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第 3 章    シミュレーションシステム UFSfOM の開発 24

3.2 シームレス構造

3.2.1 シームレスなモデル作成の意味

★ 概念モデルと実際に動作するモデルの分割管理  

一般にマルチエージェントなシミュレーションシステムは,ボトムアップの考え方でモ デル作成が可能であると言われている.

しかし,それはエージェント単位からのボトムアップであり,エージェントそれぞれの モデル構築は,問題・要素の抽出や要求仕様の設計といったトップダウンと,実装レベル での制約をうけるモデル構築というボトムアップの双方からのアプローチが要求される.

そのためモデルの作成・構築に当っては,対話的にモデルを抽出し[47],図2.9で示した ようにトップダウンとボトムアップの双方のインターフェースが合致するような構造を模 索しながら,モデルの作成・構築を繰り返す必要がある.

多くのシミュレーションシステムでは,システムの側でトップダウンでモデル作成をで きる部分と,ボトムアップでモデル構築をできる部分に分離し,ユーザはその決められた 枠に沿ってモデルを構築しなくてはならなかった.

★シームレスなモデル作成・構築の必要性  

本来,モデルの要素をどの段階まで細分化して実装するべきかは,シミュレーションの 目的によって異なり,異なる段階でのモデル作成に対して,異なる手法でのモデル構築が 必要となる.しかし ,多くのシミュレーションシステムでは,“if〜then”の推論で実装レ ベルのモデルを記述しており,モデル作成者はその実装レベルの水準まで概念的なモデル を細分化・詳細化しなくてはならなかった.

このように,シミュレーションシステム側の都合によって一方的に上下の境界を定めら れている不合理さは,始めてシミュレーションの触れる初心者にとっては,越えがたい壁 と感じられると思われる.

そこで,トップダウンとボトムアップの間の線引きをシームレス化すると,実現したい モデルという概念的なモデルと,実際にモデル構築ツールを使って実装可能なモデルとの あいだに生じる差を,モデル作成者にもっともなじ む状態で実現することができると考え られる.

3.2.2 シームレス構造の実現

すでに述べたように本システムでは,PWCは下位の演算・判断構造を記述しているCBRF 構造を基本単位として構築する.

上位のPWC構造では,概念モデル作成の段階での各要素をFUとして分割管理してお り,FUインスタンスに対して割当てられるCBRFは,PWCを構成する際に読み込まれる 形となっている.

FUへのCBRFの割当てが自由自在  

PWC構造はオブジェクト指向プログラミングの形式を踏襲しており,CBRFによって 記述される実装レベルの構造を,容易に書き換えたり差し替えることを可能としている.

すなわち,概念モデルの各部分要素をモデル化する際に,実装レベルのモデルである CBRFを構築しながら,必要に応じて要素を分割し,ユーザが望む段階での要素を模索し ながらモデル構築を行うことを可能としている.

CBRF

CBRF PSEF

CBRF0

CBRF

CBRF

CBRF0

CBRF PSEF

CBRF0

CBRF CBRF

CBRFX

CBRF

CBRF

CBRF

PWC1

PWC0

PWC2

3.3 シームレス構造  

このように上位のPWC構造と下位のCBRF構造との間の線引きは,図3.3のようにモ デル作成者の自由に任されている.このシームレスな点が本システムの大きな特徴であり,

開発ツールであるPWC Editorはそれを可能としている.

ここでPWC構造が管理するFUは,シミュレーションシステム側から見た機能であり,

CBRFは実体を伴うモデルという位置づけになる.FUをインスタンスとして持つことで,

PWCでは同一のCBRFを別々のFUにおいて適用させることができ,オブジェクト指向 のモデル構築が可能となる.

CBRF構造も自由自在  

CBRF構造が管理するPEも,FUと同じようなインスタンスとしての機能名が付いてい て,FIUなどの演算処理機能の実体を持った素子を割当てることでモデルとして機能する.

このようなPWCレベルとCBRFレベルでの二重のインスタンスによって,ボトムアップ からトップダウンに至る上下構造のシームレスな結合を実現している.

図3.3中央のPWC0の部分で実現されている機能は,その小さなCBRFをそのままPWC1 に持ち込んでもよいし,この小さなCBRFをPEレベルで再構成してPWC1にCBRFXと いう統合されたCBRFとしてもよい.

すなわち,PWC0の部分の機能をPEの組合わせで設計するか,一度小さなCBRFとし て設計してPWC1に組込むかは,シームレスに境界を変化させて,モデル作成者にとって 理解しやすいものを選択できる.

PWC0の機能を小さなCBRFレベルでPWC1に組込むと,もし PWC0と同じ機能を2 個所以上で使いたいと思ったときは,面倒でも同じものを二つ以上書かなくてはならない.

一方小さなCBRFをPEレベルに分解してCBRFXを構築して組込むのも手間である.

これを強力にサポートするために,PWC Editorでは完全に動作確認が取れたPWC構造 を,CBRFとして出力する機能を有している.

すなわち,図3.3のPWC0をそのままCBRF0として出力できる.これにより同一の PWC0をさらに上位のPWC2の構成要素として複数個同時に使うことができる.

さらにこのシームレスな二重構造は,図3.4のようにPWCレベル,FUレベル,PEレ ベルの3段階のフィード バックを与えることを可能とし,モデルのメタ的判断・処理を実現 することが可能である.シミュレーションステップ毎のフィード バックと,ステップ内の 部分モデル同士でのメタ的フィード バック,そして部分モデル内部での素子同士のフィー ド バックの3つである.例えば ,前段のFUでメタ的な意志決定を行い,その結果に応じ て後段のFUでどのような振る舞いをするかを変える,といった際に,従来のCBRFでは シミュレータそのものを2重に動作させる必要があったが,それぞれ別のCBRFとして管 理することでその問題を解決している.

FU FU

FUインスタンスの内部

FU

FUレベルの

フィード バック PWCレベルのフィード バック

CBRF

PWC

PE

PEレベルの フィード バック

出力 入力

FU

PE PE

PE PE

3.4 フィード バック構造  

★シームレス構造の実装可能範囲  

本システムでは,部分モデルとなるFUの規模は図3.5に示すように,最小のものはCBRF

を構成するPEが一つからなるものから,単独でモデル全体を記述できるCBRFまで,モ デル作成者が任意に定めることができる.

このように,シームレス構造には限界が設けてないのが,本システムの特長である.

3.5 CBRFの規模  

トップダウンで作成できる範囲と,ボトムアップで構築できる範囲に,明確な線引きを 行わないこの方式によって,モデル作成者は自らの望んだように自由にモデルの要素を細 分化,あるいは結合すること,すなわちシームレスなモデル作成・構築が可能である.

そのため単一のCBRFのみによってモデル全体を記述することも可能であるが,あまり に複雑な構造になってしまうとグラフィカルに実装レベルのモデルを構築できる利点が失 われてしまう.そこでPWCによってモデルの役割をFUごとに分割管理する事で,CBRF は限られた役割を実現する機能のみを実装すればよくなり,オブジェクト指向なモデル構 築の恩恵を受ける事ができるだろう.

本システムでは上記のような方法で,プラットホーム側の要求に応じる形でのモデル構 築から解放され,よりユーザフレンド リなシステムと言える.この構造は,本システムの 考え方からのみ可能になったことで,他のシステムのGUIだけを弄っても,同様なことは 容易には実現できないと思われる.