• 検索結果がありません。

仮説の提示及び構成概念の定義

ドキュメント内 大企業におけるイノベーション戦略 (ページ 128-139)

第4章では、本研究の問題意識に基づき、研究目的を達成するために、論文全体の仮説を提示 する。そして、仮説に言及した各構成概念を定義する。

仮説の提示

変化している顧客のニーズを満足するため、企業はイノベーションを積極的に促進している。

しかし、製品進歩の速さを顧客受入のスピードを超えると、新製品は顧客のニーズとかけ離れる 恐れがある。すなわち、イノベーションのジレンマに陥る危険性がある。企業の規模が大きけれ ば大きいほど、イノベーションジレンマの問題が深刻化になる。この問題を回避するために、デ ュアルイノベーションの必要性が注目される。つまり、持続的イノベーションを行いながら、破 壊的イノベーションを促進する必要性がある。

前章の分析結果から見れば、大企業は企業のブランドに悪影響を与えたく無いため、また既存 市場の共食いを回避するため、大企業はローエンド型破壊的イノベーション志向性が低くて、ロ ーエンド型破壊的イノベーションに向いていない。

一方、新市場型破壊的イノベーションの促進は、新しい顧客の獲得を可能にする。新しい市場 の開拓が可能であるというインセンティブがあるため、大企業は新市場型破壊的イノベーション の促進には着手可能であると考えられる。非主流の新規顧客の行動を観察すれば、今まで消費を 阻害していた要因を認識する可能性は高く、阻害要因が解消されれば、新市場型破壊的イノベー ションの促進が求められる。

また、ローエンド型破壊的イノベーション、新市場型破壊的イノベーションと比べ、新価値創 造型破壊的イノベーションの収益性は明らかに高い。新価値創造型破壊的イノベーションにより 開発した製品を市場に導入することで、企業のブランド力も高くなり、社会的な影響も大きくな り、企業の収益も増大することが期待される。従って、大企業は新価値創造型破壊的イノベーシ ョンの促進意欲が高い。さらに、大企業は中小企業やベンチャー企業より持続的イノベーション の能力が高いため、技術レベルや経営資源が圧倒的に豊富である。中小企業やベンチャー企業よ り大企業の方が新価値創造型破壊的イノベーションに向いている。しかし、新価値創造型破壊的 イノベーションの創造には、潜在化されているニーズの発掘が非常に重要であるが、これは困難 を極める。第3章の分析により、顧客の行動観察を重視すれば、潜在化されているニーズを把握 する可能性が高まる。従って、顧客の行動観察を重視している大企業で、持続的イノベーション 志向性が高ければ高いほど、新価値創造型破壊的イノベーションの志向性が高くなると考えられ る。

ここまでの検討に基づいて、仮説を構成すると次のようになる。デュアルイノベーションを促

進するために、顧客の真のニーズの把握が非常に重要である。顧客の真のニーズを把握するため に、顧客の行動観察を重視しなければならい。すなわち、顧客の行動観察を重視することにより、

デュアルイノベーションの促進を求められる。具体的に以下の仮説を提出する。

① 顧客の行動観察を重視する大企業は、持続的イノベーションの志向性が高ければ高いほ ど、新市場型破壊的イノベーションの志向性が高い。

② 顧客の行動観察を重視する大企業は、持続的イノベーションの志向性が高ければ高いほ ど、新価値創造型破壊的イノベーションの志向性が高い。

以上の仮説に基づき、以下のモデルを提示する。

図表 4-1: 仮説モデル

(筆者自作)

分析方法

仮説モデルを構成する変数は、「持続的イノベーション志向性」、「新市場型破壊的イノベーショ ン志向性」、「新価値創造型破壊的イノベーション志向性」、「顧客の行動観察の重視」である。提 示した構成概念を直接的に観測することが難しいと考えられている。そこで、本研究では、共分 散構造分析方法を用いて仮説を分析する。共分散構造分析とは、観測データの背後にある、さま ざまな要因の関係を分析する統計手法である。ここで要因と呼ばれるものには、数値として直接 には観測できない概念的なものが含まれており、潜在変数という。一方、質問紙調査をはじめと した情報収集によって得られたデータのことを、観測変数、或いは測定変数と呼んでいる(豊田,

2007:p.2)。

共分散構造分析には、これまでの分析手法と比較して優れている特徴がある。その中の大きな 特徴は、従来測定できないものである「構成概念(潜在変数)」を「観測変数(測定変数)」で表すこ とができるところである。また、「複雑な関係をパス図で表現できる」と言うところもある。パス 図とは、先に述べた構成概念(潜在変数)と観測変数(測定変数)との関係を、図を使って表現したも のである。このパス図を使うことによって、今までの分析手法を、数式を使わずに表現できるた め、第三者に対し自分の研究仮説を分かりやすく伝えることができる(豊田, 2007 : p.2)。本研究に おいては、共分散構造分析をAMOS(AMOS 22.00)によって分析する。

構成概念の定義と観測変数の提示

仮説モデルを構成する変数は、「持続的イノベーション志向性」、「新市場型破壊的イノベーショ ン志向性」、「新価値創造型破壊的イノベーション志向性」と「顧客の行動観察」、である。これら は直接的に観測することが困難であると思われる。

持続的イノベーションの志向性

持続的イノベーションの志向性とは、既存技術発展の軌道に沿って、製品・サービスの性能を 向上する志向・能力である。企業は競争優位性を保つために、持続的イノベーションの促進を通 じて、他社と比べながら、既存製品・サービスの改善・改良を重視し、製品の完成度や性能・機能 の向上を求めている。。例えば、主流顧客あるいは既存顧客のニーズを満足するために、製品の性 能を向上したり、機能を増やしたりするために行ったイノベーションは持続的イノベーションで あると考えられる。従って、持続的イノベーションは、製品・サービスの「性能・機能高度化の重 視(設備開発投資)」程度、製品・サービスの「完成度向上の重視」程度と競合他社と比較した「製 品・サービスの完成度」の程度で測ることが可能であろう。

図表 4-2: 「持続的イノベーションの志向性」の測定変数

項目 設問文 1 6

性能・機能高度 化の重視(設備 開発投資)

貴社は、既存事業分野におけ る設備投資決定する際、性 能・機能の向上をどの程度明 確に意識していますか。(II-19-1)

あまり強調してい

ない 明確に強調している

製品・サービス 完成度向上の重 視(自社)

貴社の製品・サービス開発で は、製品・サービスの完成度

(製品の安定した動作や確実 なサービス提供)の向上をど の程度重視していますか。

(III-3-1)

あまり重視してい

ない 最も重視している

製品・サービス の完成度(競合 他社と比べる)

貴社の製品・サービス開発で は、現在の製品・サービスの 競合他社と比べた完成度はど の程度とお考えですか。(III-3-2)

競合他社の完成度 には遠く及ばない

競合他社よりも極め て高い完成度になっ ている

新市場型破壊的イノベーションの志向性

新市場型破壊的イノベーションを、「無消費」、つまり消費のない状況に対抗するイノベーショ ンとして捉えている。(Christensen,2003,p.57)新市場型破壊的イノベーションの志向性とは、「非 消費」をターゲットとして市場を開発する破壊的イノベーションの志向・能力である。新市場型 破壊的イノベーションのターゲットは市場の主流顧客ではなく、全く新しい顧客である。さらに、

新市場型破壊的イノベーションは実現できるかどうかのキーポイントは非消費を消費に変わるこ とができるかどうかということである。市場の既存製品に対して、制約条件があるため、購買し ない状態に陥る。すなわち、非消費を消費に変わるために、制約条件特に製品の利便性の向上を 通じて、だれでも簡単に利用できることが非常に重要である。

従って、新市場型破壊的イノベーションの志向性は、「従来顧客と見なされていなかった新顧客 の重視」程度、「従来顧客と見なされていなかった新顧客の発見」程度、「製品の使い勝手の向上 の重視」程度と「製品の使い勝手の向上の実現」程度で測ることが可能であろう。

図表 4-3 : 「新市場型破壊的イノベーション志向性」の測定変数

項目 設問文 1 6

従来顧客と見 なされていな かった新顧客 の重視

貴社は、従来貴社の製品・サービスを購入し ていなかった新たな顧客の開拓をどの程度重 視しますか。(Ⅱ-11-1)

あまり重視し ていない

最も重視してい る

従来顧客と見 なされていな かった新顧客 の発見

貴社は、従来貴社の製品・サービスを購入し ていなかった新たな顧客の開拓を実際どの程 度開拓できていますか。(Ⅱ-11-2)

開拓できなか った

全て既存顧客に なった

製品の使い勝 手の向上の重 視

貴社の製品・サービスの開発では、旧来製 品・サービスよりも使い勝手が向上すること をどの程度重視していますか。(III-4-1)

あまり重視し ていない

最も重視してい る

製品の使い勝 手の向上の実 現

貴社の製品・サービスの開発では、現在の製 品・サービスは、5年前の旧来製品・サービ スよりどの程度使い勝手が向上したとお考え ですか。(III-4-2)

競合他社の使 い勝手には遠 く及ばない

競合他社よりも 極めて使い勝手 が良くなってい る

新価値創造型破壊的イノベーション志向性

新価値創造型破壊的イノベーション志向性とは、顧客に新しい価値の提供を目指して、他社に 先駆けて顧客の潜在ニーズを重視したハイエンドの新市場を開拓する志向・能力である。新価値 創造型破壊的イノベーションにより開発した製品・サービスは、今までのない製品をゼロから開 発した製品である。従って、製品を普及するために、どのような場合で使えるか、あるいは、ど のように使うかなどの情報を顧客に伝えなければならない。すなわち、新価値創造型破壊的イノ ベーションの指向性は、「顧客教育の重視」程度、「顧客教育の実施」程度と「画期的製品開発の 重視」程度で測ることが可能であろう。

ドキュメント内 大企業におけるイノベーション戦略 (ページ 128-139)

関連したドキュメント