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第 2 章 実験装置 15

2.6 温度可変イオントラップ

あらかじめ十分に内部エネルギーを下げた巨大分子イオンをリングに入射するため,温 度制御可能なイオントラップの開発を行った.低温分子イオンに波長可変レーザー光を入

2.6 温度可変イオントラップ 31 射することにより,任意の内部エネルギーに励起された分子イオンをイオン蓄積リング内 に生成でき,内部エネルギーと崩壊寿命の相関という最も基本的な情報を定量的に得るこ とが期待できる.また,四重極質量選別器の下流に設置することにより,蓄積後に質量選 別器の透過によって目的のイオンを損失することが避けられる.水和分子イオンのよう に,生成されるイオン全体の中でマイナーな成分のイオン種を他のイオン種と同時に蓄積 してしまうと,目的のイオンの蓄積量は大きく抑制されてしまう.質量選別後にトラップ することにより,そのような問題は解決される.

5 連の八重極型イオンガイドを制御するため製作を行った RF 発振回路の説明は

2.3.1 節に示したとおりである.それぞれの八重極イオンガイドへ異なるDC FLOAT

VOLTAGEを印加するため,OSCILLATOR部からの出力を3つに分岐し,それぞれ異

なるOUTPUT CIRCUITへと接続した.現在は上流部より1つ目と2つ目を1セット,

また4つ目と5つ目を1セットとして,それぞれ同じRFを印加している.

2.28 温度可変イオントラップ

potential

2.29 イオントラップ模式図

今回,開発を行ったイオントラップの構成を図2.28に示す.イオン輸送部は 5連の八 重極型イオンガイドで構成されており,上流より 3番目のイオンガイドの両端に内径 9 mmのリング状電極を設置し,イオンの蓄積・掃き出しを行うことができる.真空が悪 くなるのを避けるため,バッファーガスはパルスバルブ(オリフィス径0.79mm, Parker

Hannifin)を用いてパルス的にガスセルへと導入した.パルスバルブを動作させるための

ドライバーの回路図を図2.30に示す.可変抵抗によりガスの導入時間を制御することが できる.

SN74LS221N SN7433N Vcc

16 7 6 2Cext

2Rext/Cext

2Q 5

2B

11 2CLR Pulse IN 10

2A GND 8

9

180Ω

1kΩ

6

GND 7 2A

2B

5

Vcc 14

Vcc

2 1A

3 4 2B 620Ω 2Y

1Y 1

2SD822 C1505

HV IN

OUT

10μF

2.30 パルスバルブドライバーの回路図

ガスセルは4 K以下まで冷却が可能なGM冷凍機(住友重機械工業株式会社,

RDK-408D2)の先端に載せた.冷凍機とトラップの間にはヒーターも内蔵し,10〜100K程度

の範囲で自由にトラップ温度を変化させることができる.イオントラップにはHe バッ ファーガスを導入し,このガスとの多重衝突を通じて,蓄積イオンの内部温度をトラップ 壁面と同じ温度まで熱平衡化させる.一定時間蓄積した後,イオンをバンチとして取り 出す.

2.6.1 スイッチング回路

イオントラップからイオンをパルスとして取り出すためには,出口レンズのポテンシャ ルを周期的に上下させる必要がある.出口レンズに周期的に電圧を印加するため,スイッ チング回路の製作を行った(図2.31-2.33).動作テストを行ったところ,出力パルスは立 ち下がりが約 80 ns,立ち下がりが約5 µsとなった(図2.34).VH はアース,VLには 20 V印加し,TTL INには10 Hz,20 µのパルスを入力した.

2.6.2 ガス圧依存性

2.6.3 トラップイオン量の見積もり

イオントラップから掃き出したイオン量を見積もるため,イオントラップ下流側に簡易 的はファラデープレートを設置し,電流アンプ(1211 Current Preamplifer, ITHACO) を用いてイオンの電流を電圧に変換し,出力波形をオシロスコープ(USB5133)で観測 した.イオンを効率よく収集するために,電池を用いてファラデープレートに-18 V印加 した.

2.6 温度可変イオントラップ 33

AC 100 V YS 505A FG

V+

V

-VH

300 Ω 10 kΩ

6N137

2 3

7 8

6 5 TTL IN

0 5

0.03 μF

3.3 kΩ

3.3 kΩ COSEL

VL

VL

VL + 5 V

2SC1815 OUTPUT

VH

VL

2.31 スイッチング回路の回路図

2.32 回路写真1 2.33 回路写真2

イオンラップ出口電極に印加しているパルス電圧の印加タイミングを変化させることに より,イオンの充填時間を変化させた.イオンの掃き出し時間は40 µsとした.その結果 を図2.35に示す.イオンの充填時間を長くすることによりトラップイオン量は増加し,

10秒で最大値まで到達することが分かった.このとき,イオントラップ内には約108 個 のイオンが蓄積されていると見積もることができた.イオントラップを設置する以前は,

イオン量が少なくファラデープレートでは観測できなかったため,セラトロンを用いて増 幅したものを観測していた.セラトロンの増幅率をきちんと見積もることが困難なため,

イオントラップ設置前後の定量的なイオン量の比較はできない.

2.34 上:入力パルス,下:出力パルス

-8 -6 -4 -2 0

voltage / V

1.6x10-3 1.4

1.2 1.0

0.8 0.6

0.4

time /  s

10-8 A/V

0.1 秒 0.125 秒 0.167 秒 0.25 秒 0.5 秒 1 秒 2 秒

20 秒 10 秒

2.35 蓄積時間依存性

2.6.4 イオンバンチ幅の見積もり

イオントラップから掃き出されたイオンは,ポテンシャルスイッチを通過する際に10 µsのパルス幅に切りだされてしまうため,できるだけ細いバンチにする必要がある.ト ラップイオンの掃き出し時間を変化させることによりバンチ幅を見積もった.測定方法は トラップイオン量の見積もりの場合と同様である.イオンの充填時間は10秒とした.

2.6 温度可変イオントラップ 35

voltage / V

time / s

10-8 A/V -5

-4 -3 -2 -1 0

2.0x10-3 1.8

1.6 1.4

1.2 1.0

0.8 0.6

0.4

1 ms 800 us 600 us 400 us 200 us 100 us 80 us 50 us 30 us 10 us

2.36 掃き出し時間依存性

トラップイオン量の掃き出し時間依存性を図2.36に示す.掃き出し時間を短くしてい くとバンチ幅が短くなっていき,80 µs付近から最初に立ち上がるピークの値も減少して いくことがわかった.これは掃き出し時間がパルス幅よりも短くなってしまったことで,

イオンが掃き出しきれなかったためである.これより,掃き出しイオンの最初に立ち上が る鋭いパルスの幅は約80µsと見積もることができる.

また,イオントラップ出口レンズの掃き出しのタイミングと同時に入口のレンズにもパ ルス的にイオンを押し出す電圧を印加することにより,パルス幅が狭くなると考え,パル ススイッチを別にもう1つ製作した.結果として,電圧やタイミングをいろいろと変化さ せてみたが,パルス幅はほぼ変化しなかったため,入口レンズのパルススイッチは取り外 した.

2.6.5 イオントラップの冷却テスト

He 温度まで冷却されるトラップ本体にはSi ダイオードの温度センサー(LakeShore 社,DT-670-CU),約70 Kの第1ステージに接続された熱シールドにはクロメル・アル メルの熱電対を取り付け,温度をモニターした.温度センサーの配線の色は,I+(Clear), I-(Red),V+(Black),V-(Green)に対応している.Siダイオードの出力は専用のコ ントローラで温度としてみることができ,付属のCDに記録されている固有のカーブを用 いて較正を行った.また,温度センサーのコントローラのアナログ出力と熱電対の電圧は

DAQ(National Instruments, USB-6008)を用いてPCに取り込み,モニターした.ソ フトウェアはLabVIEWで製作した.

イオントラップ単体で冷却テストを行ったところ,冷却開始より 1時間半程度で 1st Stageでは70 K程度,2nd Stageでは3.8 K程度まで冷却することができた.(図2.37) 冷凍機稼働後,真空度は次第に上昇していき,その後は減少していった.その際,真空度 が急激に減少する部分が2箇所あった.これは,窒素などの成分が凝固点に達し,凍っ たためだと考えられる.また,冷凍機停止後,室温に戻るまでには3日程度かかった(図 2.38).

300

250

200

150

100

50

0

temperature / K

150 100

50 0

time / min

20x10-6

15

10

5

0

pressure / Pa

1st Stage 2nd Stage Pressure

2.37 冷却過程

また,ガスセルにHeガスを導入することで温度は徐々に上昇していき,2×102 Pa で2nd Stageの温度は5.4 K程度まで上昇した(図2.39).

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