第 3 章 巨大分子イオンの生成テスト 43
3.8 負イオンの測定
3×103
0
counts / 200 ms
400 300
200 100
0
mass / u 2
1
図3.17 CsI負イオン
測定を行った結果,ヨウ素イオン(I−,分子量127 u)と思われるピークを観測すること ができたが,I−(CsI)nのピークは観測できなかった.また,低分子量側に間隔が18 u程 度のいくつかのピークがみられたが,その同定はできていない.
3.8.2 単層カーボンナノチューブ( SWCNT )
カーボンナノチューブは炭素によって作られる六員環ネットワーク(グラフェンシー ト)が同軸管状になった物質であり,特定の分子量を持たない.チューブの短いものや,
生成の際に解離したものの観測,また炭素数(分子量)にマジックナンバーが存在するこ とを期待し,測定を行った.
試料調製
試料 :単層カーボンナノチューブ
(全長約100 nm) 溶媒 :水+界面活性剤 濃度 : 不明
図3.18 溶媒:水+界面活性剤
3.8 負イオンの測定 55 まずはじめに,質量分析用ではないが,あらかじめ水と界面活性剤を溶媒として調製さ れている試料溶液の質量スペクトル測定を行った.使用したカーボンナノチューブの試
料は全長100 nmとなるように作製されたものである.分子量の計算は不可能だが,C60
(分子量720 u)の大きさが0.7 nmだとして概算すると,分子量は105 u程度となる.四 重極型質量選別器で選別できる最大の分子量は 9000 uなので,解離していないものや,
一価のイオンを観測するには分子量が大きすぎる.
400
300
200
100
0
counts / 200 ms
800 600
400 200
0
mass / u
図3.19 溶媒:水+界面活性剤(キャピラリー温度=320◦C)
質量スペクトル測定を行った結果,分子量500 u以下に界面活性剤の成分だと思われる いくつかのピークが観測された.しかしそれより大きい分子量側では,炭素の分子量の倍 数でパラメータを調整したが,目立ったビークは見られなかった.考えられる問題のひと つとして,溶媒に界面活性剤を使用を使用していることがあり,これは著しくイオン化を 妨げる効果がある.
溶媒の変更
そこで試料の再調製を行った.文献 [18]より,カーブンナノチューブが緑茶に可溶で あると報告されており,これを参考にした.緑茶の主成分であるカテキン類はベンゼン環 を多くもつため,同様にベンゼン環を多くもつカーボンナノチューブと表面のπ電子によ り引きつけ合い,積み重なるように寄せ集まる性質がある.また,カテキン類は多くのヒ ドロキシ基をもつため,親水性があり,カーボンナノチューブと水をつなぐ役割をする.
緑茶は,文献 [18]と同様に「伊右衛門 濃いめ」を使用した.またカーボンナノチューブ
は,前回とは異なるものを使用しており,全長は不明である.これより溶媒を以下の2種 類に変更した試料溶液の調製を行った.
(1)緑茶のみ
(2)緑茶:アセトニトリル=8:2
調製方法は2種類とも同様であり,まず試料に溶媒を加え,濃度 2.5 g/lとした.それを 超音波破砕機に1時間かけた後,遠心分離機に1時間かけ分離し,上澄み液を抽出した.
図3.20 伊右衛門 濃いめ
図3.21 溶媒:(左)お茶(右)お茶+ア セトニトリル
調製した2種類の試料溶液について質量スペクトル測定を行ったが,やはり目立った ピークは観測されなかった.分子量2000 u程度まではいくつかのピークが観測されるが,
さらに大きい分子量では,カウントがほとんどなくなってしまう.また溶媒による違いも ほとんど現れなかったことから,得られたスペクトルは緑茶の成分が観測されているのだ と考えられる.そこで試料を緑茶のみにして測定を行い,カーボンナノチューブが溶けて いる場合と比較したものを図 3.22に示す.試料を緑茶のみとした場合は全体的にカウン ト数が減少しているものの,観測できるピークはほぼ同じである.
LDI-TOFによる測定
四重極型質量選別器では選別可能な分子量に制限があるため,飛行時間型
(Time-of-Flight, TOF)質量分析法による質量スペクトル測定を行った.イオンはレーザー脱離イ
オン化(LDI)法により生成した.
測定を行った結果,いずれの場合もESIイオン源によるスペクトルとは異なる結果が 得られた.図 3.23に示すように,低分子量側に炭素だと思われるいくつかのピークを観 測した.正イオン,負イオンともに溶媒を変更しても分子量400 u付近にピークが観測さ れるが,構造は不明である.
3.8 負イオンの測定 57
0
counts / 200 ms
2000 1500
1000 500
0
mass / u
6×103
5
4
3
2
1
緑茶のみ 緑茶+SWCNT
図3.22 緑茶成分の存在確認
3.8.3 フラーレン( C
70)
フラーレン(C70)の質量スペクトル測定を行った.試料の調製方法は,文献 [19]を参 考にした.ただこの文献で扱っているのはC60であるが,C70 の例が見つからなかったた め,同じ方法で調製を行った.ここで試料溶液に加えたテトラチアフルバレン(TTF)は,
フラーレンに電子を付加させ,負に帯電させる役割をもつ.文献 [19]通りに試料調製を 行ったところ,C70 やTTFの試料は溶解しにくかったのだが,時間をおくと全て溶解し た(図3.24).
キャピラリー温度,流量,針への印加電圧などのパラメータは文献 [19]を参考にし,質 量スペクトル測定を行った.結果,パラメータなどをいろいろと調整してみたが,フラー レン負イオンのピークを観測することができなかった.原因として,C60とC70では試料 の調製方法が異なる可能性や,使用したTTFは古い試料のため酸化してしまい,きちん と電子が付加しなかったことなどが考えられる.
また同様の方法でフラーレン(C60)の試料調製を行ったが,時間をおいても試料が完 全に溶解せず,失敗となった.
1000 800
600 400
200 0
mass / u
intensity
1000 800
600 400
200 0
mass / u
intensity
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3×104
intensity
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3×104
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3×104
水+界面活性剤
緑茶+アセトニトリル
緑茶
正イオン
正イオン
正イオン
負イオン
負イオン
負イオン
図3.23 LDI-TOFによるSWCNTの質量スペクトル
3.8 負イオンの測定 59
試料調製
試料 :フラーレン(C70)
溶媒 :CH2Cl2 / C6H5CH3 = 19 / 1 濃度 :6.7×10−5 mol/l
分子量 :840 g/mol
図3.24 C70 溶液
61
第 4 章
水和メチレンブルーの生成と構造 計算
色素分子であるメチレンブルー正イオン(MB+)の質量スペクトル測定を行った.
MB+ も過去にTMU E-ringによって周回させ,分光測定を行ったことのある試料であ
る.そのときは,LDI法によってイオンを生成していたため,イオン生成時はもちろん,
長時間蓄積の後でさえイオンの内部温度が1000 K以上という高温領域にあった.ESI法 によりイオンを生成することにより,内部温度が比較的低い分子に対する測定が期待で きる.