファイトライクカーボンはSiCのバンドギャップ中に連続的な準位を形 成するのに対し、sp2 結合したカーボンクラスターはバンドギャップ中の価電子帯側 に準位を形成すると報告している。界面準位はキャリアを捕獲し可動キャリアを減少 させるだけでなく、捕獲電荷によるクーロン散乱を引き起こす原因ともなる。そのた め界面準位を減少させデバイス特性を向上させるには、絶縁膜/SiC界面における残留 カーボンの除去と残留カーボンに起因した欠陥の終端が重要である。また、絶縁膜中 のトラップはSiO2の場合、伝導帯端から2.77eV程度のエネルギーに位置しており、
これはSiの伝導帯端よりは高いエネルギーであるため4H-SiCの伝導帯端より少し低 いエネルギーに位置することとなるため、禁制帯内に入り、トラップとして働くため、
EC付近の高い界面準位密度の要因のひとつと考えられる。