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漫画の実例データ

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 55-58)

第 2 章 問題提起及び本論文の立場

2.3. データ

2.3.4. 漫画の実例データ

木下(1995, 1997b, 2000)は、2000年以前の漫画作品からラ抜き形の用例を収集して

分析を行った。しかし、個別の動詞の使用傾向を明らかにしたものの、動詞の活用形の 出現時期を指摘しただけで、ラレル形との比較は行っていない。また、木下の一連の調 査は、漫画作品の著者の出身地を限定せず、方言の影響の可能性を排除していない。

漫画のデータを使用するメリットとして、以下の点が挙げられる。

ⅰ)話し言葉に近い書き言葉であるため、ラ抜き形の研究に適していると思われる。小 説の会話文データを利用することも可能であるが、漫画データよりラ抜き形の出現 率が小さいので、収集するのが難しい。漫画のほうが小説より収集が容易である。

ⅱ)会話の環境をめぐって、様々な場合の会話が見られる。

ⅳ)話者の社会的属性が特定しやすい。

デメリットとして、以下の点が挙げられる。

ⅰ)手作業で収集するため、収集できる量に限界がある。コーパスと比べてデータの量 が少ない。

ⅱ)調査結果は登場人物のラ抜き形の使用実態というよりは作家のラ抜き形の使用意識 の反映である。

そこで本稿では、あらかじめ方言の影響を排除した上で、木下の調査よりも後の時期 である2000年以降に出版された作品(229冊20)に絞って用例を収集した、ラ抜き形と ラレル形の出現率の偏りを避けるために、調査対象の作品は若者向けの作品から成人向 けの作品まで、様々なジャンルから採用するように努めた。

本論文の各章では、このデータを用いて、先行研究の諸観点を検証するとともに、ク チコミデータやBCCWJモニター版では調査できない項目である話者の世代や性別及び 聞き手との対人関係などについても調査する。また、可能と意図成就の意味の違いが、

ラ抜き形とラレル形の使用傾向の差に関与するかどうか、また評価的表現との共起関係 の有無がラ抜き形とラレル形の使用傾向の差に関与するかどうかについても検討する。

また、漫画の実例データに基づいて調査した結果を先行研究と比較することによって、

2000年以前と2000年以降とでは、ラ抜き形の使用に変化があったかどうか、もしあっ たとしたら、どのような変化なのか、を考察したい。

ラ抜き形の使用は個人のコミュニティまたは地域によって多少差があると指摘され ている(国研1981, 井上1998ほか)。井上(1998)は昔から方言としてラ抜き形が使われ

20 実際、用例を集めるために、280冊の漫画作品を探したが、ラレル形及びラ抜き形が一例 も現れない作品を除き、残った229冊に限定した。用例の出典は付録(2)を参照。

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ている地域として、「北海道と中部地方、中国・四国地方など」(p.5)を挙げている。

これらの調査結果から、東京を含む関東地方は昔からラ抜き形を方言として使う地域で はないということが分かる。従って、本稿では漫画家の出身地を可能な限り関東(主に 東京都出身者、埼玉県、千葉県出身者の作品も追加して調査する)に限定することによ って、漫画のデータを分析する際に、ラ抜き形の使用への方言による影響を排除するよ う努めた。

2.3.4.1. 調査対象

「Yahoo!知恵袋」とは違って、漫画データは手作業で一つ一つ収集した。本論文で

は研究対象となる動詞を特に限定せず、漫画作品に出現している全てのラレル形及びラ 抜き形の用例を研究対象とする。

2.3.4.2. 用例の収集方法

対象とした漫画作品から使用されているすべての一段動詞及びカ変動詞「来る」のラ レル形とラ抜き形の用例を手作業で収集した。漫画作品に出現しているラレル形とラ抜 き形が含まれている用例を収集する時に、あらかじめ本章の研究対象とならないものを 除外した(除外した例は2.3節を参照)。

採用した用例のうち、補助動詞は別途集計する。補助動詞のうち、今回の調査対象と なるものは「あげる」「来る」の2つである。

I-1)「~てあげられる/てあげれる」

・「明日の水曜日出かける予定だったけど、キャンセルになったの だからカイちゃ んの面倒見てあげられるわよ」(ヒメ2)

・「ま偉そーなこと言っといてあいつ一人じゃ何もできないんだから ケガしてもウ チが治してあげれるし♡」(魔16)

I-2)「~て来られる/てこられる」「~て来れる/てこれる」

・「カペタ君」「え」「オレ全日本来れたら言おうと思ってたんだ キミと初めてたた かったあのレース トップを追い上げながら一緒に走ったラスト 5 周 オレの理 想の走りはあれなんだ…!」(カ7)

本動詞「来る」のラ抜き形である。

・「ああ、自分でも不思議だよ。収容所送りの列車に乗せられた時は、東京に戻って こられるとは思わなかった……」(20世紀18)

56 2.3.4.3. 分析方法及び分析項目

2.2節で示した各調査項目に基づいて、以下に、「漫画の実例データ」を用いて考察す る項目を挙げる。

① 言語外的要因

①-1 話者の年齢

①-2 話者の性別

①-3 場面・聞き手との関係

② 動詞の種類

②-1 動詞の語尾を除いた語幹音節数はいくつか

②-2 元になる動詞は上一段動詞か、下一段動詞か、カ変動詞か ②-3 複合動詞、補助動詞のラ抜き形が使用されているか否か

③ 肯定形か、否定形か

④ 主節か、従属節か

⑤ 可能の意味(可能か、意図成就か)

⑥ 構文中の位置(文のどこにあるのか)

⑥-a文中の場合 a 1 連体修飾用法の場合(「連体用法」) ・ノが下接する場合(「ノ」)

・ノ以外の名詞等が修飾を受ける場合(「名詞後続用法」)

a 2 連体修飾用法以外の従属節述語の場合(「連用用法」) 中止形の場合(「中止」)/テ形の場合(「テ」)/助詞ガ

下接の場合(「ガ」)/助詞カ下接の場合(「カ」)/助詞 ケド(ケレド)下接の場合(「ケド(ケレド)」)/助詞 シ下接の場合(「シ」)/助詞バ下接の場合(「バ」)/助 詞ホド下接の場合(「ホド」)/助詞タリ下接の場合(「タ

リ」)/助詞グライ下接の場合(「グライ」)/……等

⑥-b 文末の場合 b1 下接形式がない場合(「下接形式なし」)

b2 下接形式が有る場合21

終助詞ヨ下接の場合(「ヨ」)/終助詞ネ下接の場合

(「ネ」)/モノダ下接の場合(「モノダ」)/ノダ下接の 場合(「ノダ」)/ワケダ下接の場合(「ワケダ」)……な ど

⑦ 評価的表現と共起するか否か

21 ナイ・タ下接の場合を除く。

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なお、漫画データを用いて2.2節で示した調査項目のすべてを調査できるが、調査項 目「①-3 場面・聞き手との関係」の中の「文末が普通体か、丁寧体か」に関しては、

漫画データに出ている用例のほとんどが普通体であるため、これは割愛した。

次に分析の具体例を示す。分析項目①話者の年齢、性別、聞き手との対人関係」につ いては、次節以降調査結果を報告するため、以下、②、③、④、⑤、⑥、⑦の各項目に 関分析結果を例(50)~(52)のそれぞれの下に示す。

(50)「なのになんで・・・」「まえにインタビューで言ってただろ にんじん食べれる 人がタイプだって」(シュ2)

②-1 2 音節語 ②-2 下一段 ②-3× ③肯定 ④従属節 ⑤可能 ⑥名詞後続

⑦×

(51)「危なかった…サンターナがヒールリフトにきた瞬間は焦ったけど…止められて よかった」(キャG7)

②-1 2 音節語 ②-2 下一段 ②-3× ③肯定 ④従属節 ⑤意図成就 ⑥テ形

⑦評価的表現あり

(52)「さあいつとははっきりは言えないな でも引き受けた仕事の量からいって そ う簡単には帰ってこれないだろうな」(ハ3)

②-1 1音節語 ②-2カ変 ②-3補助動詞 ③否定 ④主節 ⑤可能 ⑥ダロウ

⑦×

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 55-58)