一般的な経営者やマネジャーは「市場創造戦略は顧客志向であるべきだ」と認識しているので、
条件反射的に既存顧客を思い浮かべ、既存顧客により大きな満足をもたらす方法を見つけようと する。(Kim and Mauborgne,2015,p.43)しかし、顧客への理解がたりなければ、顧客の真の需要 がわかりにくくて、顕在ニーズしか満足できない。顕在ニーズを重視しすぎると、他社との差別 さを追求できなく、競争力が落ちる可能性があるため、企業は顧客の顕在ニーズから潜在ニーズ への重視が高まっている。または、新市場型破壊的イノベーションや新価値創造型破壊的イノベ ーションを促進するため、潜在ニーズを正しく予測して、把握しなければならない。しかし、ま だ存在していない市場や顧客ニーズを対象となるため、需要予測の精度は極めて低くなり、また 技術開発のハードルが高い場合、開発日程を作成しても守ることが難しい。(今村他,2004,p.2)第 4 章では、潜在ニーズに関する先行研究をレビューしながら、潜在ニーズの把握する方法を探索 する。
潜在ニーズの重要性
製品を売れ行きがよく販売するため、顧客ニーズを把握することが重要であると考えられる。
ニーズの中をよく見ると、二種類のものが混在している。それは願望(ウォンツ)と実需(デマ ンド)である。ウォンツとは漠然とした「こんなものがあったらいいな」ということである。デ マンドは実際にそれがあれば「お金をだしてもほしい」というものである。 (出川,2006.pp.152-153)
ニーズを願望と実需を分類した方法があるが、言葉で表現できるかどうかによりニーズを顕在 ニーズと潜在ニーズに分類する方法も存在している。藤川(2006,p.69)によると顧客のニーズを 大別すると、「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」に分けられる。顕在ニーズは「何がほしいのか、何 が必要なのか」について顧客自身が自覚しており、言葉で表現できるニーズである。言い換えれ ば、顧客が自らの声として発することのできるニーズであり、企業からも見えやすいニーズであ る。一方、潜在ニーズは顧客自身ですら「何がほしいのか、何が必要なのか」について明確な考 えを持っていない、明確に表現することができないニーズである。顧客は企業に対してこうした
声を届けることはないし、企業側からは見えにくいニーズである。
Day(1994,pp.5-16)は、どんなに革新的な新製品であっても、深く根ざしたニーズが潜在してい るからこそ成功するのであると述べている。顕在ニーズに従うだけでなく、潜在ニーズを探り、
顧客を導くことが重要であることを指摘している。顕在ニーズに基づく製品開発では、市場ニー ズを把握することで顧客がほしいおのを提供する。潜在ニーズに基づく製品開発では、顧客が欲 しいものをそのまま提供するのではなく、顧客が気付いていないものを提供する。それは、顧客 に今までにない魅力を感じさせることや顧客満足など新たな価値を提供することであると言える であろう。
藤川(2006,p.70)によれば、意識的思考に基づく顕在ニーズだけでなく、無意識的思考による 潜在ニーズが、顧客の消費行動や購買意思決定に与える影響が実は非常に大きいことを示唆して いる。
また、藤川(2006)は企業のマーケティング戦略上の重心も、顕在ニーズを如何に正確に捉え るかという問題から、潜在ニーズを如何に掘り起こすかという問題に移す必要があると主張して いる。昨今の情報技術の進展に伴い、顕在ニーズの収集能力における企業間格差は、どんどん縮 小していると言える。一方、はるかに大きな潜在需要が手つかずのまま眠っているので競争優位 の源泉としては顕在ニーズの把握能力よりも、潜在ニーズの発掘の能力の重要性が相対的に高ま っていると考えられるのである。従って、近年、潜在ニーズへの戦略的な対応の重要性が急速に 高まりつつある状況になっている。
解釈主義と顧客のコンテキスト
顧客のニーズ特に顧客自身も気付いていないニーズを明らかにするために、企業は常に顧客の 立場で製品を開発する必要性がある。研究開発者と顧客との距離が近ければ近いほど、顧客行動 への理解が高くなり、顧客の潜在ニーズを見つける可能性が高い。
高橋(2010)は組織認識論の全体潮流を機能主義から解釈主義へ転換する理論を纏めた。これ
から、彼の解釈主義の理論を利用して顧客行動を理解する必要性を検討する。
Burell and Morgan(1979)は、社会科学全体をレギュレーションとラディカル・チェンジの次元 及び、主観的と客観的の次元から4つのパラダイムに分けてとらえた。(高橋,2010,p.81)レギュ レーションとは、「本質的に人間事象における規制の必要性に関心を持つ」立場で、「これが提起 する基本的な問いの中心は、なぜ社会が一つの実在として維持されるのかを理解しようとすると ころにある」。(Burell and Morgan,1979,p.22)ラディカル・チェンジとは、「本質的に、人間の 発展の可能性を制限し阻害するような諸構造から人間を解放することに関心をもつ」立場である。
(Burell and Morgan,1979,p.22)客観主義者の研究スタンスが、客観的実在物である社会的世界 における規則性や因果関係を突き止める方向に向けられる。主観主義者のスタンスは、われわれ が付与している意味に注目し、社会的世界が個人的意味形成の枠組みの中で構築され、それが個 人の枠を超えて共有される過程を個性記述的に描きだす方向に向けられている。(高橋,2010,p.82)
主観的かつレギュレーションの立場を解釈主義、客観的かつレギュレーションの立場を機能主 義と定義した。(Burell and Morgan,1979,p.22)機能主義者は、対象の物事に対して客観主義者 の視点からアプローチしようとする。実際的な諸問題に対して実際的な解決策を用意することに 関心がある。(Burell and Morgan,1979,p.32)機能主義者に対して解釈主義者は、世界をあるが ままに理解し、社会的世界の基本的性質を主観的経験のレベルで理解しようとする関心によって 知られている。それは、行為に対する観察者ではなく参加者の基準枠の範囲内で、個人的意識や 主観性の領域における説明を探求しようとする。(Burell and Morgan,1979,p.35)
上のように分類した上で、Burell and Morgan(1979)は組織理論の全体的潮流を機能主義から 解釈主義への流れとして捉えている。高橋は、「実証主義に主眼を置き多変量解析などを通して組 織の分析を試みたコンティジェンシー理論、またその理論的裏付けを形成した情報処理モデルか ら、主観性を重視し、個々の意味形成を重視する認識論的組織観への変遷も、機能主義から解釈 主義への流れとして捉え直すことができよう。」と述べた。彼は、二つの観点から組織認識論の全 体は機能主義から解釈主義への転換を主張した。(高橋,2010,p.83)
組織認識論の全体は、機能主義から解釈主義に変る理由として、機能主義は限界があるため、
解釈主義への注目が高めているからである。解釈主義の理論展開としては、顧客の行動に対して、
多様の解釈の方法がある。多様の解釈があるため、顧客ニーズが多様化になる。と共に、顧客へ の理解が深くなる。そうすると、解釈主義の重視を通じて、顧客の真のニーズと距離を縮めて、
潜在ニーズへの把握が可能になる。
解釈主義の発展により、顧客コンテキストへの重視が高まっている。また、ビジネスの世界で は「コンテキスト」は企業の運命を左右するような重大な意思決定に深く絡み合っており、重要 な役割を担っているのである。まず、ビジネスの世界にはどのような「コンテキスト」が存在し ているのかについて過去に遡って考えてみよう。(内藤・杉野,2009,pp.15-25)コンテキスト発展 の過程を大体に三つの段階に分ける。すなわち、コンテキストの雛型時代、コンテンツの時代と コンテキスト再発展の時代である。
最初の時代は、「あ・うんの時代」であった。1980年代までは、長期雇用のもとで「コンテキス ト」を無意識的に共有できていた「あ・うんの時代」であり、これがこの時代の日本企業の強さ を支えていたといえる。
しかし、1990 年代から現在まで「コンテンツの時代」に入った。バブル崩壊後しばらくの間、
日本の経済が低迷になってしまった。業績の低迷に陥った日本企業はこぞってそれまでの日本的 経営スタイルを自省し、欧米流の経営スタイルに傾倒するようになったのである。多くの企業は GEの経営指標重視型の事業ポートフォリオ手法や、P&Gの定量分析を核とするマーケティング リサーチ手法や、経営コンサルティングファームのロジカルシンキングなど、欧米型の「コンテ ンツ」を基軸にして論理や分析を展開することでモノゴトを解釈し、意思決定していく経営手法 を取り込んでいった。日本の伝統的企業が米国で生まれた経営管理指標を導入したり、LBO や MBO を活用した M&A が日本でも日常茶飯に行われるようになってきた。現にこれら欧米の経 営手法をいち早く取り入れた企業が好業績を上げるようになり、これら欧米流の「コンテンツ」
重視の経営が先進的として評価されるようになった。現在の日本企業は「コンテンツ」への依存 度を高める一方で「コンテキスト」の依存度を相対的に落として欧米流の「コンテンツ」重視経 営へ傾倒している。