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第 5 章    モデル実現の容易さに対する比較手法の提案 60

5.2 ユーザビリティの枠組み

シミュレーションシステムの使いやすさには,UIに対する評価と,概念的なモデルを実 装レベルで実現するモデル実現の容易性の両方が含まれると考えられる.そのため,シミュ レーションシステムの使いやすさの度合いを一元的な尺度でに測ることは難しい.

複数のシステムの機能や条件ごとの有用性を比較している文献も存在し[15] [23],処理 速度やどのような機能を持っているかという点を中心に考察されている.しかし,これま での比較研究は,あくまでもシミュレーションシステムの機能評価に留まり,モデルの実 現容易性の評価はなされていなかった.モデルの実現容易性を定量的に評価する方法を考 え,ユーザの主観的な評価とあわせて比較する必要があると思われる.

5.2.1 ユーザビリティの定義

本研究ではモデルの実現容易性についてユーザビリティの評価手法を援用して評価する ことを考えた.

ISO9241-11の定義を元にユーザビリティを見てみると「特定の利用状況において,特定

のユーザによって,ある製品が,指定された目標を達成するために用いられる際の,有効 さ,効率,ユーザの満足度の度合い」と定義されている.

“有効さ”は目標達成の度合いであり,課題の完成度を評価する完全性と,課題の成果物

に含まれるエラー率を評価する確実性の二つに分けられる.“効率”は作業の速さの評価で,

作業時間や工程数で評価することが一般的である.“満足度”はアプリケーションやシステ ムの使用に対するユーザの肯定的な態度で,主観的評価を用いて評価することが多い.

この“有効さ・効率・満足度”といった枠組みを利用し,シミュレーションシステムのモ

デル実現容易性を評価する.

5.2.2 ユーザビリティの評価手法

ユーザビ リティを評価する手法には様々なものがあり,実施する際の時間的,金銭的コ ストや,問題点の抽出と対象の評価のど ちらに重点をおくか,によって選ぶべき手法も変 化するだろう.

そのため,複数の手法を組み合わせて用いることでより多面的な評価が可能である一方,

簡単な調査によって必要な情報を得られる評価手法もまた重要である.

★ インスペクション法  

インスペクション法では,ユーザがアプリケーションやシステムを使用した時にど う考 えるかを想定して,問題点を抽出する手法群である.その中の一つであるエキスパートレ ビューではユーザビリティに詳しい専門家が,自らの知見に基づいてユーザビリティを評 価,あるいは問題点の抽出をする.

評価にあたってはNielsen博士の提唱するガ イド ラインのように,項目を用意して多面 的な評価を行っていくヒューリスティック評価も行うことができる.さらに項目を細分化,

多面化した構造化ヒューリスティック評価法[55]も存在する.人間の認識力では,Nielsen の10項目に同時に注意を注ぐことは難しいため,構造化ヒューリスティック評価法では各 側面ごとにセクション化して評価を行っている.

★ 生理指標  

ストレスの影響によって変化する“血流”,“心拍”,“体表面温度”,“発汗”などといった 各種の生理的な指標を計測することで,作業内容の負荷を評価する手法である[56].

生理的指標をもとに,作業に対するストレスの度合いを調べることができ,その値によっ て作業がユーザの負担になるかど うかを評価することができる.

しかし,生理指標の取得は専用の実験器具を使用するなど ,実施にあたって多くの準備 を必要とし,さらにそれらの指標の計測自体が,ストレスの要因とならないように配慮し なくてはならない.

★ アンケート  

ユーザの主観的な評価をアンケートによって聴取し,評価の指標の一つとする手法であ る.聴取にかかる手間が比較的少なく,被験者に負担がかかりにくい利点がある.

一方で主観的な評価であるため,質問のタイミングや内容によって回答結果に影響が出 ることが考えられる.質問内容に偏りが出にくい,広く公開されている既存のアンケート 用紙をもちいて,ユーザビ リティを評価することも可能である.

アンケートは操作のわかりやすさや,画面の見やすさなどを,一般的には3〜7段階程度 で判断して貰うものが多い.それぞれのアンケートはユーザビリティを計測する対象にあ わせて設計されており,多くのものが有料である[57] [58].特定の対象を設けずに,一般的 に用いることを目的としたものもある[59].また既存の多くのアンケートは外国語で作成 されており,日本語を母国語とする被験者ではアンケートそのものがストレス要因となっ てしまう可能性が考えられる.

ユーザビ リティを直接計測するもの以外にも,疲労度を主観的に評価し [60] [61],作業 内容があたえる疲労の度合いをユーザビ リティの指標の一部とすることも可能である.

株式会社イード,株式会社富士通などが提供しているWEBユーザビ リティアンケート [62]では,以下のような手順でアンケートを作成している.

(1) 既存のアンケートなどを参考に質問項目を列挙し,サンプルとなるアンケートを 実施する

(2) そのアンケート結果を因子分析し,解釈に用いる評価軸を選び出し,それぞれに 得点を与える

(3) ヒューリスティック評価を行い,その結果と比較して妥当性を検討

このような手順で対象とするシステムのユーザビリティ評価を行うアンケートを作成す る事は可能だが,アンケートの開発には非常にコストがかかるという問題がある.

GOMS-KLM法  

GOMS法では,想定される作業の内容をGoal,Operator,Method,SelectionRuleに分 解し,その工数を評価する.

(1) Goalは,課題やその作業の目的の認識であり,さらにそのGoalを実現するため のSubGoalに分解することができる.

(2) Operatorは,実際に行われる動作であり,マウスカーソルの移動やキーボード の

打鍵などの具体的な動作である.

(3) Methodは,Selection Ruleで選ばれた一連の動作を遂行するため,必要となる Operator系列の呼び出す作業である.

(4) Selection Ruleは,Goalを達成できるMethodのうち,どのMethodを採用するか を決める.

Operatorに対してKLM法を適用することで,具体的な動作にかかる時間を推定するこ とができる.KLM法では,打鍵やマウスカーソルの移動などに対して,実測した値から求 められた期待値を設定しており,必要とされるOperatorから作業時間を予測することが可 能となる.

GOMS法の派生として,実行時間だけではなく手法の習得時間も定量化して予測できる Natural GOMS Language[63]や,同時並列処理されるタスクに対応したCPM-GOMS[64]

などがある.

シミュレーションのモデル作成のように純粋な動作やそれに伴う思考時間だけではなく,

よりメタ的な思考や判断を要求される作業に対しても,GoalとSelection Ruleの工程をよ り詳細に分析し,GOMS法やその発展系を用いて解析することは可能であろう.しかしそ のような解析には非常に手間がかかり,また解析者によってどのような作業がどのような 思考過程で行われるかの判断が異なる事が予想される.

★ ユーザテスト  

ユーザに実際にアプリケーションやシステムを使用してもらい,その作業時間などを計 測し,評価するユーザテストによってユーザビリティの評価を行う方法も存在する[46].テ ストにあたってはいくつかの課題を用意し,課題ごとの達成率や作業時間を比較する.

アンケートなどの他の手法と組み合わせる事で,多面的な評価が可能であり,作業時間 という定量的な評価を得られる利点がある.しかし,実施にあたっては被験者の確保や,実 施条件の統一,作業時間の確保など ,費用や時間的なコストが重い問題がある.