第 5 章 モデル実現の容易さに対する比較手法の提案 60
5.3 比較手法
Operatorに対してKLM法を適用することで,具体的な動作にかかる時間を推定するこ とができる.KLM法では,打鍵やマウスカーソルの移動などに対して,実測した値から求 められた期待値を設定しており,必要とされるOperatorから作業時間を予測することが可 能となる.
GOMS法の派生として,実行時間だけではなく手法の習得時間も定量化して予測できる Natural GOMS Language[63]や,同時並列処理されるタスクに対応したCPM-GOMS[64]
などがある.
シミュレーションのモデル作成のように純粋な動作やそれに伴う思考時間だけではなく,
よりメタ的な思考や判断を要求される作業に対しても,GoalとSelection Ruleの工程をよ り詳細に分析し,GOMS法やその発展系を用いて解析することは可能であろう.しかしそ のような解析には非常に手間がかかり,また解析者によってどのような作業がどのような 思考過程で行われるかの判断が異なる事が予想される.
★ ユーザテスト
ユーザに実際にアプリケーションやシステムを使用してもらい,その作業時間などを計 測し,評価するユーザテストによってユーザビリティの評価を行う方法も存在する[46].テ ストにあたってはいくつかの課題を用意し,課題ごとの達成率や作業時間を比較する.
アンケートなどの他の手法と組み合わせる事で,多面的な評価が可能であり,作業時間 という定量的な評価を得られる利点がある.しかし,実施にあたっては被験者の確保や,実 施条件の統一,作業時間の確保など ,費用や時間的なコストが重い問題がある.
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図 5.1 GOMS-KLM法による作業時間の分析 5.3.1 作業時間と思考時間の分離
GOMS法での分析の例を図5.1に示す.この例では指定の場所に文字を入力するという 課題に対し,課題をGoalとして認識し,そのGoalを達成するためのSub Goalを展開して いる.そして,Selection Ruleに従ってそれぞれのSub Goalを達成するためのMethodを 決定している.
たとえば Sub Goal1では,対象となる箇所を “クリックすることで選択する”という
Method1を採用し ,Method1に必要なOperator系列を呼び出し ,実行している.このと きGoalの認識,Selection RuleによるMethodの採用といった部分に課題達成のための思
考時間が当てられ,Methodの呼び出しとOperatorの実行の部分においては,実際の作業 のための認知や動作が行われる時間が当てられる.
このようにOperatorとMethodを作業全体から切り出すことで思考時間と作業時間を分 離することが可能となる.そこでGOMS-KLM法を用いて,比較的計測しやすい作業時間 や思考時間でユーザの使用感を定量的に測る方法を考えた.
複雑な解析をせずに得られる値として,一般的に用いられる作業効率の指標である総作 業時間,Operator作業にかかった時間に加え,本研究では総作業時間からOperator作業 時間をひいた残余時間の三つを指標として評価を行った.
総作業時間は一般的なユーザビリティ評価の指標として知られているのに対し,Operator の作業時間は実際にモデル作成者が行ったOperatorとMethodの時間となり,残余時間は モデル作成作業時に考える時間として消費された時間となる.これらの値を計算し,より ユーザの主観的評価に則した指標を探索した.
5.3.2 KLM法によるOperatorの推定
実際にユーザテストを行い,作業内容の録画データをもとにログ解析をおこなった.
作業内容を動画で保存 図 5.2 実験配置
作業中の配置は図5.2のようになっており,実験者は被験者の邪魔にならない後方に待 機し,作業中の画面と作業の録画を行った.ログ解析では,各作業で経過した時間やマニュ アルやヘルプを参照した時間などを計測することはできるが,Operatorの途中で随時挿入 される思考の時間を取り出すことが難しい.そこでログの作業内容をもとにKLM法に準
拠してOperator作業を解析し,費やされた時間を算出した.
本来のGOMS-KLM法が想定している作業は,エラーを含まないものであり,また想定
されるユーザは課題となる作業に対して熟練しているものと仮定されている.しかし今回 の実験では純粋な作業にかかった時間の指標とするため,作業中に発生したエラーも含め たすべての実際に行われたOperatorを,KLM作業時間として計算した.
各Operatorにかかる時間は次のように定義した.
M:心理的準備時間(1.35秒)
H:マウスとキーボード のもちかえ(0.4秒)
P:マウスカーソルを目的の位置に移動する(1.1秒)
B:マウスのボタンを押すまたは離す(0.1秒)
K:キーボード を打鍵する(0.28秒)
KLMの各Operator作業時間は,実験時の条件に応じて変化するが,本研究では指標と
してのKLM作業時間の利用を考えたため,標準的とされる時間を採用して操作にかかっ た時間を推定することにした.
録画データの具体的な作業工程をもとに,そのOperatorをKLM法で解析し,各Operator の時間を合計することでKLM作業時間を算出した.モデル作成の方法論は人による個性 が存在するため,最適なSelection Ruleでない場合でも排除していない.