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今日の研究に求められること

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 36-39)

第 1 章 現代日本語のラ抜き形についての先行研究

1.6. 今日の研究に求められること

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という様子が窺える。ラ抜き形の使用が常に変化しているので、10年あるいは20年後 各地域の使用率がまた現在と違ってくる可能性が予想される。

4)場面・対人関係

松下(1924)では、ラ抜き形が「上一段、下一段、カ行変格皆そうなるが平易な説話 にのみ用ゐる厳粛な説話には用ゐない」(松下 1924:330)と記述されている。この記 述から、ラ抜き形が大正時代には主にくだけた会話で使われていたと推測される。加治 木(1996)は、1992年に実施した文献調査で、「見られる」・「見れる」の両方を使う「混 用派」もしくは「併用派」がほとんどであるとしている(pp.60-61による)。山県(1999) は群馬県の大学生 214 名を対象にラ抜き形に対する意識及び評価について調査した結 果、「公の場」か「私の場」かによってラ抜き形の使用に対する許容度が違うと指摘し ている。具体的には、ラ抜き形が話し言葉として「親しい人」「友達」「親」などの会話 に用いられるのは許容されるのに対し、「作文」「レポート」「書き言葉」の場面及び公 的な場としての「TVのニュース」「放送」「意見を述べるとき」「受験や就職の面接」「大 勢の前でのあいさつやスピーチ」などの場では使わない、或いは使うべきでないという 認識が見られたと述べている(p.181)。山県(1999)の調査から、ラ抜き形が現時点に おいては場面によって使い分けられているが、自分と同世代或は自分より目下、年下の 人に対するくだけた会話の場面ではより多くの人に許容されていることが分かる。以上 のことからラ抜き形が書き言葉よりも話し言葉、かしこまった場面よりもくだけた場面 に多く用いられている現況が窺える。木下(1997b, 2000)は漫画データに出現している

「見れる」と「投げれる」のそれぞれの使用場面や使用相手について調査した結果、「見 れる」も「投げれる」も同世代または自分より下の世代に対して、即ち「気のおけない 親しい仲間との砕けた」場面ではよく使われ、「上の世代に対するかしこまった場面で は『投げれる』は使いにくい」(p.210)と述べている。 しかし、ラ抜き形に対する評 価及び使用率に関する先行研究は多いのに対して、ラ抜き形の具体的な使用場面や用い られる相手を調査対象とする研究はまだ少ないようである。

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定の構文的位置に現れる場合のみを対象とした調査は、言語使用の実態を十分に反 映していないおそれがある。現代日本語における一段動詞及び「来る」の可能の使 用実態を考察するためには、実例に基づいた調査が必要である。

ⅱ.今世紀におけるデータに基づいた研究

ラ抜き形に関する先行研究はほとんど2000年以前のものであり、2000年以降行わ れたものが極めて少い。ラ抜き形の進行中の変化の様相を明らかにするためには、

2000 年以降の研究資料を用いて、2000 年以前と比べて、現時点においてラ抜き形 の使用に変化があったかどうか、あるとすればどのように変化してきたのか、を調 査する必要がある。

ⅲ.話し言葉に近いデータに基づいた調査

従来の先行研究においては、自然会話に基づいた研究が極めて少ない。個別の場面 における会話データに基づいた調査から得られた結果に偏りが生じている可能性 が高く、今後話し言葉に近いデータに基づく調査が要請される。

ⅳ.様々な会話の場面におけるデータに基づいた研究

従来の研究においては、ラ抜き形の使用場面や話者の対人関係などに関する研究も 多くなかった。従来の先行研究により、ラ抜き形がラレル形と併用されているのが 現状であると指摘されている。また、ラ抜き形が「私的な場」、「親」「下位場面」

での使用が許容されていて、例えば、「見れる」も「投げれる」も同世代または自 分より下の世代に対して、即ち「気のおけない親しい仲間とのくだけた」ではよく 使われ、「上の世代に対するかしこまった場面では『投げれる』は使いにくい」と の結果を得ている。このように個別の動詞の場面・場所によるラ抜き形の使用の実 態をある程度明らかにしたものの、まだ十分ではない。今後様々な会話の場面にお けるデータに基づく調査が必要である。

ⅴ.方言の影響を排除した研究

漫画データに基づいた木下の一連の研究は研究資料とされている漫画作品の著者 の出身地について限定していない。方言の影響が考慮されていない。

ⅵ.定量的調査が必要

容量が決まっていて、統計処理を行うことができるデータによる定量的調査が必要 である。

ⅶ.網羅的な調査項目を備えた研究

従来の先行研究においては、調査対象とする動詞の内訳、調査目的、調査方法が様々 であり、調査結果も一致しているわけではなかった。網羅的な調査項目を設けた調 査が必要である。

ⅷ.可能・意図成就の意味の違いに注目した研究

従来の先行研究では、可能表現の意味の下位類である可能と意図成就がまったく注 目されていない。可能と意図成就の意味の違いがラレル形とラ抜き形の使用傾向の

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差に関わっているか否かを調査する必要がある。

ⅸ.評価的表現との共起関係の有無に注目した研究

従来の実例による調査研究においては、ラレル形とラ抜き形の使用に評価的表現と の共起関係の有無が関わっているかどうかという調査がまだなされていない。ラ抜 き形とラレル形の使用傾向の差に、評価的表現との共起関係の有無が関わっている かどうかを調査する必要がある。

ⅸ.ラレル形との対照研究

従来の研究では、アンケート調査のほとんどがラ抜き形とラレル形を調査対象とし ているが、実例に基づいた研究では、筆者の管見の限りでは、佐野(2009)で研究 資料に出ているラ抜き形とラレル形のそれぞれの用例数と比率を報告している以 外は、ラレル形との対照による調査研究がほとんどない。従って、ラ抜き形の経年 変化またはその使用傾向を見るためには、ラ抜き形のみを対象とするのではなく、

ラレル形と対照した上で、調査研究する必要があると思われる。

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